第44話 琉球
1545年(天文14年)3月中旬 越後国 春日山城
「殿、只今戻りまして御座います。」
越後の山々の雪渓も日毎に小さくなり、越後にようやく春が訪れようという時節。
参謀局局長・山本勘助が越後に帰って来た。
実に7カ月にも及ぶ長期の遠征である。当初の予定は対馬制圧に3カ月程の遠征予定だったのが、実に倍以上の期間になったのだ。
流石に『参謀局長の要職を務める者がそれだけの長期間の遠征は業務に支障をきたす』と一旦呼び戻した。
代わりに真田幸綱を派遣した。苦労すると思うが⋯頑張ってくれ。
久し振りに合った勘助は、真っ黒に日焼けした顔には疲れの色が浮かび、気のせいか少し痩せたような気もする。
うん、スマンな。家のジジィ共が苦労を掛けた。
「良く戻った、勘助!無事で何よりだ。」
「はっ!殿もご健勝でなによりで御座います。では、先ずはご報告を…」
勘助の報告は、随所に慣れぬ土地での苦労、遠距離での補給の確保の難しさ、そして何よりもジジィ共に振り回された苦労が滲み出てくるような内容であった。
うん、長期休暇をあげよう。
「それで⋯父上達は?」
「はい。もうしばらくは高山国に留まり、その平定に務めるとの事で御座います。」
あのジジィ共はこれだけ戦っても、まだ足りぬらしい…
しかし、勘助の報告によると台湾の制圧は順調に進んでいる。
そもそも俺は、台湾の西側(大陸側)の平野部を占領できれば十分だと考えていた。東部の山岳地帯には多くの山岳部族が居住しており、その中には危険な首狩り族が多数存在しているからだ。
とても話が通じる相手とは思えない。蝦夷の様に何十年もかけて取り込んでいくしか方法は無い。と思っていたのだが…
勘助の報告によると、俺がヤバいと思っていた多数の首刈り部族が、こちらに積極的に協力しているらしい。
寧ろ平野部に暮らす、穏健的な部族達より協力的なのだ。
奴等は現在ジジィ共に従い、東部にて共に暴れ回っているらしい。
この勢いだと、年内には台湾の制圧が完了する勢いである……
マジですか……何があったの?
『似た者同士で気が合いました!』なんて事は流石に、無いだろう⋯無いよね?
その辺りの事を、勘助に聞いても、言葉を濁すんだよな。
さては…あのジジィ共、なんかやらかしたな…
⋯⋯うん…そうだ、俺は知らない方がいいな。
世の中には知らない方が、幸せな事もある。忘れよう。
上手く行ってるようだし、暫くはジジィ共の好きにさせるか。
暫くは様子をみる。上手く行ってる時に、下手に人事を弄のは駄目だ。
しかしストッパーは必要だ。勘助の代わりとして幸綱君に頑張ってもらおう。
「では、こちらが此度の戦果の一部で御座います。御検分くだされ」
勘助はそう言うと側に控える者に、何やら合図を送る。
暫くすると謁見の間に、屈強の男達が4人掛かりで運ぶ大きな木箱が幾つも運び込まれた。
その中身に、謁見の間がざわついた。
「こ、これは!?」
「何とも…素晴らしい品ばかりですな…」
箱の中には、金の延べ棒や、異国の金貨、銀貨、柄や鞘に宝石のはめ込まれ、緻密な装飾がが施された剣や小刀、さらには美麗な装飾品から陶磁器の様な美術品までが無造作に詰め込まれていた。
対馬や台湾の倭寇が溜め込んでいた財宝だそうだ。これでもほんの一部らしい。
殆どの財宝はそのまま春日山城の蔵に運び込んだそうだ。
大殿が『邪魔だからサッサと持って帰れ!』と搔き集めた海賊共の財宝を全て、勘助に託して持ち帰らせてきた物だそうだ。
それにしても海賊共、随分と溜め込んだものだな。余程阿漕に稼いだのだろう。
これから新たな城下町の建設や蝦夷や台湾の統治にと何かと物要りである。有り難く家で使わせて貰う事にする。
