長めのセリフ

1

「よっ!来ちゃった!」

きっと君は笑って人の家にずかずか入ってくるのだろう。いつも通りの夏休み。充電器のコードを弄っている君の横顔は相変わらず幼くて。

わたしだけが歳をとったみたい。そう思うけれど、実際「そう」な訳で。

青くて儚かったあの夏に君だけが取り残されているのを、私はなす術もなく見守るしかないのだ。


2

君の後ろ姿を見つめながら歩いた歩道橋。

嬉しそうに封筒を握りしめる君。


水が滴る。君の髪が濡れて濃い深い黒になっていくのが分かる。ああ。今すぐに君を抱きしめたい。君の細い足が階段に差し掛かる。ついに伝えるんだ。「好きだよ」と。

落ちていく君の眼には一体何が映るのだろうか。


3

観覧車に乗ろう!そう言ったのは彼女の気まぐれかそれとも前から決まっていた定めだったのか。黒い長髪を結んでいたヘアゴムが解かれて私の視界が黒く染まった瞬間。硝子細工が落ちたようにあっけなく彼女はいなくなってしまった。

嗚呼。まただ。また彼女を奪えなかった。

私と彼女が交われる世界はない。何十年前もから分かっていた事なのに。諦めきれないのはどうしてなのか。

私はまた彼女を見つけてこう言うだろう。

「こんばんは。」


4

野良猫のようだった君を拾って、温かい風呂に入れた。

温かい食事も、暖かい愛情だって与えた。

いつからだろう。君が何かを飲み込むような表情をし出したのは。

君は苦虫を噛み殺すような表情で言った。

「外の世界を見てみたい」

私は驚嘆した。そうだ、君に花束を贈ろう。君に手向ける最後の花束。

黒い百合は真っ白な君によく似合う。


5

ありがとうって。最後に君に直接言えたのなら。どんなに幸せだろうか。

私は君にありがとうすら伝えられなかった。

君がこんなに私たちに残してくれていたのに、私は君に何も出来なかった。

後悔してもしきれない。それでも君は私に「前に進んで」って言い残した。

それならば、私は前に進むしかないのだと。そう本能でわかる。だから私は前に進むしかないんだ。


6

俺が戦う理由?

よくも考えてみろ。俺の大切な人は全員死んだ。俺が無力だったから、助けられなかった。

でも、、、それは俺が戦いを止める理由にはならない。


背負ってるんだよ。

俺の大切な人の全てを。見えるだろ。今もここに...あいつらがいる。あいつらが見てるんだ。

だから、こんなところで俺がくたばっていい訳がない。

俺の命はくれてやる。だが、あいつらの魂だけは奪わないでくれ.........。


...見ていてくれよ。これが最後の...『変身...!』


7

ああ。お前は確かにいいやつだった。

...間違ったことは言ってないだろう。僕はお前の仲間として長い間一緒に過ごしてきたが、危うくお前に流されそうだったよ。何度「俺が間違っていた」と言いそうになったことか。

でも、でもな。俺がここでお前の優しさに流されれば、

残してきた家族も、友達も、恋人も、その家族も、

もしかしたら俺の故郷丸ごと全部なくなるかもしれないんだ。


ははっ。可笑しいだろ。こんな戦争に心血注いで、自国の民でさえ裏切れば簡単に手にかける。そんな国はおかしいってみんなみんな思ってるんだ。

だがそれに反逆するものは誰一人として居ない。みんな痩せ細った体で、自分と大切な人を生かすのに必死なんだ。

だからさ、運が悪かったと思って、大人しく俺に殺されてくれよ......。

......頼む。


8

いらっしゃいませ!ご主人たま??

(小声)......おい、本当にこれであってるのかよ?!いや、どう考えても、野郎のメイド服なんて、需要のカケラもないだろ?!


ああっ!ありがとうございます、ご主人たま!

(小声)ご主人たまってなんだよ。たまってよお......。ああ、なんか惨め過ぎて涙が出てきた......。...もう覚悟を決めるか。理性を捨てて...。俺は可愛いメイド...。


いっきますよお〜!手をハートのポーズにしてください!一緒にい〜!

萌え萌えキュン♡


9

やあ。お嬢さん。君は迷子かな?それとも望んでこの世界に来たの?


ワタシはこの世界で幸福を届け続けるピエロだよ!

