【完結】時の流れに咲く桜

第3話 日常の中の感謝

涼介の死からしばらく経ち、香織は少しずつ日常を取り戻しつつあった。探偵事務所のドアを開ける度に、涼介が迎えてくれたあの微笑みを思い出し、胸の奥に温かな感覚が広がる。彼女は涼介の遺志を継ぎ、事務所の仕事を続けることを決意していた。彼の教えを胸に、香織は日々の案件に向き合っていた。

事務所の窓から差し込む柔らかな陽光に照らされながら、香織はデスクに向かう。かつて二人で並んで使った机の上には、涼介が愛用していたペンとメモ帳がそのまま残っている。彼の存在がまだここにあるようで、香織は微笑みながら手を伸ばした。

ある日、香織は町の小さなカフェで朝食をとることにした。カフェのテラス席から見える港の景色は、涼介と過ごした数多くの朝を思い出させる。二人で飲んだコーヒーの香りや、共に話した未来の夢。そんな思い出が、今では香織にとって日常の一部となっていた。

カフェの店主がふと声をかけてきた。「お元気そうですね、三田村さん。涼介さんもきっと喜んでますよ。」その言葉に、香織は小さな幸せと感謝の気持ちを感じた。彼女は店主に微笑み返し、心の中で涼介に「ありがとう」と呟いた。

香織は涼介との思い出を胸に、毎日の生活の中で小さな幸せや感謝を見つけていく。町の人々との触れ合い、解決した案件の数々、そして新たに訪れるクライアントとの出会い。涼介が教えてくれた探偵としての誇りと使命感が、香織を支え続けていた。

涼介が遺してくれたものは、単なる思い出だけではなかった。彼の存在は、香織の心の中で生き続け、彼女にとっての光となり、道を照らしていた。香織はその光を頼りに、前に進む力を得ていた。

夜が訪れると、香織は事務所の窓を開け、涼介との日々を思い返す。涼介の存在があったからこそ、今の自分があるのだと。彼の笑顔と優しさに感謝しながら、香織は新たな一日を迎える準備をするのだった。