第4話 スラミン、永久に眠れ
ダンジョン。
それは人類が探し求める秘宝の在処。
ここは冒険者達が拠点にしている宿場町から馬車で1日、停留所から徒歩3日の場所にあるダンジョン3丁目。
その洞窟1F最奥の部屋で、2匹+5匹の魔物が今日も暇な感じだった。
「スライム体操第1――いち、にー、さん、しー」
「ごー、ろく、しち、はちー」
スライムが5匹並んで、右にふよふよ、左にふよふよしている。
それらを指揮しながら、自身もふよふよしているの緑色のスライム、スラミン(ポイズンスライム)だ。
地面に寝っ転がりながら、それを暇そうに眺めているスケサン(スケルトンナイト)もいる。
「よーし。じゃあ1Fをジョギングだ!」
『了解しましたー!』
スライム達はぷよぷよと跳ねながらどこかへ行ってしまった。
「なにやってんだ……?」
「訓練っすよ先輩! またあの変態が出た時に備えて、1Fのスライム達に訓練付けてやっているんですよ……なんせオレ、ポイズンスライムっすから」
どのモンスターも階級が存在する。
スライムなら、ノーマル→ベス→アシッド→ポイズン→デッドリー→マスター……という感じに。
このダンジョンには他にもスライム達は配属されているが、1Fだとポイズンスライムであるスラミンが1番の出世頭となる。
「精が出るなぁ……」
「いや先輩こそ、頑張りましょうよ。仮にも中ボスですよ中ボス!」
「俺なぁ……寝てると、夢に小麦色のケツが……悪夢ばっか見ちゃって……寝不足なんだぁ……」
「スケルトンって寝るんだ……じゃなくて。もうしっかりして下さいよぉ!」
ウウウウウウウウゥゥゥゥ――。
静寂が支配するダンジョンに、サイレンの音がこだまする。
「スラミンさーん! 冒険者が来たみたいです!」
「よーし。腑抜けた先輩に代わって、オレが目に物を言わせて見ますよ!」
「おぅ――頑張ってなぁ……」
スラミンは仲間の5匹のスライム達を引き連れて、最奥エリア前の通路で冒険者を迎え撃つ。
「さぁ、来るなら来いッ!」
2時間後――。
「も、もしかしてここが階段のある部屋かな?」
「おっせぇぇぇえええよっ! もうお前がダンジョンに入ってから2時間も経過してるっつうのぉ!」
「う、うわぁぁスライムが6匹もぉぉぉ!?」
へっぴり腰の黒髪の青年は、ショートソードを構える。
胴当てや他の装備を見ても、それほど汚れておらず、ショートソードに至っては血の曇りが全く無いのである。
「カズト! 何いつまでもプルプル震えてのよ! ほら、スライムなんて雑魚なんだからパッパッとやっちゃって!」
カズトと呼ばれた彼の後ろに居たのはプリーストの女の子だ。
ウェーブの掛かった髪をかき上げながら、杖をスライムへと向ける。
「そんなんだからまだレベルも5なのよ。アタシなんかカズトがすぐ逃げるから、もうレベル12になっちゃったんだから!」
「ご、ごめんエイラ……」
「アタシ達もゴールドダンジョン挑戦したいんだから、早く雑魚モンスターで経験値貯めて、ほら」
雑魚モンスターとキッパリ言い切られてはさすがのスライム達も、
「てめぇこのアマ! スライムだからってナメてんじゃねーぞ!」
「そうだそうだ! ウチのスラミンさんなんか、陰で“女を素っ裸に引ん剝くむっつりスラミン”とか言われてるんだぞ! 怖いだろ!」
「――え、ちょっとその話、詳しく聞きたいんだけど」
抗議を訴えながらピョンピョン跳ねていた。
「エ、エイラを裸なんかに引ん剝くなんて、なんて下品なスライムだ!」
「はいティッシュ」
エイラから貰ったティッシュで鼻血を止めると、鼻声でカズトは吠える。
「い、行くぞぉぉぉぉ!」
「スラミンさん、見ててくださいね!」
「――陰でそんな呼ばれ方してんの、オレ……」
「うぉぉぉぉぉぉッ!」
「でやぁぁぁぁぁぁ!」
「たぁぁぁぁぁぁぁ!」」
叫び声こそ迫真の勢いだが、剣筋はヘロヘロである。
