異星愛者

しろしまそら

宇宙人みたいな人と結婚しました

 私は地球人。


「もしかして、君って相当変わっている?」


 だけどちょっぴり人間が下手くそ。


「おっと、ついにお気づきになりましたか旦那」


 宇宙人みたいだとよく言われる。


「地球人のサンプルとしてはずれ値なんじゃないか?」


 そんな私の夫は正真正銘の異星人だ。


***


「いやいやかいさんやい、だが考えてみようよ。そもそも普通ってなんだろうね」


 星野海ほしのかい(仮)、三十歳男性(仮)、困惑の面持ち。


ひかりさん、今はそういう抽象的な議論をしたいわけじゃないんだよ」


 私こと星野光ほしのひかり二十八歳女性を緩やかに諭す。


「海さんはさ、地球人の調査報告義務があるって言ってたじゃない」


「そうだよ」


「地球って広くない? 地球の中でも例えばアジアとヨーロッパではだいぶ文化が違うじゃない?」


「生活拠点とする文化圏の人々の調査報告が義務付けられているんだよ」


「なるほど、日本人のサンプリングが必要なのね」


「その通りだ」


「たしかに夕飯にチャバブチッチを食べる日本人は標準的な報告に相応しくないかもね。明日はお寿司をとろうか」


「単に寿司が食べたいだけなんじゃないかいそれは」


 私たち夫婦が最も多くのコミュニケーションを取るのは、主にこの週末の夕飯時である。


「まあ、君のデータは、今回の研究のサンプルからは外させてもらおう」


「なんの研究してるの?」


「教えられない。衛星機密だ」


「へえ、故郷の星は惑星の周りを公転する天体なのね」


「ささやかな単語から母星の情報を汲み取らないでくれ」


 学者などの人間には宇宙人のような人間が時折居るから、夫のことも初めはその類だと思っていた。


 なお、夫は地球学者ではない。地球に滞在している異星人はみな地球に関する報告義務があるらしい。


「話は変わるけど仕事は順調?」


「塩基間違えがあって大変だった。幸か不幸かストップコドンになってしまってね。翻訳が途中で止まってしまった」


「そりゃ災難ねえ」


 夫の仕事はベビーズデザイナーだ。デザイナーズベビーの遺伝子コードを作るお仕事。


「私の方ばかり情報を取られるのもおかしな話だし、私にも海さんをインタビューさせてよ。天然生殖で生まれる子供ってどう思う?」


「野生の力ってすごいと思う」


「私と海さんが交尾した場合、子って出来ると思う?」


「いきなりぶっ込んで来ないでくれ」


「どうなん?」


「逆に違う星の別の生き物との間に子供が出来ると思うのかい?」


「ウマとロバは別種だけど交配でラバが生まれるじゃない?」


「そうなんだ」


「でもラバはそこから先、ウマとの間にもロバとの間にも子供が出来ない。孫が出来ないことが別種である証明になるじゃん?」


「それこの星では常識レベルの知識なのかい?」


「そうでもない」


「そうでもないんかい」


 穏やかな夕食が終わったら、お次はお風呂だ。


「常識と言えば、実は『週末は風呂に湯を張らずにシャワーで済ませる』はローカルルールなんだ、我が家の」


「極小範囲の常識だったのか。母星に報告済みなんだが、訂正しておくよ」


 夫婦は一緒にお風呂に入るもの、という常識も見解が別れるのだけれど、それはまた今度教えてあげよう。


「さて、海さん、じゃあ実験してみようか」


「こういう時、君は異星人だなと思う。好きだけど」


 夫婦は一緒の布団で寝るもの、という常識も見解が別れるのだけれど、それは教えてあげるつもりはない。

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