第54話 一揆
1545年(天文14年) 9月下旬 相模国 津久井城
河越を出発して3日目、長尾軍3万は相模と甲斐の国境に築かれた北条家の城だった、津久井城に入った。
津久井城は標高370m程の城山に築かれた山城で、甲斐と小田原を結ぶ要所であり、史実でも武田氏と北条氏が激しく戦った場所である。しかし、この津久井の地勢は少々複雑で、津久井の半分は甲斐の小山田氏を盟主とする郡内衆が支配しており、実質的にこの津久井の地の半分は武田家の勢力圏となっている。そのため、北条家ではこの地を『半敵地』と呼んでいるそうだ。
津久井城で我々を迎えたのは、城主の内藤康行、情報局局長の加藤段蔵、そして段蔵の隣に控えている、目立たず、どこか存在感が希薄な男で、服装も髪型もありふれた男。彼こそが、新たに長尾家に加わった元北条家の忍び頭、風魔小太郎だ。
小太郎は北条家降伏後、配下の腕利きの風魔衆と共に長尾家の諜報局員として採用させて貰った。現在、八忍と呼ばれる情報局の8人の大隊長の一人である。
名前:風魔 小太郎 男
・統率:78/81
・武力:82/85
・知略:75/80
・政治:25/50
・器用:87/90
・魅力:25/50
適性:諜報 暗殺 変装 潜入
能力を見ても、流石に後世に迄名が知られる忍びで有る。段蔵と比べても遜色がない。今後、主に関東方面の諜報活動を任せるつもりである。
此処に段蔵と小太郎を呼んだのは、甲斐の現在の状況の詳細を聞くためだ。
甲斐は風魔衆の縄張りに近いからな。地理にも明るい為小太郎達、風魔衆に甲斐の諜報活動に早速協力を仰いでいたのだ。
現在、甲斐は中々不味い状況に陥っている。
「早速だが、甲斐の状況はどうなっている?」
「酷い有り様に御座います。甲斐八代郡より火が付きし、此度の甲斐の騒乱。瞬く間に甲斐全土に飛火炎上、乱に加担する一揆勢の数3万を超え、今も増え続けております。最早、手の付けられぬ大乱となっておりまする」
そう、甲斐で武田家に対する、民衆の一揆が現在、甲斐全土で起こっている。
「それは⋯思っておった以上の大事になっておりますな。」
勘助の言う通りだ。俺の予想よりも遥かに悪い。
俺が『甲斐に、動乱の兆し有り。』と、
情報局より報告を受けたのは、河越合戦から数日が過ぎた頃だ。
まだそれ程の時は経っていないのだが、既に甲斐全土にその混乱は波及しているらしい。
三万の一揆勢と云うと、現在俺の率いる軍勢とほぼ同数となる。
とても侮れる数では無い。
おそらく、今の弱体化した武田家では対応不可能だろう。
ここ数年、甲斐は米の不作が続いていた。そして今年も、間もなく収穫の時期では有るが、夏の長雨が祟って今年の収穫は、例年以上に悪いと言われている。
それに加えて、長引く武田家の内乱、溜まりに溜まった甲斐の住民の不満が、ここにきて爆発した形だ。
甲斐の人口は長年の内乱により、国外への流出にてその数を減らしている。
現在は15万程であろうと、俺は考えているが、その15万の民の内、3万もの民が此度の動乱に関わっている。
それは、甲斐の民が武田家の統治に対し、『否』を突きつけたに等しい。
武田家は厳しいな。
「それで、武田方の対応は?」
「当初は、一揆勢との和睦を試みたようですが叶わず。重臣、跡部信秋を派遣し鎮圧を試みるも逆に一揆勢に打ち負かされ、跡部殿は討死されたとの事です。他にも自領で乱の対応に当たっていた、穴山 信友、今井 信甫の消息も不明となっております。おそらくは一揆勢との戦で亡くなったものと。当主信虎は一族を連れて躑躅ヶ崎館を引き払い、現在、要害山城に籠って一揆勢を迎え撃つ構えの様です。郡内の嫡男晴信も一揆勢の勢いに押され岩殿城に籠城中であります」
不味いな。
一揆勢は完全に武田家の制御を離れ、制御不能の状況に迄至っている。
このままでは、食料を求めた暴徒が、隣国の信濃、武蔵、相模の長尾領に迄流れ込みかねん。
