君は君だから

またまた少し戻り、教室内。


「きゃー!とか言った方が良かったかな?」

「ははっ、俺何言ってんだか」

 俺が女の子ならスカートがめくれそうな勢いで走り去って行った青崎を一瞬遠くに視認した後、そう呟き自分でツッコミをした。


「あっ、忘れてた。」

「ノート、ノート」

 数秒前の衝撃で当初の目的を忘れてしまっていたが、目的を遂行すべく【1-D】に向かった。

 記憶の通り窓側二列目の席の引き出し部分に香織のノートが置いてあった。

 ったく、アイツはホントに抜けてるなぁ・・・


 中学の時もアイツの忘れ物取りに行ってたっけ・・・・

 中学は部活、高校はアルバイト・・・・なんだか出来の悪い妹を見ている気分だ。

 誕生日的にアイツの方が年上だけど。


 ノートを確保し、下駄箱に向かう途中にまた自身の教室の前を通った時、扉付近に何かが落ちている事に気付いた。


 あれ?これ、青崎の・・・

 間違いない、先程青崎が話しかけていたぬいぐるみ【ペンタゴン】が落ちていた。

 俺が急に話しかけた事が原因で落としちゃったんだろな・・・


 俺は青崎が普段登校してくる方向をしらみつぶしに探すことにした。


 《またみんなに怖がられちゃったよぉ》

 《もう、ぶつかった男の子にも謝りたかったのに》

 《いつも挨拶してくれるのに、今日は・・・・何も言ってくれなかった・・・》

 俺は先程青崎が言っていた言葉を思い出していた。

 扉越しで突入するまで表情は見えていなかったが、きっと悲しい顔をしていたんだろうな。

 そりゃそうだよな、青崎だってただの16歳の女の子なんだから・・・


「おはようって言えばよかったな・・・」

 俺が何気なく言っていた言葉が、青崎にとっては何か特別なものだったのかもしれない。

 勝手に周りから怖がられ、避けられる・・・それはきっと暴力なんかよりも痛いなにか。

 自惚うぬぼれかも知れないけど、俺の一言がアイツの心の傷を覆えていたのなら今日の行動は《最低ー!!》って言われても仕方がないな・・・・


 お前の”友達”にお前を返して、今日言えなかった”おはよう”の代わりになる言葉を伝えよう。

 手に握ったペンタゴンを見つめ、そう考えた。


 しっかしいないなぁ、もううちの学校の生徒が通りそうな道は調べたけど・・・・

 このままじゃらちが明かない。


「あの、すみません。」

「ん?どうかしましたか?」

 近くにいた比較的優しそうなおばさんに声をかけ、目撃情報を聞くことにした。

 右腕には大根のはみ出したマイバックをかけ、左手には日傘・・・・偏見すぎるがこれで優しくなかったら詐欺だ。


「ここらへんでちょっと背が高くて、青髪ロングの女子高生見てませんか?」

「胸元に僕が着ている制服と同じ校章こうしょうがついている女子制服を着ていると思うのですが・・・・」

「あっ、あの子かな?さっき三人組の男の人と路地裏に入っていったような・・・・なにせちょっと遠くて正確に見えていなかったから・・・・曖昧な情報でごめんなさいね。」

「いえ、ありがとうございます!!」

 俺は”おば”・・・・んんっ!!

 ”おねい”さんに一礼をし、彼女が教えてくれた場所に向かった。

 やっぱり優しい人だった・・・・今度【説】としてテレビに応募してみよう。


 * * * *


「あっ!やっと見けた!」

 教えてもらった路地裏に着くと探していた人物が目の前にいた。

 何やら真ん中にいるいかにもガラの悪そうな男に殴りかかられそうになってた様に見えたけど、とりあえず。


「探したよ、青崎さん」

「赤城・・・君?」

 当然驚く青崎、本来ここにいるはず無い人だもんね俺。


「ほら、落とし物」

「ぺ、ペンタン・・・・」

 俺はズボンのポケットからペンタゴンを取り出した。


「ど、どうして赤城君が・・・・」

「いやぁ、ペンタゴンが教室に落ちていてな。」

「さっき青崎さんがそいつと会話してたから、落としたんだなって思って、青崎さんを探してみたってだけだよ」

「やっぱり聞かれてた・・・・」

 突然地面に膝を付き落ち込みだした青崎だったが直ぐに顔を上げた。


「わざわざ探して持ってきてくれるなんて・・・・」

「だってこのペンタゴンは、青崎さんの大切な”友達”だろ?」

 そう伝えたるとまた彼女は下を向き、今度は肩が少し震えていた。

 や、やばい!俺いらん事言ったかも・・・・青崎の反応的にペンタゴンとの会話って誰にも聞かれたくなった事なのに、《大切な友達》だなんて発言・・・・まずかったかもしれん。