「長期間ご苦労だった、勘助。お前の働きには感謝している。暫くは家族と共に、ゆっくりとするといい。無理せずしっかりと体を休めろ。」
「身に余る御言葉、忝く。それでは失礼致します」
そう言って勘助は謁見の間を辞した。そうの後姿は、少し煤けて見えた。
うん、暫くはゆっくりしてくれ。
今度、家臣用の温泉付きの保養所でも造ろうか。
さて、何だかんだで台湾もなんとかなりそうだ。対馬も手に入れた。
日本の玄関口となるのは、後は琉球のみだ。
俺は、琉球も手に入れる心算だ。
琉球を手に入れれば、長尾家が日本の海外貿易の大半を統制下に置く事が出来るようになる。
別に貿易の独占を狙っている訳では無い。
この時代、日本の主要な輸出品は金や銀といった貴金属だ。
日本の為政者や商人は貴重な金銀を対価として、絹や陶磁器、火薬の原料である硝石等を輸入していた。結果、日本の貴重な金銀が大量に海外に流出する事となった。
俺はこれ以上、日本の金銀を海外に流出させる心算は無い。
逆に海外から金銀を日本に流入させる心算だ。
その為に陶磁器、硝子、絹、毛織物等多くの特産品を生み出してきたのだ。
それらの品は、俺がこれからの貿易先として考えている、西洋の国々やインド、タイ、イスラム国家等でも確実に売れる。
この時代でメイド・イン・ジャパンの製品が世界を席巻するのだ。なんとも痛快ではないか?
俺はそこで得た利益を、街造や街道、港の整備等で日本社会に還元させる。
そうする事で日本人は徐々に豊かになっていくだろう
現在、五島平八と将次郎が台湾から兵四千を率い琉球に向かっている。
史実では琉球は島津の三千の軍に屈服している。兵力としてはこれで十分だ。負ける事は無いだろう。
悪いが、今回はすこし強引に行かせて貰う。
琉球は、台湾と九州の中間に位置し、大陸の太平洋への出口を塞ぐ地政学上重要な位置を占める。
そんな重要な位置に在る琉球国に、何時までも明に朝貢をさせる心算は無い。
後々に琉球の帰属の問題で、大陸と揉める種を残すのは得策でない。
琉球は長尾家の直轄地とする。
問題は琉球が朝貢している、明の動きだが…
琉球は明の朝貢国とはいえ、海の向こうの遠い国だ。
海禁令を出す明は、海外の事にそれ程関心を寄せてはいない。
現に、家の台湾出征にも動きは無かった。
一応は『倭寇の殲滅の為台湾を攻める』と使者も送ったが、なしのつぶてである。こちらにとっては好都合だ。しっかりと記録に残して、将来台湾の帰属で揉めた時に証拠として出せるよう様にしておく。
十中八九、明は動かない。
琉球王国には消えて貰うが、王族の命まで奪うつもりは無い。余り酷い扱いをすれば、琉球の民からの反発を招きかねない。家で働くか、年金でのんびりと暮らして貰うとする。
平八には『極力血を流すな』とは伝えてある。
あいつはあれで中々器用な男だ。きっと、上手くやってくれるはずだ。
琉球が片付いたら、暫く海外は台湾と琉球の統治に務める事とする。
此処が安定しなければ此処から先無理に進むのは危険だ。先ずは長尾家の拠点として磐石の体制を築いていく事が先決だろう。
これで日本の海外進出の道筋が整った。これは日本の海外進出の貴重な一歩となるはずだ。
そろそろ、国内にも眼を向けねばならん。長尾家は大きくなったとはいえ、未だ地方の一勢力に過ぎないのだから。
時は1545年、一昨年には種子島に鉄砲が伝来し、来年には信長が元服する。
いよいよ戦国時代も佳境を迎える頃だ。
さて当家は、次は関東か、それとも、奥羽を獲り北方を固めるか、弱った武田を取り込むのも有りだ。それとも美濃を獲り京を目指すか?
俺も、そろそろ本格的に天下を見据えるとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます