第53話 戦後
1545年(天文14年) 9月上旬 武蔵国 河越城
山内上杉家当主・上杉憲政 捕縛
山内上杉家家臣・小野因幡守 戦死
山内上杉家家臣・本間近江守 戦死
山内上杉家家臣・本庄藤九郎 戦死
山内上杉家家臣・赤堀上野介 戦死
倉賀野城主・倉賀野三河守 戦死
箕輪城主・長野業正 降伏
国峯城城主・小幡憲重 降伏
勝沼城主・三田 綱秀(つなひで) 降伏
扇谷上杉家当主・上杉朝定 戦死
扇谷上杉家家臣・難波田弾正 戦死
扇谷上杉家家臣・難波田隼人正 戦死
扇谷上杉家家臣・上田政広 降伏
滝山城主・大石 定久 降伏
岩付城主・太田資正(すけまさ) 降伏
忍城主・成田長泰(ながやす) 降伏
天神山城主・藤田康邦 降伏
古河公方・足利晴氏 降伏
小田家家臣・菅谷隠岐守 降伏
先の河越合戦の敗者である、関東連合に属した主だった将の顛末である。
この戦で関東連合軍は壊滅と言って良い程の被害を出している。3千余りの将兵を討ち取られ、戦に参加した殆どの者が降伏し捕虜となった。
当主が討ち取られた扇谷上杉家は滅亡し、当主が捕縛された山内上杉家も似たようなものだ。
当主・憲政には越後にて隠居してもらう予定である。越後で楽しいニート生活を送ってくれ。
古河公方・足利晴氏については全ての土地と権力を取り上げて此方も、越後でニートとなって貰う予定だ。
命まで奪うと、流石に何かとメンドイからな。下手すると足利幕府と全面戦争とか成りかねん。長尾包囲網とかは勘弁してもらいたい。
多くの家臣、兵、土地、そして權威、多くのものを失った連合軍に対して、長尾家がこの戦で得たものは多大である。
この動乱で長尾家の支配地となったのは相模、伊豆、武蔵、上野の実に4カ国に及ぶ。
それらの国々の石高は、相模20万石、伊豆7万石、武蔵60万石、上野で50万石程にもなり、合わせれば140万石弱となる広大な領地となる。
ヤバイ、また獲りすぎたか?
春日山城で政務を任せてある景綱達の悲鳴が、此処まで聞こえてきそうである。
まあ…いいだろう。俺は悪くない。
『空気を読まず家に喧嘩を売って来た、阿呆共が悪い!』
その線で、逃げ切るつもりだ。
長尾家が得た物は、広大な領地だけでなく名声、此処では権威と置き換えても良いだろう。
関東の古き権威の象徴とも云える、古河公方、関東管領率いる関東連合軍を長尾家が一蹴した。その事実が関東は元より、中央に与えた衝撃は大きい。
この戦で事実上関東の古き権威は消滅した。
それに代わる形で、関東に長尾家と云う、新たな強大な権威が関東に生まれたのだ。
俺は段蔵に命じてその事実を、多少の誇張と尾鰭を付けて全国に広めている。
連合側の無能、醜態を誇張し、窮地の家臣を救い、悪逆な領主から民を救う長尾家の正当性を盛り込んだものだ。
まあ、ほぼ事実では有るが、それを大衆により聞き心地が良く、長尾家に親近感を覚える様な内容に多少変更し広める。
俺が行っている事は、情報戦、心理戦もしくは宣伝戦とも言える。
特定の思想・世論に大衆の行動を誘導する意図を持った行為だ。
ぶっちゃけ、プロパガンダである。
前世の日本も他国に散々とやられていた。
こちらが行うの分には良いが、他国にやられるのは悲惨な事態となる。
その辺りは充分に、注意を払わねばならぬだろう。
そして、この戦で長尾家が得た最大は…
「殿!!この【地黄八幡】綱成、只今戻りましたぞ!!」
城内に響き渡る大音声を発しながら、俺の前にやって来た大男は北条 綱成
北条家当主・氏康の義弟にして、関東連合による包囲を河越城にて寡兵にて凌ぎ切り、北条家の主力部隊五色備えのうち、黄備え隊を率い【地黄八幡】の通り名で後世にまで名が轟く、北条家が誇る名将である。
綱成は戦の後に、俺と初めて面談した際には、俺の来援に対して涙を流しながら感謝の言葉を述べてくれた。
窮地を救われた事を、余程恩に感じてくれた様だ。
中々に熱く、義理堅い男である。
その能力からしてやはり、ただ者じゃない
名前:北条綱成 男
・統率:90/92
・武力:95/96
・知略:83/84
・政治:65/72
・器用:81/85
・魅力:75/79
適性:統率 軍略 騎馬 槍
既に、軍長を任せても十分過ぎる程の能力値である。
というか、綱成は既に長尾家の6人目の軍長に、抜擢させて貰った。
先日の河越合戦にて、扇谷上杉家当主・上杉朝定を討ち取ったのは綱成率いる川越城の部隊だった。その手柄も有って軍長に抜擢するに当たっても、長尾家の古参の家臣からも異論は出なかった。
