終末回避系ガチ恋物語
アールグレイ
第1話 引退
正直、俺――赤月ヒロキはガチ恋勢ってやつだと思う。でも、それでいい。Vtuber「おおだまドロップ」のことが本当に好きだし、彼女のために何かしてあげたいと思う。
いや、出来ることなんて応援だけだけど、その辺はわきまえているガチ恋勢なのです……。
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配信が始まり、ヒロキはコメントを入力して送信する。
『こんどろ~』
ちなみにこんどろとは、ドロップの配信特有の挨拶だ。しばらくすると、画面上にドロップの顔が表示される。
ツヤツヤのスカイブルー色のバードテールと透き通る水色の瞳が特徴の愛らしい少女の姿で、パステルカラーのフリルワンピースに、大きな赤いリボンとキャンディ柄のスカートが彼女の可愛らしさを引き立てる。頭の上には、トレードマークの大きな飴玉型の帽子がちょこんと乗り、動くたびに小さな鈴がチリンチリンと可愛らしい音を奏でる。
『きちゃ~』
ヒロキは興奮を隠せない様子で、コメントを打ち込んだ。
「みんなお待たせ~、こんどろ~」
画面上にドロップの笑顔が映し出され、コメント欄が一気に加速する。
「今日は、雑談をやっていくよ! トークテーマは……」
ヒロキはチャットと会話の流れをチェックし、次のコメントを打ち込む。
『あのアニメ面白いよね!』
「そう、あのアニメは良いよね! 私、あのキャラがすごく好きで……」
「コメント拾われたぞ!」
おおだまドロップはお世辞にも大手Vtuberとは言えないので、コメントの流れもそこまで早くなくコメントが拾われることも珍しくないが、それでもやっぱりうれしいものだ。
ヒロキは心の中でガッツポーズを決める。同時に、ドロップが好きなキャラについて熱弁を振るい始めると、ヒロキはすかさず反応する。
『わかる! 意外とかわいいよねw』
画面上にはヒロキのコメントが表示された。おおだまドロップはその言葉に反応し、コメントを拾ってくれる。
「そうそう! そういうギャップも魅力で~」
配信は進み、おおだまドロップと視聴者との間で和やかな雰囲気が広がっていく。ヒロキも他のファンたちと一緒に楽しい時間を過ごしていた。しかし、その時、おおだまドロップのトーンが少し変わったことに気づいた。
「実は、みんなに大事なお知らせがあります。事前に心の準備させられなくてごめんね……」
その一言で、コメント欄は一瞬にして静まり返る。ヒロキも不安な気持ちで画面を見つめる。
「私は、今月末で活動を終えることにしました」
「えっ……」
まるで心臓が止まったかのような感覚に襲われる。コメント欄には『嘘だろ』『突然すぎる』『なんで?』『まだ続けてほしい』という声が溢れる中、ヒロキの手は震えすぎてコメントを打ち込むことができなかった。
「みんなとの時間は本当に楽しかったし、感謝の気持ちでいっぱいです。でも、いろいろな事情があって、この決断をしました」
おおだまドロップの声はどこか悲しげで、本当に何か事情があることが察せられた。
「なんで……」
ヒロキはその声に涙が滲んできた。何か言いたい、何かできることはないのかという思いで胸を締めつけられる。
その夜、ヒロキはほとんど眠れなかった。おおだまドロップの引退が世界の終わりのように感じられ、何も手につかなくなったのだ。
半ば即身仏のような姿でぼーっとパソコンの前に座るヒロキ。そんな時、突然パソコンの画面に異変が起きた。画面が暗転し、奇妙なメッセージが表示されたのだ。
「おおだまドロップの引退を阻止せよ。さもなければ、世界は滅びる」
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