第2話 エッチな下着


 ダンジョン。


 それは人類の希望、あるいは絶望。


 ここは近くの冒険者達の拠点にしている宿場町から馬車で1日、停留所から徒歩3日の場所にあるダンジョン3丁目。


 その洞窟1Fで、2匹の魔物が今日ものんびりとしていた。



「先輩先輩」

「なんだよスラミン。俺は今、忙しいんだ」

「……なにしてるんっすか」


 緑色のプルプルした身体のスラミン(スライム族)は、愛用の剣と盾を持って変なポーズを取っているスケサン(スケルトン族)に冷ややかな声を浴びせる。


「いや俺も1階とはいえ中ボス張ってるからな。冒険者相手にした時に、こう盛り上がるポーズを考えてるんだ」

「……そっすか」

「なんだその目(?)は。腕のある冒険者とのバトルは、ダンジョン内で撮影されるんだぞ。それが“ダンつべ”で流れるかもしれないんだぞ!」


 ◇ ◇ ◇


 通称“ダンつべ”

 正式名称「Danjon Tube」という、ダンジョン内の様子を魔力ネットワークを通じて放送しているネットチャンネルのひとつだ。

 冒険者達の多く集まる町、ギルドなどで放送されている。

 ダンジョンの魔物や罠。隠し階段の場所を良く知る事が出来る攻略者向けのチャンネル――なのだが。これを運営しているのがダンジョン側なのを知る人間は少ない。


 より多くの冒険者に来て貰いたい――。

 もっと有名になりたい――。

 カッコイイ俺様見て欲しい――。


 そんなダンジョンの魔物達の願いから、魔界一の魔力ネット企業“デスエージェント商会”の協力もあって、今日こんにちに至るという訳である。


 ◇ ◇ ◇



「ウチのダンジョンもチャンネル持ってたんですね」

「華麗に戦う俺を見れば、田舎の墓地で寝ているかーちゃんも安心してくれるって寸法よ」

「先輩……オレ、ちょっと感動しました」


 ちなみにスケサンのかーちゃんもスケルトンで、墓地は実家である。


「お前もカッコイイ戦いをすれば、配信見た人らの投げ魔力も貯まってクラスチェンジ出来るかもしれないぜ」

「なるほどッ!」

「よーし。次はこういうポーズはどうだッ」

「ん?」


 ポテっと。

 スケサンの愛用の盾の裏から一冊の本が落ちる。

 その本には『今日から貴方もサキュバスにモテモテになれる』というタイトルと、大量の付箋ふせんが張られまくっているのを――スラミンは見て見ぬふりをしつつ、そっと陰に隠した。