 そう考えているうちに青崎は顔を上げ、俺にお礼を言ってくれた。


「ありがとうございます、赤城君」

「お、おう・・・・」

 ちゃんと目を合わして名前を呼ばれた事がなかったので少し焦ってしまった・・・・やっぱり可愛いな。

 目元の腫れと共に見せた笑顔のお礼の破壊力は異常だった。

 俺は返事と共に青崎の手にペンタゴンを置いた。


「ちょっと待てや、ゴラァ!!」

「何勝手に話してんだ!!」

 うわうわ、怒ってるよ・・・・

 あの制服の校章って西高か?

 痺れを切らしたのか、真ん中の男がそう言ってきた。


「この人、青崎さんの知り合い?」

「えっと、完全に知らないわけじゃないのですが・・・・今朝学校で噂されてた先週の・・・・人たちです。」

「あ、あぁなるほどね」

 一応知り合いだったらこの後の対応も考えないといけないから質問したのだが・・・・今朝の噂は本当だったんだ・・・

 まぁ流石に青崎さんの他にもヤクザの人たちが居たんだろうけど。


「えっと・・・ほら、彼女もあんたらの事あんまり知らないみたいだしさ、ここは”解散”って事にしない?」

「あ!?」

 あれぇ?結構いい提案したと思ったんだけどなぁ。

 このまま解散してくれれば喧嘩にならないし一応WINーWINな感じで収まると考えたのだが。


「それにさ、女の子一人に三人がかりはちょっと・・・・ねぇ。」

「女の子?お前そいつが誰だか知ってんのか?」

「うん、俺のクラスメイトで・・・・・友達」

「そう言う事じゃねぇ!!!」

「この女は青龍会会長の娘【千殺せんさつの青崎】だぞ!」

 え!?そんなカッコイイ感じの二つ名ついてるの!?

 流石の新情報を本人に確認しようと振り返るが、青崎は首を全力で横に振っていた。

 青崎も今知ったんだな・・・・

 まぁなんにせよ、青崎のところのヤクザが来たら、今朝の感じ的にこいつら良くて半殺しかもしれないしなぁ


「まぁ悪い事は言わないから、ケガする前に帰れって。」

「コイツ・・・・なめんじゃねぇ!!」

 その言葉と共に男が俺に向かい殴りかかってきたが。


「よっと・・・・」

 男の伸ばした腕を基点に自身の体を軸足回転させ、その腕を引っ張りながら地面に体ごと叩きつけた!

 このまま体で押さえつければ動けないだろう・・・・


「あ、赤城君・・・・今のどうやって・・・・」

「ん?あぁ、俺合気道やってたから、素人の攻撃くらい受け流せるんだよね」

「す、凄い・・・・」

 小、中学校と嫌々続けた合気道が役にたった・・・・ありがとう、師範!何回あんたの事恨んだかわからないけど。


 おっと、流石にガタイがいいだけにまだ暴れるな、コイツ。


「どきやがれっ!!!」

「ちょ!おいおい、あんまり暴れるなよ。骨、折れても知らないぞ」

 男は体をバタバタさせ必死に抵抗しているが、俺の押さえつけ効いてる以上俺が緩めない限りは抜け出せない。

 これでも黒帯巻いてたからね、こんなチンピラくらい捌けますよ。

 しっかしまぁ、あんまり動かれるとうっかり骨、折っちまいそうだな・・・・

 そう呑気に考えていると男が舎弟らしき2人に指示を出した。


「お前ら!は、早くコイツをどかしやがれ!!」

「う、うっす!」

 流石にコイツを抑えたまま追加で二人を捌くのは厳しいな・・・・

 一度仕切りなおすように男から離れ、再び青崎の前に立ち様子をうかがった。

 男は立ち上がるや否やズボンのポケットをまさぐりナイフを取り出した!


「この野郎・・・・もう容赦しねぇ!」

 男はギラギラと輝くナイフを握り構える。

 武器を持った相手の対処方法も知ってはいるが・・・・後ろの2人も今回は棒立ちじゃないだろうな。

 どうやって捌くか・・・・

 対処方法を考える隙も無く男は一歩踏み出した!


「ぶっ殺してー」

「ん?」

 男は突如その場で停止した。

 殺意の籠っていた目はすでに戦意を喪失したかのように変わり、男だけではない、舎弟たちまでもが冷や汗をダラダラとかき始めた。

 あれ?こいつらどこ見てるんだ?

