第41話 高山国

1544年(天文13年)9月中旬 越後国 春日山城



長かった蝦夷遠征を終えて春日山城に戻って、既に10日余りが過ぎた。

疲れ切った景綱達内政組に出迎えられた時、

『あぁ、俺の夏休みは終わったんだ』と

何故か物悲しい、夏休み明けの小学生のような気分を久しぶりに味わったものだ。


そんな憂鬱な気分もさすがに10日も経てば吹っ飛び、今や休み中に溜まりに溜まった政務を、千代や近習達にも手伝って貰いこなしている最中である。


千代や美雪は能力的にはバリバリの武闘派ではあるが、それでも知略や政治力が低い訳ではない。特に千代の最近の成長は著しい。


名前:長尾 千代(女)

・統率:78/100

・武力:79/99

・知略:81/85

・政治:80/81

・器用:82/89

・魅力:80/87

適正:用兵、騎馬、指揮、武人、水軍、火器、政務、料理


千代と出会って間もなく7年となる。

その間、多くの戦場や政務を共にこなしてきた。

その成果なのだろう、千代も随分と成長してくれた。

それに水軍や火器、政務、料理と4つも新たな適性を発現している。

水軍は先日の安東水軍との一戦以降に付いた様で、

火器は、以前美雪と共に火縄銃の試し打ちをさせた時に付いた。


銃なぞ数発撃っただけでコツを掴み、その後的を外すことは無かったからな。


世の中には天才って居るもんだな。


因みに料理が付いたのは、最近俺の料理の手伝いを千代がよくしてくれるからだろうな。政務が付いたのもそれだろう。


まぁ、知略や政治がこれだけ伸びたのなら、

今生では例え俺が居なかったとしても前世のような無謀な戦を繰り広げることは無いのではなかろうか。

既に前世の長尾家とはその勢力もかなり違うから、何とも言えんが。


他には、やはり美雪は黙々と政務もこなしていく。

美雪もやはり千代と同じ天才系の人種だ。

まぁ、頭の中はバリバリの武闘派だがな。


他の近習達は、朝信や一益はようやく事務作業の戦力となってきたが、可成や信友はそもそも政務には向いていない。

やはり戦場でこそ輝く者達だ。

可成は先日の蝦夷行でも随分と船の旅に心寄せる所が見られた。

もう少し成長したら探索船団でも編成して、樺太や千島列島、アラスカ辺りの北方か、フィリピン、インドネシア、オーストラリア大陸等の南方を探索させても良いかもな。

凪は優秀ではあるが、未だ文字の読み書きから初めている状況だ。

将来に期待と云う所だ。


にしても……

俺の執務室に積み上げられた書類の山が、一向に減る気配が無い。

いや、むしろ増えていないか?


今も政務局の連中が山程の書類を抱えて執務室の片隅に無慈悲に積み上げていく……


うん……景綱達の気持ちが少し理解できた。


この書類の山の一因である、俺の安東家の吸収。

戻った俺からその話を聞いた政務畑の面々の反応は、


何とも物悲しい悲痛な叫びを上げながら、

景綱は頭を抱え、

貞勝は膝から崩れ落ち、

親父殿は泣きながら俺に縋り付いた。


うん……どこかで見た光景だった。


『正直そこまで反応せんでも』

などと思ったものだが。


スマン……俺が悪かった。


これは明らかに酷いオーバーワークだ。

これでは『ブラック長尾』と呼ばれても、反論は出来ません。


そしてそこに、更に混乱に拍車を掛けたのが……

あの不良ジジィ共だ。


あいつ等に俺は対馬侵攻を命じたんだよ?


それがさ、なんで台湾くんだりに居るのさ?


もぅ、やだ。あのジジィ共。


一応は総大将のジジィから報告は届いていた。


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8月5日

海賊共が高山国方面に逃走した

対馬の民の安全の為にもお主の指示通り

臨機応変に対応する事とした

よって、我等は海賊を追って高山国へ進軍する事とした

手間だが仕方無い。

臨機応変に対応する事とする

             

 長尾信濃守為景           

追伸 補給は食料より炮烙火矢を多めに送ってくれ

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こんな感じの報告だった。

確かに『臨機応変に対応』してくれと指示は出したけどさぁ、

誰も普通、台湾にまで侵攻するなんて思わないじゃん?