君のような小さいお嬢さんがこんなところに来るなんて珍しくてね。

ワタシも戸惑っているんだ。

お嬢さんはお家に帰りたい?それともここで愉快なサーカスを見ていくかい?

ここではワタシも立派な主役になれるんだ!

君も一緒にどうかな?


10

私の自我って一体なんだろう。太陽が落ちて、瞼が落ちる前に考えるよ。

今の私を形作ったのは、私自身じゃない。周りが作った私だ。

もちろん私は今の自分自身に満足しているよ。しかし、たまに怖くなるんだ。私の周りから人がいなくなったら、私は何になるんだろう。ってね。空っぽになってしまったら私はどうやって生きていけばいいのだろうってね。


考えるだけ不毛かもしれない。だって私は周りが望んだ自分になり変わるだけなんだから。それでも、毎日怖いんだ。怖くてたまらない。


11

お〜い?新入りかね?

ここにくる新人は相当久しぶりなんだよ。歓迎するさ。ようこそいらっしゃい。

ここは「地獄」だよ。……ふふっ。困惑してるしてるw

文字通りだよ。君だって自覚、あるだろ?今君の脳裏には、様々な光景が流れているはずだ。現世でしてきた己の悪行全てがね。

まあ、ここにいるということは、俺も君とおんなじようなことをしてるんだけどねえ。君を虐めるつもりはないさ。

是非とも仲良くしよう。地獄から見る世界もそんなに悪くはないもんさ。


12

階段の踊り場で、彼女はスカートを翻らせる。

「今から天体観測をやろうよ!」

そう提案する彼女の瞳は、美しい万華鏡のように色々な色を見せる。キラキラ煌めいて私を虜にさせる。

君の瞳をもっと見ていたい。そう口ずさむけれど、彼女には聞こえていなくて。

短かった夏が終わった音がした。


13

日記帳を買ったんだ。

三年間書き続ける用の。馬鹿だなって思っただろ?ズボラの象徴のようなお前が三年も日記を書き続けられるわけがないってね。

でも。夢を見てしまったんだ。三年後も変わらず君と笑い続ける未来を見られるんじゃないかって。それを形に残せたら私はどんなに幸せ者なんだろうってね。

そんな夢の詰まった日記帳が手元にあったら、私は嬉しくって嬉しくってたまらないだろう。今すぐに死んでしまっても良いと思うくらいには。

そんな馬鹿な妄想を拵えながら、毎晩律儀に机に向かう私を誰か笑ってくれよ。


14

人生というフィルムの中の「自分の役」ってなんだろう。

そう考えることがある。

「君の人生は君が主人公で、主役で、ヒロインなんだ!!」

クラスの人気者の彼ならそう言うだろう。

でもそうじゃない。そういうことじゃないんだ。

私は演じているから。だから、この人生においての役割が欲しい。

その役割を全うして死んだ時、私は一体どう思うのか。それがとても気になるから。


15

ねえねえ。私は元気だよ。毎日ご飯を食べて、仕事をして、寝て...。

そして、君のことを考えているよ。

君のこと、大好きだったはずなのに、愛していたはずなのに。ベットで目を閉じるたびに、君の声が、温もりが消えていく気がするんだ。

ねえ。お願い。夢の中でもいいから私をぎゅって抱きしめてよ。

......君の声が、眼差しが恋しいよ...。


16

ああ。久しぶり。本当に久しぶりだねえ。

君の前からいなくなってから一年とちょっとか。

...どうだった?寂しかったかな?俺のこと少しでも恋しくなった?

そうか。そりゃあそうだよね。急にいなくなったやつのことなんか少しも気にならないに決まってるか。

......ごめん。俺別に深い理由なんてなかった。君に少しでも俺のこと思って欲しくって。気にかけて欲しくって。こんなことをした。

君の気持ちを勝手に踏み躙る行動をした。ただ俺のわがままな心を満たしたかっただけだった。

......ごめん。俺もう行くね。こんな俺は君の隣にいるべきじゃない。


17

もっと弱みを見せてくれって〜?

