第5話 敵はダンジョンにあり

 ダンジョン。


 それは人類が目指した理想郷。


 ここは冒険者達が拠点にしている宿場町から馬車で3時間ほど行った所にある、ゴールデンダンジョン。


 そのダンジョンの入り口で順番待ちをしている、1組の冒険者の男女が居た――。



「ウチと違って、まぁ豪華な入り口だこと」


 まず天然の洞窟を改造したダンジョン3丁目とは違い、こちらは天高くそびえ立つ塔のダンジョンだ。

 遠くの山からでも金色に輝く搭は凄い目立つ。配信者の間でもバエスポットとして有名だ。

 人気ダンジョンとあって挑戦する冒険者は後を絶たず、人が多い日は入るだけで12時間待ちなんてのもざらだ。


「もう3時間待ったわよ……全然前に進まないわね」

「やっぱ偵察なんて止めて、帰えろうよーエルちゃーん」

「代理と……いや、ここではそれでいいけど……スラミンはちょっと黙ってなさい」

「えー」


 外套で全身を覆い、フードを深く被り、顔は石仮面で覆っているので分かり難いが、男冒険者風の格好をしているのがスケサン(INスラミン)で、女魔法使い風のローブを着ているのがエル(ダンジョンエルフ)だった。

 変化の魔法で耳は人間風にしてあるので、パッと見ただけではエルフとは分からない。


「いくら近いからって、この冒険者の多さは異常よ。絶対何か理由があるはずだわ……」

「やっぱゴールドゴーレムが造ってるから、中に入ると金塊でも落ちてんのかな」

「ここのモンスターって全員金なんっすかね。あっ、そうするとウ〇コまで金色だったりして」

「トイレまで金だったらちょっと面白いな!」

「アンタら、一応レディの前でそんな下品な……」


 ちなみにどんなダンジョンも大抵は冒険者用のトイレは備え付けてある。

 さらにダンジョン協定として、トイレで用を足している冒険者は狙わない事になっている。


 ようはその辺の通路や部屋をトイレ代わりにされると、後で清掃が大変なのである。

 死体を片付けるにしても、トイレ中の死体なんて誰も触りたくないのである。


「で、最近どうなんですか。全然帰って来ないですよボス」

「定期的に連絡貰っているけど――これ他のモンスターに言わないでよ。奥さんが“最高品質の宝石”が欲しいってワガママ言ったらしくって……人間に化けて冒険者としてダンジョンに潜ってるらしいわ」

「ドラゴンのかかあ天下ってよく言いますけど、そんな事になってたんですか」

「今、奥さんが卵を温めているらしいから、他の事は全部ボスにやらせているらしいわ」


 ちなみにドラゴンは古来より“財宝”を巣に貯め込む事を趣味とする種族(※一部例外あり)であり、金銀財宝や宝石、魔法の書、古代の剣など――種族により傾向は違うが、それらを貯め込む。

 積んだ財宝=オスドラゴンとしてのステータスであり、メスドラゴンはその財宝の質を見極め、オスドラゴンと結婚を前提とした決闘を行う。

 その決闘に勝った方が結婚後の主導権を握れる――。


「ボス、負けたのか――」

「奥さん、とある貴族の令嬢らしいから……ドラゴンって純血なほど強いし」


 ウウウウウゥゥゥゥゥ――。


 聞き覚えのあるサイレンだ。

 ただこれは、目の前のダンジョンの方から聞こえる。


「な、なんだ!?」

「おいおい、なんだこの音」


 並んでいた他の冒険者もザワザワし始めた。

 本来は冒険者の襲来を知らせるサイレンだが、既に何人も冒険者が入っているはずのダンジョンから何故鳴るのか――。


 ドゴォォォン!!


「おい、あの塔の上!」


 誰かがそう言い、皆が塔の頂上へと目をやった。

 そこには巨大な金色のゴーレムと、冒険者の男が対峙していた。

 ボサボサの黒髪に赤いハチマキ、黒い外套。右手には禍々しいオーラを放つ片刃の大剣が握られていた。


「よくぞここまで来たな。オレの名はビッグゴールデンゴーレム! 奇跡の宝珠が欲しければ、オレを倒し――」

「必殺、魔焔極薩剣!!」


 ゴーレムがボス特有の前口上を喋っている間に、男は必殺剣を放っていた。

 その威力は絶大だ。

 ゴーレムを一瞬で真っ二つ――。


「ギギギ、ガガガ……お、のれ」


 ボォンッ!


 最後のセリフを放つと、ゴーレムはそのまま爆発した。


 煙が晴れると、そこには光り輝く丸い球が現れ、男はそれを回収した。


「……次だ」


 男はそのまま転送魔法でどこへ飛んで行ってしまった。


『えー、ゴールドダンジョンに並んでいらっしゃる皆様。大変申し訳ありませんが、ボスの復活まで5日ほど掛かるので、それまでしばらくお待ち下さい――』


 どこからともなくアナウンスが流れると、冒険者達は口々に文句は言いながらも解散していった。

 一部の冒険者は、ここに5日泊まり込むつもりなのか、キャンプの準備をしている者もいる。


「エルちゃん――あれってもしかして」

「言わないで」

「あれってボスじゃ……」

「……帰るわよ」

「はい」


 こうして何も成果を得られず、1人と2匹はダンジョン3丁目へと帰って行くのだった。


 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


本日遭遇した冒険者の紹介コーナー


謎の魔剣士


職業:???

レベル:???

武器:魔穿の剣


他不明――。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「……ボスって帰って来れるんですかね」

「子供生まれたら、さすがに帰って来るんじゃない?」

「……いや、ダンジョン荒らしとして指名手配犯になったりしません?」

「……後で連絡しとくわ」


 おわり。

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