この報告を受け、思わず頭を抱え、膝から崩れ落ちた。

さすがに千代に縋り付いて泣きはしなかったが、泣きたい気分だ。


しかし、この報告が書かれた8月5日といえば、俺が丁度蝦夷地に上陸していた頃だ。

日本の北の果てから、日本の西の果てで起きた事など対応できる訳が無い。

実際、俺がこの報告を知ったのは越後に戻る帰路での事だ。


この辺りの情報の伝達速度は今後の課題だが、現状早船に頼るしかない。


幸いにもこの報告を受け、景綱や清兵衛が相談の上、

急遽追加で海兵2千と補給物資を送ってくれていた。

俺が帰るまで、何もしないよりは余程良い仕事だ。


『臨機応変の対応』というのは、こういう事を云うの!


その後、俺が越後に到着と同時に届いた報せが……



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8月17日

高山国沖合にて海賊船団と遭遇

我等それを撃滅せり

首級1千余、捕虜2千、鹵獲船多数

我軍の損害極めて軽微なり             

          

長尾信濃守為景

追伸 炮烙火矢はまだか?

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報告書の字体が活き活きとしている


余程楽しいのだろう・・・・・


そしてこれが昨日届いた最新の報告書となる



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8月25日

高山国沿岸にて海賊の大規模拠点を発見

援軍と合流後

賊の殲滅及び拠点の制圧に成功

首級500余、捕虜1千余、鹵獲船、鹵獲品多数

ここを拠点とし高山国の制圧に努める


長尾信濃守為景

追伸 炮烙火矢の補給ご苦労。追加を所望する

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報告書の字体が更に力強くなっている。


楽しくて仕方無い様だ……。


もういいよ……好きにして。


仕方が無いので五島平八に2千の兵を率いさせて、追加の炮烙火矢と、別に必要無さそうだが食料等の補給物資、感染症対策の為の複数の医師団と共に送る事とした。


いつの間にか台湾全土を制圧し兼ねない勢いである。


このジジィ共の暴走により、急遽補給拠点となる対馬の領国化が前倒しとなり、政務官の派遣から港の早期建設の必要性に迫られる事になった。

これが、この内政混乱に拍車を掛ける事となったのだ。


おのれ~あのジジィ共!


……とは言え、

あのジジィ共を余り責めると、

下手をすれば安東家を土産として持ち帰って来た俺にまでブーメランが刺さり兼ねない為、俺も余り強く言えない事情がある。


まさか……あのジジィ共、この状況を見越して?

だとしたら、恐ろしいジジィ共だ。


しかし元々台湾は手に入れる予定だった。予定より随分と時期が早まっただけだ。


地政的に見ると台湾の占めるその位置は非常に重要な物だ。

世界地図を見れば理解できると思うが、台湾を押さえる事により中国(この時代は明)は太平洋への出口を塞がれる形となる。

敵対する勢力が台湾を押さえるなら、海洋への進出も儘ならなくなるだろうし、

大陸沿岸の都市も絶えず攻撃の危険性に晒される。


越後で云うと、丁度佐渡を押さえられる事に等しい。


其処に琉球、フィリピンをも抑えられたなら、大陸は海への出口を完全に閉ざされる事となる。


しかしこの時代の明も後の清も、この島の重要性に気が付かなかった。

それは広大で豊かな中国大陸がそうさせたと考えられる。


中国の歴代王朝は豊かな中国大陸を支配する事により、そこで得られる食料、物産のみで、充分に民を養い存続する事が出来たのだ。


自国の内側だけを見ていればそれで十分であり、海の向こうに眼を向ける必要性など無かった。

内側の事で精一杯で外を見る余裕が無かったとも言える。


この当時の大陸の支配者である明の、現状の台湾の位置づけは、主として倭寇の根拠地と見るか、精々が近域を航行する船の、一時的な寄港地程度のモノでしかない。

そしてこの台湾には統一した勢力は存在しないが、幾つかの先住民族が存在している。

中には首狩りを伝統とするかなり物騒な連中も存在する。

話しが通じる相手なら良いのだが、おそらくは難しいだろう。

その辺りの事も平八に伝えて送り出した。


此処まで来たなら、なんとか無事に台湾制圧が成る事を祈るばかりである。


はあぁ~、ほんと頼むぞ、爺さん達よ。






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