 相手を見ると明らかに視線の先は俺ではない。

 少し俺の上のような・・・・・!?

 振り返るとそこには今朝校内で目にしたヤクザがいた。


「お嬢の帰りが遅いから心配して探しに来てみれば・・・・」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ」

「いつか見たクソガキやないか、なんや今日は一人増えとる見たいやけどのぉ」

「そこの真ん中のナイフ持ったガキ!おどれ今”殺す”とか言っとったけど、まさかウチのお嬢に対してやあらへんよな?」

 今朝学校で青崎に怒られてた、確か・・・・飯田のおっさん。

 うわっ!髪型坊主になってる・・・・今朝見たときは刈り上げだったのに。

 もしかして”矯正”ってこう言う事!?

 なんかもう部活じゃん!


 言葉を発しながら、少しづつ俺の前まで飯田のおっさんが出てきた。

 不良たちはビビったまま何も言わずに震えているだけ・・・・まぁ相手は本物のヤクザだもんね。

 俺でも怖いわ、こんなゴリゴリの入れ墨が入った顔面とドスの利いた声を前にしたら立ってらんないね。


「なんや、もうめんどくさいわ」

「この時期は虫がブンブンブンブン鬱陶しくてかなわん。」

「お嬢にたかる虫は一匹残らずワシが・・・・」

 その言葉を聞くと不良たちはきびすを返し全速力で駆け出した!

「に、逃げろぉ!!!」

「ぶち殺したるわぁ!!!!!!!!!!!!!」

 俺は遠くなっていく不良三人とヤクザの背中を確認した為、青崎の方に振り返った。


 えっと・・・・こういう時って何て言えばいいんだろ。

 一応青崎のピンチ?も終わった訳でなんだかんだ一件落着した。

 なんて声をかければいいか迷っていると青崎の方から声をかけてくれた。ありがたい。


「幻滅しましたか?」

「え?」

「関東最大規模のヤクザ組織会長の娘が実は喧嘩もできなくて、人一倍臆病で友達もいない。」

「ぬいぐるみ以外に話し相手もいなければ、口も汚い・・・・」

「これが私です・・・・」

 淡々と自身の事を話す青崎は自分自身に呆れたような表情と口調だった。


「そっか・・・・でもなんか安心したわ」

「え?」

「いや、なんかイメージ通りの優しくて穏やかな女の子で」

 俺の青崎のイメージは[桜の木の下で読書をしている]だったからなぁ。


「で、でも私はヤクザの娘で・・・・口も悪くて!」

「でも青崎さんは青崎さんだろ?」

 青崎は少し驚いた表情を見せた。


「口が悪い理由はさっき教室で聞いちゃったけどさ、家がヤクザだからって青崎自身が怖い奴だって事はない」

「少なくとも俺は、青崎が優しくて、ちょっと不器用だけど暖かい女の子って知ってるから」

 流石にこんなセリフを相手の顔を見て話す勇気はないから顔をいろんな方向に向けていた。

 とりあえず青崎の表情を確認しようと正面を向いたのだが・・・・


 また俯いてる!!!


 やばい、ちょっとキモかったかも・・・・

 知り合って二か月くらいの・・・・同じクラスの男子が何言ってんだって思われても仕方ない・・・・

 こう言うセリフはイケメンにしか許されていないのか・・・・神よガッデム!!

 頭を抱え悩み考えていると彼女は顔を上げ・・・・また目が合った。


「ありがとう」

「ど、どういたしまして。」

 その言葉を受け俺は、一言だけ返した。


「それで・・・その話は変わるのですが・・・・」

「ん?」

 急に顔を赤くしながらモジモジしだす青崎・・・・・お花でも摘みたいのかな?


「先程の赤城君の発言は・・・・本当ですか?」

「ん?さっき?」

 上目づかいでそう聞いてくる青崎だったが、何の事を言っているのかがわからない。


「ですから、その・・・・私の事を・・・・・友達と・・・・」

「あっ!ご、ごめんさっきは勢い余って言っちゃったけど・・・・迷惑だったよな」

 確かに言った、《クラスメイトで友達だ》って・・・・勝手に友達認定してすいません。


「め、迷惑じゃないです!」

「私も、赤城君とお友達になりたいなぁと思ってました」


 何この表情・・・・上目遣いで恥じらいながらチラチラとこちらを見てる。


 普通に可愛い・・・・っといかんいかん。


「なら、改めてよろしく」

「はい!こちらこそ」

 青崎と握手をし、ようやく彼女と友達になることができた。


「にしてもあのおじさん帰ってこないな・・・・」

「で、ですね・・・・」

 不良を追いかけたっきり帰ってこない飯田のおっさん。

 流石に逃げ切れそうにないと思うが・・・・殺してないよな?


