第二十六章 Mate 4/5

「──ちょっといいか!?」


ダイキと僕が黙ると、僕の隣から大声が上がった。爺ちゃんの声だった。

「お前さんの復讐なのは分かった! だが、じゃあ何故カオルがそこに居る!? まさか、人質だとでも言うんじゃないだろうな?」

「え、っと……武田ギンジさん、でしたっけ」

ダイキはそう言い、頭を掻く。「人質なんてモンじゃありません。むしろ、この人は俺と同じ目的を持っていた人です」

「同じ目的……?」

僕は口を開く。ダイキはうなずいた。


──『同じ目的』ってつまり、復讐……?


「この人も『文字戦争』で自分の夫を亡くしてる。動機は俺と同じだ」

「ちょ、待てって! お前とは状況が全然違うだろ!?」

「同じだよ。俺もこの人も、文字戦争の被害者という点では、な」


僕はダイキの言葉を無視し、母親に顔を向け、「母さん!」と言った。

「文字戦争を始めたのは母さんなの!? 僕を参加させたのは、母さんの判断!? 僕の命よりも、父さんの復讐の方が大事だったってこと!?」

僕はまくしたてるが、母さんは何も答えなかった。僕が「何か言ってよ!」と言うと、口元を固く結び、声を押さえて涙を流し始めた。

「なんで……泣くんだよ……」

「マナブ。お前、根本的に勘違いしてるぞ」

そこでダイキが口をはさんできた。「今回の文字戦争を始めたのは俺だ。お前を巻き込んだのも俺。この人は関係ない」

「関係ないって……」

「むしろ、この人はお前を助けていた。今回の殺し合い中、ずっとな」

「え……」

僕は再び母さんに顔を向けた。まるで失恋した直後の少女のような華奢な表情で、母は僕の目を見て泣いた。声こそ出ていなかったが、大粒の涙が頬を伝うたびにえずくような音が鳴る。


僕はその時やっと、最大の謎の真相を理解したのだった。


「マナブ。お前、文字戦争2日目の事覚えてるか?」

「2日目……」

「ああ。『K』の文字の所有者──伊藤コウタロウがお前を襲った事件だ」

「ああ……忘れもしないよ」

「俺たちはアレを遠くから見ていたワケだが……どうもお前が負けそうだったんでな。カオルさんが泣いてお願いしたんだ」

「お願い?」

「『マナブを助けて』、ってな。で、あの日は俺が助けに行ったワケ」

「あれはお前だったのか……」

伊藤先生に銃を突き付けられてまさに絶体絶命だった時、いきなり先生の足元が爆発し、頭上にバスが現れ、先生を圧死させた。その時、学校の制服を着た人影が見えた……。


「ひいきするつもりは無かったんだけどな。あれは一度限りのサービスのつもりだった。でもこの人はこう言ったんだよ。毎回の戦いで息子にサポートがなければ、安心して見ていられない、ってな。勝手な人だよ、ホントに」

「母さん……」

「だが、毎回俺が出ていくワケにもいかんだろ? 大変だし、何よりお前にバレる危険性があった。だから俺は俺の身代わり──つまりコピーが必要だった」


ダイキが僕の隣を指さし、示し合わせたかのように僕は斜め後ろを振り向く。

そこに、鴨ちゃんが立っていた。


「そうだ」

ダイキは言った。

「──鴨川ダイヤは、お前を助ける為に、『文字』によって作られた存在だ」

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