それは無理なお願いだなあ。だってさ、私は人生で誰にも言いたいことを言わずに生きてきたんだよ。貝のように口を噤んで、言葉の槍を背中に受けながら生きてきた。だからさ、今更矯正しようが無理な話だ。

しかも、人に弱みを見せるってことは、自分の柔らかい部分まで他人に曝け出すことだ。そんな博打私にはできない。すまないね、別に君を信頼していないってわけじゃないんだ。君のことは大好きだし、信用しているよ。

でもそういうことじゃないんだ。君のことが大好きでたまらないからこそ、私の内側を見せて幻滅されないかとても怖い。

だからこうやって、外側の自分で君と接するの。

そうじゃないと生きられないから。


18

ここに帰ってくるのも今日で最後か。

...お揃いだったマグカップも、離れ離れになったらなんの付加価値もない。ただのガラクタだ。

君と一緒に過ごしていた生活の中で、あんなにキラキラ輝いていたものが、君がいなくなった途端輝きを失ったんだ。不思議だろ。

こんな俺を見たら君は笑うだろう。「しっかりして」って怒りもするだろう。

でも、その声はもう俺には届かないんだよなあ。

だからどうしようもないんだよ。...もうどうしようもないんだ。


19

...君は私のことちゃんと好きかな?

君はかっこいいからさ。そもそも何で私みたいなのと一緒にいてくれるんだろうっていつも不安で不思議なんだ。

君が私のそばにいない時間に私以外の人に目移りしちゃったらどうしよう。

でも私には魅力がないから、それは当たり前かも。そうやってぐるぐる考えたらもう止まらないんだ。

でも、君にはそんな姿見せられない。君の理想の私でいたいから、今日も君には何もないふりして笑うよ。お願いだからそうさせて。


20

最低なことを考えたな。今。

こんなに暖かい空間とか、人とかに囲まれてる自分ってなんて幸せなんだろう。

このまま永遠の眠りにつけたらいいのに。って。

私にかけてくれる言葉の数々。生きてほしいも心配してるも。そのどれもを裏切って私だけ幸せな最後を迎えれたらなんて思っている。

神様罰当たりは私です。


21

私の中から吐き出された汚い何かも。腕に巻かれた包帯も全て。

キラキラの包装紙と美しいリボンでラッピングしてしまおう。私はこんなだから、世界ではやっていけないと、そうわかっているならば、綺麗に包んで仕舞えば良いのだ。

そうやってぐるぐる巻きにして、ぐるぐる回って、たとえ自分がわからなくなってでも、綺麗なままでいたい。それが私にできる唯一の抵抗だから。


22

「シャンデリアがあるような豪邸にいつか住みたいね!」

バカな君はそうやって言った。田舎のボロアパートの一室で。

立て付けの悪いベランダの扉をカラカラと開けて、私はライターを取り出す。

ゆっくりと流れていく煙に、君に手向けた花を思い出す。

嗚呼。あの時も君は煙に塗れていたな。啜り泣く声が一つ二つある中で君はどんなことを思っていただろうか。

私のようなヤツを生涯の伴侶に選んだことを後悔していないだろうか。二人で語った夢を見られなかったことを悔やんでいないだろうか。

私のことをまだ愛しているだろうか。

死人に口無し。白い花に囲まれた君は大層美しかったことしか私の記憶には残っていない。


23

ピアスを開けた翌日の朝。

ピリッと痛む片耳に、大層満足した。ワクワクして心が高揚した。

私は昔のつまらない私ではなくなったとそう錯覚した。

ただ耳たぶに小さな小さな穴を開けただけなのに、そうやって錯覚した。


24

これを君が見ているということは私は死んでいるのか。

と、ありふれた導入で遺書を書かせてもらう。

別に悪い人生じゃないかった。思った通りの人生じゃなかったけれど、沢山笑って、沢山泣いた。かけがえのない仲間にも出会えた。

そして君には、お礼と謝罪を送りたい。

私は君の神様にはなれなかった。最後まで足掻いてみたけど、やっぱりなれなかった。君は優しいから、「神様になれたよ」なんて言ってくれるのだろう。

君の神様にはなれなかったけど、私は君に出会えてよかった。


25

人生というのはえてして上手くいかないものである。

血反吐を吐いて、ようやく見た空が曇天だったなんてよくある事。

幸福の形が、小さい飴玉一つの人生の中で私は何に縋れば良いのだろう。


26

あなたを崇拝していた。

あなたは、優しい人だった。その優しさをひけらかさない人だった。

困った時は助けてくれた。それを当たり前だと笑ってくれた。

それでも、私は怖い。この人に頼ることが。いつか私はこの人なしじゃ生きられなくなってしまうのだろうか。

そう思うと、恐怖で動けなくなる。

その無条件な優しさに、硬直してしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エイトのセリフ @eight06167

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る