「もう時間もおそいですし、赤城君は先に帰っていてください」

「私は飯田さんが戻ってきたら帰りますので」

「了解、じゃあそうさせてもらうよ」

 その言葉を聞き俺は帰宅しようと歩き出したが、一つ言い忘れていた事を思い出し、再び青崎の方へ振り返る。


「青崎さん!」

「はい?」

「またな!」

 そう伝えると青崎は微笑み

「はい!また明日」と返してくれた。




 いい事をした帰りは気分がいいなぁ。

 こりゃ夕飯も美味しいだろうなぁ。

 こういう時にお酒を飲むと格別においしいのだろうか?

 青崎と別れ自宅まで先程の事を思い出し歩いているとすぐに自宅についた。


 あれ?誰かいる・・・・

 遠目でよくわからないが自宅前に人がいる事が分かった。


「あっはる!」

「なんだ香織か・・・・」

 不審者だったらどうしよかと思ったが、そこには顔の見飽きた幼馴染がいた。



「随分遅いご帰宅だね、何してたの?」

「お前のノートを取りに行ってたんだろうがぁ!!!!」

「イダっ!イダダダ!!」

 このまま手に持ったノートを握りつぶしてやろうかと思ったが、流石にそれでは俺の苦労が水の泡になるので代わりに香織の頬を思いっきり引っ張った!


「ご、ごべんだばいごめんなさい!!」

 頬を引っ張ったままだったので変な言葉になったが、まぁいい許してやろう。


「あ、そうそう明日お母さんが、はるも一緒に晩ご飯どうか聞いてたよ?」

「うーん、じゃあせっかくだしお邪魔させてもらおうかな」

 親が仕事で家にいないと言うラブコメ主人公的家庭環境の為たまに香織の家で夕食をご馳走になっている。

 香織のお母さんは毎日でもいいって言ってくれてるが流石に申し訳なさ過ぎて断った・・・・


「うん、じゃあお母さんに伝えとく」

「あんがと、お休み」

「うん、お休み~」

 そう伝え、お互いの家に帰った。


 * * * *


 あっ、帰ってきた。

 赤城君と別れて十分後、飯田さんが戻ってきた。

「お嬢!お待たせして申し訳ありません!」

「えぇ、お疲れ様。」

「お嬢の周りにたかる虫は排除しました!」

 殺してないでしょうね・・・・

 ま、まぁとりあえず帰ろう、今日はいろいろあって疲れたわ。

 帰宅しようと歩き出した時、飯田さんが大きく言葉を発した。


「お嬢!!!」

「な、なに!?」

「今回はワシに挽回の機会を与えていただき、感謝します!」

「ば、挽回?」

 何の事?そもそも飯田さんがこの場にいること自体予想外なのに・・・・


「お嬢自ら手を下していれば、あんなガキどもを瞬殺できていやろうに、わざわざワシに今朝の件を挽回させていただくチャンスを与えてくださるなんて・・・・・流石はお嬢!!!」


 ほ、本当に何の事ーーー!?


 青龍会のヤクザ達が青崎の本心に気付くのはいつになるのやら・・・・


 * * * * 


 パパのリムジンに乗り、パパの部下に運転をしてもらういつもと同じ登校。

 いつもと同じ道、いつもと同じ出迎え。

「「「「お疲れ様です、お嬢!!!!」」」」

「おはよう・・・・」

 いつもと同じ視線。


「聞いたか?青崎さん、また西高の不良を返り討ちにしたらしいぞ!」

 いつもと同じ噂話。


 でも今日はいつもとは違う。

 ”友達”がいる学校に行く高揚感


 教室の扉を開けるとある男の子と目が合う。

 彼の傍まで行き、声をかける。

「おはよう、赤城君!」


 彼は微笑み挨拶を返してくれた。

「おはよう、青崎さん!」


 やっと言えた・・・・


 * * * *


 俺の通う高校には有名人がいる。

 容姿端麗で成績優秀、関東最大規模のヤクザ組織【青龍会】会長の愛娘【青崎楓】

 後はそうだな・・・・・・

 優しいけど少しおっちょこちょいってのも付け足そう。



 ーーーーーーーーーーーーーーー

 後書き

 読んでいただきありがとうございました!

 下手くそな本文ですみませんw

 終わり!みたいな書き方しましたが、まだ書きたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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