今回の俺が、多少無理をしても甲斐にまでやって来たのは、この心配が有ったからだ。隣国である甲斐の不安定化は看過できない。
またも内政方に、負担をかける事となるが
この期に俺は、甲斐の動乱を治め、長尾家が甲斐を支配するつもりだ。
甲斐は駿河、相模、武蔵に通じる街道が通る地勢的に重要な地だ。
長尾家が武蔵、相模を押さえた事によりその重要性は増している。
甲斐は貧しい土地ではあるが、金などの鉱山資源には恵まれているしな。
それになんと言っても、現状の甲斐の民の境遇は悲惨だ。そろそろ甲斐に平穏を齎し悲惨な境遇から救いたい。と云う思いもある。
甲斐の民を苦しめた、武田家の内乱。火を着けたのは俺だ。
それが一番犠牲が少ないやり方だった。その事を謝罪する事は出来ない。
ただ、苦労を掛けた分、今後は少しでも報いて往く心算だ。
「殿の、予想通り甲斐は最悪な事態となりましたな。」
「いや、俺の予想より遥かに状況は悪い。追加の食料が必要だ。勘助その手配を頼む。足りない様なら商人から多少割高でも良いから買い付けろ」
「小太郎。急ぎ一揆の主導者に繋ぎを取れ。一揆勢の暴発を押さえろ。」
先ずは飢えた民に、食料を供給する。幸いな事に先の戦で潰した両上杉家から相当の量の兵糧を接収している。その兵糧を甲斐の民の支援に廻す。
ただ、それだけでは足りない。越後からも追加の食料が必要となるだろう。
甲斐に暮らす15万を超える民へ食料の供給し、その不満を抑える。
大仕事になる。
甲斐への対応を話し合っていると、急ぎの様子の近衛である白龍隊の大隊長の一人
美津が使者の来訪を告げた。
「武田晴信が家臣・飯富虎昌殿の先触れが参りました。飯富殿は、殿との面会を求めておる様です。どう対応致しましょうか。」
晴信も大分追い込まれているからな。
現在は、一揆勢に岩殿城を包囲されている。その包囲を突破してまで此処まで来たか。取り敢えず会うしか無い。
さて、どんな話が聞けるかな。
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「ほう。晴信殿は此方に降る積りと云うのだな。しかし此方が包囲される岩殿城を救うばかりか、一揆勢の対応を全て此方に委ねると云うのは少しばかり、虫の良い話ではないか?」
「仰せの通りで御座いますが、最早我等に頼れるは、御当家のみで御座います!どうか我が主君晴信を、お助けくださいませ!」
血塗れの鎧を纏って平伏している男は飯富虎昌、武田家の赤備えを率いる猛将だ
やはり、使者の要件は一揆勢に囲まれた、晴信が籠る岩殿城への救援の要請であった。籠る晴信方の手勢は600程に対して一揆勢は5千を超えると云う。10倍近くの兵力差がある。それ程長くは持たんな。
助ける事は構わない。むしろ、なるべく犠牲は少なくしたいと考えている。
しかし、出来る事なら長尾家の甲斐の統治権について、言及は欲しい所だ。
後から揉めるのは面倒だからな。
「勘助。そう虐めてやるな。飯富殿、そこ迄の事を当家に求めると云う事は晴信殿は甲斐の統治を諦め、『甲斐の統治を我等長尾家に託す。』そう、考えられておられる。と判断して良いのだな。」
「…はい。武田家は甲斐の民に見限られた。最早長尾家に全てを託すのが甲斐にとっての最善。そうおっしゃっておられました。」
そう口惜しそうに話す、甲斐の猛将。まぁ、悔しいだろうな。
よし、晴信も長尾家の統治に否が無いと云うなら、何の問題も無い。
さっさと、甲斐の内乱に終止符を打つ。
「晴信殿の御気持ち、理解致した。先ずは岩殿城を目指す。出陣じゃ!」
「おぉ!ありがたき幸せ!」
甲斐と出来る事なら、武田家臣団も吸収しておきたい
武田は名将揃いだ、内政はともかく、戦には滅法強い家だ。
武田家臣団を吸収出来れば、長尾家にとっては大きな益となる。
なるべく、多くの武田の家臣団を吸収したいものだ。
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