第4話 本との出会い

涼介の死からしばらく経ったある日の午後、香織は探偵事務所の片隅にある涼介の本棚に目を向けた。涼介が生前に愛読していた数々の本が並んでいるその本棚は、彼の思考と感性が詰まった宝物のようだった。香織は一冊の本に手を伸ばし、そっと取り出す。それは吉本ばななの『時のかなたで』だった。


表紙に描かれた淡い色彩の風景画と、涼介が読んだ痕跡を感じるページの折り目に、香織は彼の存在を感じた。彼が最後にどのページを読んでいたのかを知りたくなり、香織は慎重にページをめくっていった。そして、涼介が最後に読んでいたであろうページにたどり着くと、そこには失った愛や絆について綴られた一節が広がっていた。


香織はその一節を静かに読み始めた。吉本ばななの優しい筆致で描かれた物語は、過去の愛を思い出し、未来へと歩み出す登場人物の姿を描いていた。失われた愛を乗り越え、新たな希望を見つけるための物語は、まるで涼介が香織に贈るメッセージのように感じられた。


「愛は時を超えて続くもの。どんなに遠く離れても、絆は永遠に消えることはない。」その言葉が、香織の胸に深く響いた。涼介がこの本を読みながら何を思っていたのか、どんな気持ちでこの一節にたどり着いたのかを想像すると、香織の目から涙がこぼれた。


香織は本を閉じ、涼介との思い出を心に刻みながら、自分自身の人生にも新たな意味を見出していく決意を固めた。涼介の教えと共に、この本が彼女にとっての新たな希望の象徴となった。


夕暮れ時、事務所の窓から差し込む柔らかな光に包まれながら、香織は本棚に本を戻し、涼介の微笑みを思い出した。彼の愛と絆は、いつまでも彼女の心の中で生き続ける。吉本ばななの『時のかなたで』は、香織にとっての新たな道しるべとなり、彼女の未来を照らす光となった。


香織は、涼介が教えてくれた探偵としての誇りと使命を胸に、これからも前に進み続けることを誓った。失った愛や絆を抱えながらも、新たな希望と共に生きていく姿が、香織の心に深く刻まれたのであった。

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