映画のコンテ

@nendo0123

第1話 『アメリカン・ホラー・ストーリー』のあのシーンを思い出した。

『アメリカン・ホラー・ストーリー』のあのシーンを思い出した。


私が生まれるよりも前に生まれ、登場シーンから1時間もせずに死んでいった命たち。私よりも早く成長しなければならなかった人たち。


私よりも拷問を受けたり殴られたりした人たち。言葉による虐待を受けた人たち。

私よりも自殺寸前まで追い込まれた人たち。


おかしな話だが、映画を見るときに、これは私が出会うはずだった不幸ではないか、と考えることがある。これから起きる不幸のジェネリック。起きる前に被害を最小化するワクチン。次の衝撃に備えろ!を 私は映画で経験した。


10代のとき、よく腕を切っていた。

薄く血が出る程度にカッターで腕の皮を少し切った。

白い色素の抜けた細い傷はたぶん一生治らない。


高校のころ、毎日父親に説教された。

「ああこれだからお前はだめなのだ」「謙虚さが足りない人間は偉くはなれない」

「誰のおかげで飯が食えているんだ」「俺が学生の時はお前よりも偉かった」

「俺なんて殴られて育ったんだ」「お前なんて軟弱なんだよ」

そして母には

「気が利かない」「飯がまずい」「センスがない」

「つまらない」「頭が悪い」「どうせ職場でもナメられる」

共働きで二人の子供の世話をしながら家事も全部していたのは母。

だがそんなことは評価されず家の中では見下された。


夜の9時から12時は父の説教の時間だ。

要は仕事のストレスを娘や妻にぶつけて発散させていたのだ。

気持ちもきついが体力もきつい。とにかく眠い。

なにせ毎朝8時には家を出る高校生だ。

説教のあとは2時まで毎日予習復習しなければいけない。

成績が落ちたら死ぬしかない。


私は時折トイレで腕に刻みを入れた。

腕にカッターでまっすぐな線をひくと、細い線から赤いものがにじみ出た。


私は隠れて飯をよく吐いた。

「誰のおかげで飯を食えているんだ」

父親の顔を見ながら食べる飯は最低だった。

そんなことを言われてまで、飯を食いたいとは思えなかった。

でも10代の子供はいつでも腹が減っていた。正常な食欲のせいで私のプライドはズタズタだった。私は卑しかった。嫌な奴にDVをされながら養われている。


「こんなんじゃ学校に行かせてやれないな」

学費と生活費は人質にされている。媚を売ってギリギリ普通の生活ができるのでいつもびくびくしていた。

「お前は俺の娘なのだからほかのやつとは違う」

びくびくしているくせに、変におだてられて育ったせいで私は選民思想が強く育った。本気で友達を見下しているくせに、家では常に媚を売らなければいけなかった。

誰も父親が異常だとは教えてくれなかった。


私はいつも実家の二階の洗面台で吐き戻していたからその排水溝だけよく蠅が沸いていた。食っても吐くから栄養失調だったし、髪も抜けたし、生理はとっくに止まっていたが親には言わなかった。病院に行きたくなかった。オーバーリアクションな大人が大嫌いだった。


不思議なことだが今になって考えても特に自傷行為を後悔していない。

自傷は身代わりだった。自分の親に毎日ひどいことをされているという事実に脳がついていけなかった。

だから自分で自分にひどいことをするという「もっと悪いこと」で上書きして「実際にあったこと」を薄めていたのだと思う。中途半端なリストカットで救える命もあるんです。


『アメリカン・ホラー・ストーリー』では、

家が燃えていた。


世の中の家族が普通は、普通程度に仲がいいことを知っていた。

でもふつうの父親はこんなに家族を罵倒するのだろうか。

一般的な子供は、普通程度に親が好きで親に感謝しなければいけないことを知っていた。ディズニーは?ジブリは?親に感謝していない子供は皆無だ。こんなに親から罰を受ける子供は皆無だ。私の自業自得なのだろうか。

片方の親から罵倒され、もう片方の親からは守ってもらえない、これは私の自業自得なのだろうか。


主人公の母や妹の悲鳴が止んで静かになった。

苦しむ時間が短くて本当に良かった。


父親はスタンガンで飛ばした。

大きな体だ。飯がまずいという割にはぶくぶく太っている。

痩せて見えると言って日焼けサロンに行っていた。

100kg越えで日サロの効果に期待するのは無理があるんじゃないかな。


よく憎い相手は苦しんで死んでほしいというけど、本当はそんなのは嘘で、

私は父の姿も声も全部嫌いだったので、汚い悲鳴だってあまり聞きたくはない。


まあでも編集でどうにかなる、解体シーンは。ほんと映画っていいよね。


とりあえず、手始めに、眠っている父に、カッターで薄く線を引いた。

穏やかに呼吸をする父は、愛玩動物にも見える。

じわじわ赤いラインが生まれて、何か心が満たされていった。

やったことないけど、豆のコーヒーを淹れているときってこういう気持ちかもしれない。

さあ、ミキサーも買ったし。工具も買ったし。筋トレもした。準備は万端。

先は長い。少しずつ地道に頑張っていきたい。


はい、そういう映画です。

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