ドスの利いた声

「おはよう・・・・」

青崎が車から降りて来るや否や中腰で校内に響き渡りそうな声量で男達は挨拶をしたが、青崎は気怠い表情のまま一言挨拶を返し、二列に並んだ男たちの間にできた道を歩き校舎に向かった。


高校入学から二か月が経ち、流石に皆慣れてきた頃だったが・・・相変わらず凄いな・・・・


「なぁ知ってるか?青崎さん、先週は睨んだだけで西高の不良グループが逃げてったらしいぞ」

「まじか!あの西高の不良たちを一睨みで、とは・・・やっぱ暴走族を一人で壊滅させただけはあるな!」

「青龍会、会長の娘って肩書は伊達じゃないよなぁ」


でたよ、青崎最強エピソード。

噂では百人規模の暴走族を一人で壊滅させたとか何とか。

ここら辺の不良は青崎と喧嘩をするまでもなく降参するらしいし。

俺にはとても喧嘩をする様な女の子には見えないんだけどな・・・

今だって姿勢よく学生カバンを体の正面で持ち、歩いている。

喧嘩よりも桜の木の下で読書している姿の方が容易に想像できそうだ。


「はる?」

「っ!?」

「あはは、何顔赤くしてんの?はるったら変なの~」

「やかましい!」

青崎の方を見てたら、お前が急に視界に入ってくるからだろ!

なんでそんな至近距離にくるんだ・・・


「ほらいくよ。どうせはるには縁の無い相手だって」

「うっせぇ!てか手を引っ張るな!」

お菓子コーナーで駄々をこねる子供の手を引く母親のように香織が俺の手を引っ張りだしたその時。


あっ・・・

視線の先で男子生徒と青崎がぶつかってしまう光景を目にしてしまった。


「おいゴラァ!クソガキ!!」

正門付近にいる全員の視線が青崎の方向に向かった。

ヤクザの列の一番前にいた男が青崎にぶつかった男子生徒を見下ろし・・・・おっかねぇ。


「おどれぇ!うちのお嬢に何ぶつかっとんじゃ!!」

「ひっ!!す、すいません!!!」

「前見て歩くよう、かぁちゃんに教わっとらんのか?」

「すみません、スマホを見てよそ見してました!!!」


終ったなアイツ・・・

俺含めこの光景を見ていた全員がそう思った時。


「ねぇ・・・」


!?


なんだ今のドスの利いた声・・・ヤクザの誰かか?

空気が凍る様な音が聞こえた気がした・・・


「何しての、飯田」

「お、お嬢!!し、しかしこいつが・・・」

「我ぇ、うちの言った事もう忘れたんか?」


我って何!?青崎口調変わってんじゃん・・・て言うかあの声、青崎だったのか。

あのおっさん青崎に片膝ついてるし、汗めちゃくちゃ出てんじゃん!!


「うっ・・・!」

「と、登校の見送りを認めていただく代わりに、校内で騒ぎを起こさない・・・」

「そうやなぁ、おどれらが心配やってギャアギャア騒ぎ立てるから、うちが仕方なく見送りを認めたってのによぉ」

「何さらしとんじゃ!ボケェ!!!!」

顔を近づけ怒鳴り建てる青崎、多分あのおじさん泣いてるな・・・

って言うかそんな理由であのおじさんたち居たんだ・・・


「坂口!!」

「はいっ!!」

「こいつ、矯正しとけ!!!」

「はいっ!」

青崎に呼ばれたであろう男が列からズレ、”飯田”のおっさんを連れ出し消えた・・・


「おどれらも見送り続けたいなら、そこんとこよう考えて動けよ」

「「「はい!!!!」」」


嘘だろ!?

え?青崎って怒ったらあんな怖いの!?

いや、ヤクザの連中めちゃくちゃ震えてるし、ラグビー部くらい声でてんじゃん・・・・まじか・・・


そのままヤクザは撤収し、青崎は生徒たちの視線を集めながら校舎に向かった。


「まだ幼馴染、交代してほしい?」

俺の肩に手を置き、香織はそう聞いてくる。

コイツ根に持ってるな・・・

あんなゲームや映画でしか見たことないシーンを見たら答えなんて決まってる。


「香織がいいです・・・」

「そっかそっか、やっぱりはるは私の事大好きだね!」

「へいへい」

誰も好きとは言ってない・・・て言うかなんでコイツこんな上機嫌なの?

いつものように香織の発言を聞き流し、俺たちも校舎に向かった。


* * * *


「はる!今日は先に帰ってるんだよ!」

「お前は俺の母親か!!」

教室のドアの前で俺に向かい手を振る香織。

香織とはクラスが別々で、ほとんど毎日いっしょに登校しては教室に入る前に”何か”を言ってくる。

そのせいで・・・


「おうおう、本日も仲のいい事で」

こう言う馬鹿が変な反応してくるんだよ。

陽気で茶髪が特徴的なクラスメイト・・・


「辰彦・・・お前は教室の扉の前で俺を待つとか、毎日暇そうだな」

「なにぉー!親友に向かってなんだその態度は!」

「ははっ、いつ親友になったんだよ」

「ったく、お前はホント素直じゃないな」

高校で初めてできた友達、加納辰彦かのうたつひことは何だかんだいい関係を保てている。

それもこれも、辰彦の明るい性格のおかげだな。

まぁ本人に言うのは小恥ずかしいから黙ってるけど。


「そう言えばよ、今朝の青崎さんの件聞いたか?」

「聞いたって言うか、見てた・・・」

「マジか!!実際どうだったよ?」

「いや、まぁギャップに驚いたけどさ」

「うんうん」

「なんか悲しそうな表情してた様な気がしてさ・・・」

ヤクザの連中が学校から出ていく時確かに青崎の表情が曇ってる様に見えた・・・

あんなに生徒がいる前でブチ切れたらそりゃ、落ち込むだろうけど。


「気のせいだろ。見ろよ、普段通りの青崎さんだぜ」

「・・・たしかに」

辰彦が親指でクイクイッと指を指す。

その先には本を読む青崎がいた。

窓側最後列さいこうれつの席で誰とも喋る事もなく、何事もなかったかの様に普段通り読書をしている。

気のせいだったのかな・・・


あっ・・・

一瞬、青崎と目が合ったが直ぐに本の方へ視線を戻った・・・


「ほらほら、席に着け~」

「やべっ!遥、また休憩時間に」

「りょーかい」

担任の号令に皆それぞれに席に着き始め、今日も退屈な授業が始まった。

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