テイミングモンスター

@nao74

第1話

 モンスターマスター。


 それはモンスターと心を通わせ、共に生きる者達モンスターテイマーの頂点に立った者への称号である。

 正確には、10年に一度テイマー達が自身の育て上げたモンスター達の力を競わせあう競技、モンスターバトルの世界大会が開かれる。この大会の頂点に立った者がモンスターマスターと呼ばれ、人々から称賛の声を浴びるのである。



「はい。ここまでは皆さんご存じだと思いますが、この一歩手前。そもそもこの世界大会に出場する参加資格を得るためにどうすればいいでしょう? レオル君。答えなさい。」


「えっ……あっ、はい!」


 ガーリック教諭は教室にいながら夢の世界へ旅立っている一人の生徒を指名する。レオルと呼ばれたこの生徒は、教室の一番後ろの窓際という最高のポジションに座っており、黒髪を揺らしながら慌てて立ち上がる。まだ覚醒しきれていないその瞳は、黒目をキョロキョロと左右に動かし、最終的には自身の右隣の席の少女へと懇願するように視線を向ける。


「はぁ。」


 少女はため息をつきながら、呆れた表情でノートの端っこをレオルへ見えるようずらした。

 そこには「好きなモンスターは?」と、一言だけ書かれていた。

 それを見たレオルは勢いよく答える。


「ドラゴンです!」


数泊置いたのち、この回答にクラス中から笑い声が上がる。


 少女以上の呆れを表情に滲ませながらガーリック教諭が告げる。


「ドラゴンをテイムする必要はなく、テイマー協会の定めるテイマーランクでランク5以上を獲得することです。レオル君は廊下に立って目を覚ましてから帰ってきなさい。」


「……はい。」


 全てを把握したレオルは、下を俯き必死に笑いを堪えている少女を恨めしそうに見ながら教室を後にするのであった。


 レオルが廊下に立っていると、突如教室内の生徒達が大きくざわつき歓声が聞こえてくる。その様子に気になりソワソワしているレオルであったが、結局授業が終わるまで教室に戻されることはなく、孤独感を味わうのであった。

 

 授業が終わった後、休み時間中も説教を受けたレオルが教室に戻ってくると、少女へ向かい静かに怒りを表す。


「レイラさん、あなたの趣味の悪さは存じ上げていますが、今回は酷いと思わないですかね?この薄情者。」


「あら? 私はちゃんと教諭の質問を書いたノートを見せたわよ。勘違いした貴方が悪いんじゃなくて? 」


 そういってレオルに向かって先ほどのノートのページを見せると、「好きなモンスターは?」の下に小さな文字で教諭からの質問を書き示していた。


 「そんなん読めるか!」


 感情を露わにするレオルに対して、その後もレイラは怒りの追加燃料とばかりに薪を追加していき、ひとしきり反応を楽しんでいた。

 

 やがて予鈴のチャイムが鳴り、ざわついていた生徒達も全員席の方へと向かう。レオルとレイラは隣同士のため、変わらずレオルがからかわれ続けているが、本玲が鳴り、改めてガーリック教諭が教室に帰ってくると大人しくなる。


 ガーリック教諭は手に持ってきた資料を教壇の上に置くと、クラス全員を見渡し口を開いた。


「では今回の授業ですが、先ほど伝えたように皆さんにモンスターテイムをしていただきます。」


 その言葉に教室内の生徒達から歓声が上がるが、レオルだけは言葉の意味を咀嚼しきれず、脳内が疑問の声で溢れかえってきていた。

 あまりについていけなかったレオルがまたもやレイラに顔を向けると、苦笑を浮かべながら今度は答えてくれた。


「さっき貴方が教室を出た後に教諭が今後のカリキュラムを教えてくれたのよ。次の授業はモンスターテイムの実践で、テイムが完了したらテイマー協会に登録しにいくそうよ。ちなみに今年度の課題としてテイマーランク2を獲得しなければ落第だって。」


「……何故、そんな大事なことをわざわざ俺がいないところで言う?」


「先生曰く、世の中はやるべき事をやるべき時にやらない人間は淘汰されていくそうよ。」


「寝てた俺が悪いけど、血も涙もねえな。」


 レオルはばっさり見捨てられていたことに悲しみながらも、気持ちは実習の内容を想像し、高ぶっていた。

 モンスターテイマー養成学校に入学して2年目の春。苦しい座学続きの授業を乗り越えたレオルは、ついにモンスターテイマーへの道を一歩歩みだす機会を得るのであった。



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