 ウウウウウウウウゥゥゥゥ――。


 突如、ダンジョン内に響き渡るサイレン音。


「おっと冒険者が来たみたいだな。俺の華麗な活躍、見とけよな」

「オレはダンジョン入り口だから見れないっすけどね」


 そんな事を言い合いながら、2匹は持ち場に着いた。


「何々。『ボスのドラゴンは不在です。今日のボスは“リビングアーマー”です』だって」

「こんな辺鄙へんぴな所にダンジョンなんてあったのね」


 ダンジョンへ侵入してきたのは、女性冒険者2人組だった。

 片方は、果たしてどこ守ってるのか不明なビキニアーマーを着たピンク髪の20代女性の戦士。

 もう片方は絹のローブを着た、大きな杖を持った青髪ロングヘアーの10代の魔法使い。


「ドラゴンが居るようなダンジョンだし、ちょっとお宝に期待できちゃうかも」

「この間、ジョーさん(ゴブリン狩り)が死んだって聞いて……ちょっと怖いんですけど」

「なによロマリー……貴女の奇麗な顔に、傷一つ付けさせないわ」

「レインお姉様……んぅっ」


 えっ君らそんな仲なの――とスラミンは驚くが、先ほど隠した本を盗み見する。


【サキュバスにモテモテになる近道ランキング1位。ダンジョン配信で大活躍して投げ魔力ポイントをめっちゃ稼ぐような魔物に決定!】

【今は空前の魔ネット配信時代! 動画がバズれば、ダンジョンボスにだってなれちゃうかも?】

【君も魔ネットで配信者にならないか。提供:デスエージェント商会】


「よーし。オレも活躍して、サキュバスのお姉さん達にチヤホヤされるぞ……」


 天井を這って、イチャイチャしている2人の頭上やや後方移動して――スラミンは液体のように身体を変化させ、女戦士レインの頭を覆った。


「もがっ!?」

「お姉様ッ!!」


 突然のスライムの襲撃に、2人は慌てふためく。

 レインは必死に頭に張り付いたスライムを取ろうとするが、液体状に変化したスライムを素手で取る事は出来ない。

 さらにロマリーも反射的に杖を構えるが、どのような魔法を使えば彼女を傷付けずに救えるか――そのわずかな時間が命取りだった。


「がッ――」


 スライムは頭から徐々に全身へと侵食していく――。

 パニックになったレインは剣を引き抜き、スライムを斬ろうとするも――足元のバランスを崩し転倒してしまう。

 

 ザクッ――。


「あっ……」


 剣はそのままロマリーに振り下ろされ――絶命した。


「ごばっ」


 そのままレインも窒息してしまい――。

 後には、気まずそうに身体から離れるスラミンだけが残った。


 ピンポンパンポーン↑


『2人組の冒険者は1階で死亡しました。アシッドスライムのスラミンさんに盛大なな拍手を送りましょう』


 ピンポンパンポーン↓


 放送が終わると同時に、スケサンが走ってきた。


「お前マジかよ。冒険者2人もヤるとか大金星じゃねーか!」

「まぁ1人は棚ぼただけど……でもオレ、やったんっすね!」

「これは今日の動画配信はお前に全部話題取られちゃうなぁ……ん?」


 シューっと。

 白い煙が女戦士の身体から上がっている。

 よく見ると、スラミンの粘液によってビキニアーマーが溶けているのだ。

 ほぼ全裸の状態になった女戦士レインの姿を見て、2匹は思わず互いに顔を見合わせる。


「「やべっ」」


 

 当然この様子は魔ネットでされ、一部男性冒険者達に大好評だったという。一時的だがダンジョン3丁目のチャンネルがランキング上位になった。

 そのおかげでスラミンは大量の投げ魔力を獲得し、ポイズンスライムへとクラスチェンジしたのであった。


 冒険者と魔物、そのどちらにもWIN―WINな配信でこの日は終わるかと思えた。


 ――R18配信許可を取っていないので、その後すぐチャンネルがBANされた事を除けば。



「あのさぁスラミン君さぁ」

「はい……」

「ウチ一応健全なダンジョン配信やってんのよ」

「すいません……」

「スケサンもよく言っといてね」

「分かりました……」


 ボス代理の前で、今日も2匹は正座されられて説教されるのであった。


 今度からは冒険者の倒し方にも気を付けなければならない――。


 さぁ、次はどんな冒険者がやってくるのやら。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


本日死亡した冒険者の紹介コーナー


元盗賊のレイン(24歳)


職業:戦士

レベル:17


装備

武器:鋼の剣

頭:なし

胴:ビキニアーマー

腕:アイアンガントレット

足:かわのくつ


趣味:ダンジョン配信で可愛い子が出ていないかチェック

好きなもの:ロマリー、可愛い女の子

嫌いなもの:スライム


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


新人のロマリー(14歳)


職業:魔法使い

レベル:17


装備:宝玉の杖

頭:魔力の帽子

胴:絹のローブ

腕:ブレスレット

足:かわのくつ


趣味:レインと一緒に買い物

好きなもの:レイン

嫌いなもの:男


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「戦士の持ち物も全部溶けちゃったから魔法使いから何か剥ぎ取るしかないか……」

「うわっ。この子、エグい下着付けてるよ」

「下着っていうかヒモしかないじゃん……止めとこうか」

「そですね……」



 おわり

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