北条家の当主氏康に続き綱成をも、長尾家の宿老とも云える局長クラスに抜擢する事は新たに長尾家に加わった、北条家に対する配慮の一面もある。
『長尾家は新参者でも差別せずに、ちゃんと評価するから安心してね。』
そう、感じられれば、新たに加わった者達も、長尾家に馴染み易いだろう。
他にも北条家から、北条幻庵、遠山 綱景、大道寺 盛昌、笠原信為、多目元忠、
松田 盛秀、安藤 良整、清水 綱吉、間宮 康俊、富永 直勝、大藤 信基、等の優秀な北条家、家臣団が長尾家に加入している。
それに加えて、関東連合に属していた国人衆の中にも長尾家に新たに加わった者も多くいる。
長野業正、太田資正、上田朝直、藤田康邦、小幡憲重、大石定久、等がその代表格となる。
そんな彼等が、やがてはこの大きくなった長尾家を支える、支柱となってくれるだろう。
この人材こそが、この戦で長尾家が得られた、最も価値有るものだと。
俺は考えている。
「殿!!この綱成、無事金山城の横瀬成繁を降して参りましたぞ!!」
喧しいわ!そんな大声出さんでも聞こえてるわ。
この男、イイ奴ではあるのだが…少々喧しい
「…ご苦労で有ったな、綱成。一度ゆっくりと身体を休めるが良いぞ。」
「いえいえ、殿の御配慮は嬉しく思いますが、この綱成に露ほども疲労は御座いませぬ。是非にも次のご指示を賜りとう御座います!」
この人…先日まで数カ月の河越城で籠城戦を行って、最後に連合軍に突撃かました上に、戦後は自ら志願して武蔵、上野の反抗勢力を討伐して廻ってたんだよ。
どんだけタフなんだよ…
俺の指示を待つその姿は、まるで主人からボールが投げられるのを尻尾を振りながら待つ、大型犬である。
忠誠が高いのは有難い話では有るのだが、現状上野の金山城の横瀬家を降した事で武蔵、上野の反抗勢力はほぼ平定したと言って良い。
周辺国を見ても、里見は上総を制圧した辺りで軍を止め、此方の停戦命令に今の所、従う構えである、常陸の佐竹も代替わりしたばかりで、此方に手出しをする余裕は無い。下野の結城、宇都宮も此方に戦勝の祝いの品を送って様子見の構えである。
概ね、関東の動乱は終結した。そう、考えて良いだろう。
関東侵攻軍も解散し、集めた予備兵も順次、国元に帰している所で、今この河越に留まっている兵は5万程だ。
今の所、軍長を送らねばならぬ程の大事は、幸いにも起きていない。
さて、どうしたものかと考えていると
「綱成。いい加減にせぬか。殿も困っておろう。休める時に休むも将の務めと。何時も言うておろうが。」
傍に控えていた、綱成の義兄で有る氏康から助け船が入った。
「むむぅ。兄者の言、最もじゃ。俺とて殿を困らせる気は無いのじゃ。兄者の忠言に従い、少し休むと致しましょう。殿、無理を言った様で、申し訳ありませぬ。」
この男、これでいて中々素直な男だ。
「気にするな。あぁ、そうだ。間もなく俺は越後に帰る。その時にはお主達にも越後に付いて来て貰う。その心算で準備して置いてくれ。」
新たに加わった家臣を古参の家臣達に紹介しなければならんし、長尾家の家風も知ってもらいたいからな。
「それは是非にも、越後の賑わいは相模までも届いておりました。一度訪れたいと思っておった所です。」
「それは良い話を聞き申した!越後には旨い物が揃っておるらしいですな!」
「美味い物をたらふく食わせてやる。楽しみにして置け。」
1545年(天文14年) 9月中旬 武蔵国 河越
農民達がそろそろ、稲の刈り入れの準備に入ろうか。と考える頃。
俺は3万の軍勢と共に河越を後にし、越後への帰路に付いた。
新たに手に入れた武蔵、上野も平静を取り戻しつつある。
河越に関東の抑えとして柿崎景家に任せた。今の情勢を考えればそれで十分だろう。
「殿、越後に帰るには少し方向が違う気が致しますが?」
「そうじゃな兄者。越後とは逆方向の様じゃが…」
越後に同行する氏康と綱成が不思議そうに声を掛けて来た。
別に路を間違えている訳じゃ無い。
「この路であっているぞ。少し遠回りとはなるが、甲斐を経由して越後に帰る。」
「なっ!?」
「マジかよ…」
せっかく、関東まで来たんだ。
少し位、遠回りしても良いよな。
武田もいい加減、良い具合に弱体化している。
そろそろ、食べ頃だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます