第54話 俺ニート、昇格チャレンジの覚悟を決める

そしてそんな緊張をした俺なんぞ待ってはくれず、


相手の姿が現れた。




「……さん」




(…………)




「淳一さん!」




(……!)




「そんな……これが昇格に必要な特別な戦いだなんて!」




俺の目の前に現れた相手は、『アリス』だった。




「これは……どういうことなんですか?」




「今淳一さんが見ている光景は全て現実ですよ!」




(…………)




「これから淳一さんは、私と戦ってもらいます」




(…………)




緊張の心は一転絶望の心へ染まりゆく。


リバーサル社の言う特別な一戦……それは担当者と戦うことだったのだ。




「本当に戦わないといけないんですか?」




「はい!一度権利を使ってしまうと、取り消しできないんです。淳一さんが亡くならない限り……です」




「アリスさんは……それでいいんですか!」




「これは我々リバーサル社がやらないといけない業務の1つなんです。私はこうなることを覚悟していました」




「そんな……それに……今までお世話になった人を倒すなんてできるはずがないじゃないですか!」




「……確かに私は、淳一さんといずれ戦うということについてはお伝えしていません。ですが私達が一定の距離でいれるような配慮はしたはずです」




「そんなものもらってないです!」




「初日に言いました。『絶対に恋をするな』と」




(……!)




「この言葉はつまり、私達は一定の距離でいなさいということです。私はあくまでも仕事として淳一さんと付き合ってきました。淳一さんもそうですよね?」




(…………)




確かにそうだ。リバーサル社からすれば、利用者はあくまでも客に過ぎない。


恐らくリバーサル社にはたくさんの社員がいて、それぞれ担当者を持っているのだろう。


そして考えたくないが……利用者の死も何度も見てきたはずだ。


そして利用者が死ぬ度に、また新しい人のところに行くのだろう。




俺は本当にバカだった。こんな簡単なことにさえ気づけないなんて。


何勝手に一人で舞い上がっちゃってたんだ。今までの俺。


一緒にハンバーグを食べたり、パンしか出さないことをさりげなくからかってみたりした、


あの日々は……すべて俺一人で楽しんでいただけだったのか!




「もういいです……これ以上、悲しい話は聞きたくない……」




「それじゃあ……そろそろ話を終わりにして、戦い始めちゃいましょうか」




(…………)




「先ほども言いましたけど、この戦いで淳一さんが勝利すれば、めでたく昇格できます!」




(…………)




「それじゃあ淳一さん、戦いを始める”覚悟”はよろしいですか?」




(…………)




もうやるしかない。


最初からリバーサル社がこれをやるつもりだったのであれば、


もう絶対に運命は覆らないのだろう。




「……はい」

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