東京のある小路

輝空歩

迷児

努力してきたものがいつのまにか狂い、虚無感と哀傷感が体を埋め尽くした日の帰り道。池袋駅を出て、箕雅洛道みがらどおりを通り、僕は帰路へと向かっていた。

歩くのもだるい。何で歩かなきゃいけないんだよ。家についてもいい事なんてなんもないのに。今ここに、僕が未知を感じることがないような、安心な領域でも作れたら。

そんなことはない。強く願ったって通り過ぎていく人々の影は消えないし、かなだたしい金の雑音と轟音はやまない。

ポツン

あぁ、それどころか、雨まで降ってしまった。悲劇の象徴。どん底の象徴。

ここまで来たら、なんだか受け入れられる気もしてきたな。

僕は、ある小路を通り過ぎた。

..なんだか、おおきいものをかんじる。

足を止め、隣を見る。脳ではわかる。ただの東京らしい小路だと。

ただ、心はこの小路にナイアガラの滝でも見たかのような感動を覚えた。

心がひどく震える。悲壮感なのだろうか。

小路を睨み、拳を胸に置き、顔を輝かせる。

さぁ。冒険だ。

..ボスン

小路へ駈け出そうとした瞬間、黒いスーツみたいなものを着た、でかい男にぶつかった。

「す..すみません」

謝るが、相手は振り返りもせずに、小路へと入っていった。

凝視する。

彼はかぶっている黒いホンブルグハットに手を置いた。

それが、僕の視力が限界を迎えるまでに見れた姿だった。


彼は間違いなく、同じこのから入っていったのだ。


訳も分からない納得感が僕の心を満たし、

僕は、明日へと、家へと歩き始めた。

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東京のある小路 輝空歩 @TS_Worite

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