対するスライム達も、ピョンピョン跳ねながらたまに体当たりをしているのだが、カズトもヒョヒョロ動くので中々当てられていない。
「もっと相手をよく見て振りなさいよ!」
「お前達も、さっきのあだ名、まさかサキュバスの酒場まで話いってないよね?」
互いのセコンドから声援(?)が飛ぶが、しばらくして……どちらともなく後ろへ下がる。
「はぁ……はぁ……中々やるな」
エイラは片手で頭を抱え、ため息をつく。
スライム達も今ので体力を使い切ったのか、液体に近い状態になっている。
「スラミンさん……お願いします! ボク達じゃ……倒せません!」
「せっかく鍛えて貰ったのに……面目ないっす!」
「次までに、動画配信でバエる一発芸考えときます……」
「ちなみにむっつりスラミンは、スケサン先輩が酒の席で大笑いしながらそう呼んでました」
「サキュバスのメロさんも大笑いでした……」
「がーん」
互いに
カズトは愛する者の柔肌を守る為――。
スラミンは傷付いたその心を奮い立たす為――。
「いくぞ、スライムッ!!」
「こうなりゃヤケだぁぁぁぁぁ!!」
互いの攻撃が、交差する――その時だった!
「ていっ」
「あ痛ッ」
スラミンが飛び跳ねた所を、エイラが杖を振り下ろす。
ぷるぷるした身体は床に叩きつけられる。
「はい。これ剣で刺して」
「あ、うん」
カズトは言われるがままスライムの弱点であるコアを刺した。
スラミンはその場で液状化し、死亡する。
『スラミンさぁぁぁぁん!?』
「これポイズンスライムでしょ? 経験値、いっぱい入っただろうし……今日は帰ろうか♪」
「そうだね。ボクも疲れたよ……」
「お風呂でいっぱいマッサージしてあげるからねー……
2人の頭上に魔法陣が出現し、それが下へ移動する。
そうすると、そのまま2人が光の粒子となり消え去る。
「スラミンさん。俺、アンタの勇姿、忘れねぇから……」
「おぉ魔界の神よ。スラミンさんに、せめて安らかな死をお与え下さい……」
「みんな泣くんじゃない! 泣いてたら、スミランさんが安心できないだろ……」
スラミンの死体を囲んで、メソメソと泣くスライム達。
そこへスケサンがやってくる。
「あっ、終わった?」
「スケサン先輩! スラミンさんのお墓。お願いします!」
「俺達、もっと鍛える為に、ジョギングに行ってきます!」
「行くぞぉぉ! ファイ!」
「ぷるっ!」
「ファイッ!」
「ぷるっ!」
掛け声と共にどこかへ跳ね去って行ったスライム達を尻目に、スケサンは頭をかく。
「忙しいな、アイツ等……」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
本日出没した冒険者の紹介コーナー
新人冒険者のカズト(16歳)
職業:見習い戦士
レベル:5→11 レベルアップ!
装備
武器:ショートソード
頭:気合のバンダナ
胴:銅の胸当て
腕:アイアングローブ
足:ブロンズグリーブ
趣味:剣術指南の本を読む事
好きなもの:エイラのマッサージ
嫌いなもの:ピーマン
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
新人冒険者のエイラ(17歳)
職業:
レベル:12
装備
武器:神官の杖
頭:神官の帽子
胴:絹のローブ
腕:なし
足:貝殻のサンダル
趣味:カズトのお世話
好きなもの:カズトの笑った顔
嫌いなもの:ピーマン
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「で、先輩? 誰がむっつりスラミンだってぇ?」
「よーし、今日は俺の奢りだ。お前も店に来るだろ?」
「わーいってごまかされると思ってんですかっ!」
「――行かないの?」
「……行きます」
2匹はしっかりと飲み過ぎて、次の日ボス代理に烈火の如く怒られたのであった――。
おわり。
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