ここはダンジョン3丁目です

ゆめのマタグラ

第1話 ダンジョン3丁目にようこそ


 ダンジョン。

 

 それは世界中に溢れる自然の遺物、人類のロマン。


 魔物の巣窟、恐怖と絶望の罠――それらを乗り越えた先に眠る、数多の財宝。


 人は財宝を、あるいは栄誉と名誉の為。

 

 今日もダンジョンへと潜るのであった。


 

 ここは近くの冒険者達の拠点にしている宿場町から馬車で1日、停留所から徒歩3日の場所にあるダンジョン3丁目。

 その洞窟1Fで、2匹の魔物が今日も徘徊していた。


「冒険者来ねぇぇ」


 緑色のぷるぷるした身体を、さらに激しく振るわせてスラミン(スライム族)は憤っていた。

 それを眺めながらため息をつくのは、最近美白に凝っているスケサン(スケルトン族)だ。自慢の剣を壁に立て掛け、やる気の無さが伝わってくる。


「あー。宿場町の近くにゴールドゴーレムが率いるゴールドダンジョンなんて出来ちゃったらなぁ……ここ微妙に遠いし」

「先輩ッ! オレっ、悲しいよ! 今月もう半ばなのに、まだ1回も冒険者をぬるぬるに出来てないんっすよ!」

「俺だって。毎日にぼし食ってカルシウム増強してんのに……」

「ちょっと抗議して来ましょうよ。もっとイイ宝じゃないと、冒険者来ないんっすよ!」

「ウチのダンジョンの目玉……なんだっけ?」

「ボスの嫁さんの、写真集です」

「……そりゃ来ねぇわ」


 ちなみにここのボスは――ドラゴンである。

 ドラゴンと言えばダンジョンのボスの花形。

 倒せば『†ドラゴンスレイヤー†』なんてカッコイイ称号を貰えるので、普通なら多少宝がショボくてもそれなりに冒険者は来るものである。


「確か、今月頭から嫁さんと一緒に妊活するから山奥行ってるんだっけ」

「なんでダンジョンのボスが不在なんっすか! 表にも『ボスのドラゴンは不在です。今日のボスは“ゴブリンナイト”です』ってバカ丁寧に看板出してるしッ」

「いやドラゴン討伐しに来る冒険者ガッカリさせちゃダメだろ」

「だからってゴブリンは無いですよ。今時居るんですか、ゴブリン目的にダンジョン潜る冒険者とか!」


 そんな話をしている時だった。

 ダンジョン内に警報が鳴り響く。


 ウウウウウウウウゥゥゥゥ――。


「うわっ、冒険者来たよ」

「お前はパターンA配置だ。俺は地下2階への階段前に陣取ってるからな!」

「先輩、気を付けてッ!」


 約10日ぶりの冒険者の来訪に、魔物達に緊張が走る。

 入口から入って来たのは、全身ボロボロのプレートアーマーを身に着けた戦士の男だった。兜もフルフェイスなので、顔までは分からない。

 分からないが――。


「ゴブリン、コロス。滅する……どこだぁぁぁッ!!」

 

 ドスの効いた低音ボイスが、ダンジョン内に響き渡る。


「あっ。この先まっすぐ行って、突き当り曲がってまっすぐ行くと階段あるんで。そこの降りて地下6階目指してください。そこに居ます」

「ゴブリンッッッ!!」


 斧を担いだ戦士は、全速力で階段を目指すのであった。

 しばらくした後――スケサンがスラミンの下へ戻って来た。


「なんだあのこえ―の。俺、思わず『あっ、2階はこちらですぅ』って通しちゃったぞ」

「何やってんですか先輩ッ! あんた一応1階の中ボスでしょうがッ!」

「なんかもう理性飛んじゃってそうなの相手したくねーよ! ……というか、お前はどうしたんだよ。戦ってたら、まだ死んでるよな」

「ギクッ」


 ここに限らずダンジョンで死ぬと、魔物達の手に寄って強制的に武器防具アイテムを剝ぎ取られてダンジョン外の冒険者捨て場に送られる。

 そこから教会へ出荷され、蘇生した冒険者は最後のお金を剥ぎ取られる訳だ。


 では魔物はどうかというと。

 ダンジョン内の魔力を使って自動的に蘇生される。

 ただし、どんなザコモンスターでも1時間は掛かるので、攻略者が多いダンジョンではシフトが組まれたりする。


「……だって、怖かったんだもん」

「……分かるけどよ」


 ピンポンパンポーン↑


 『――冒険者は地下4階で死亡しました。ゴブリンソーサラーのボルゾイさんに、皆さん盛大な拍手を送りましょう』


「いやあかんかったんかい」

「まぁ、鉄製の鎧じゃ魔法防げないだろうしな」


『本日の昼の業務は終了となります。お疲れさまでした』


「よーし先輩ッ。サキュバスのメロさんの所に飲みに行きましょうよッ!」

「そうだな。今日は気晴らしに、パーッと」


『……冒険者を素通ししたスケサンと、スラミンにはペナルティがあります。至急、ボス代理の下へ出頭するように。以上』


 ピンポンパンポーン↓


 そう放送が流れた瞬間。

 2匹は、深くうなだれた。


「……行くか」

「そっすね……」


 

 ここはダンジョン3丁目。


 今日はダンジョン奥から、2匹の悲鳴が響き渡るのであった――。


 明日こそは、普通の冒険者が来ますように――。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


本日死亡した冒険者の紹介コーナー


ゴブリン狩りのジョー(26歳)


職業:戦士

レベル:37


装備

武器:てつのおの(エンチャント:ゴブリンの返り血)

頭:鉄仮面(エンチャント:ゴブリンの返り血)

胴:鉄の鎧(エンチャント:ゴブリンの返り血)

腕:鋼鉄の手甲(エンチャント:ゴブリンの返り血)

足:アイアングリーブ(エンチャント:ゴブリンの返り血)


趣味:ゴブリンが出るダンジョンの攻略

好きなもの:ゴブリンの死体

嫌いなもの:にんじん


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「いやボルゾイさんもよくこんなの倒したっすよね」

「なんでも前衛のゴブリンナイト達が『オレごとコイツを焼き払えッ』ってやってなんとか勝ったらしいぞ」

「……オレ、一生ヒラでいいっす」


 終わり。

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