第二十三章 Impending 6/7
──そうして1日が終わり、2日目が終わり、3日目、つまり9月12日の朝が始まった。
今夜19時に待ち合わせ、僕たちと『I』、そして『Q』は殺し合う。
僕はスマホを取り出し、枕元に置いてあった腕時計の文字盤を見た。
「……よし」
僕はスマホをポケットに入れ、ベッドから出る。カーテンを開け、顔を洗い、朝食を食べた。
そうして1時間が過ぎ、2時間が過ぎ、3時間が過ぎた。僕は不安になって何度も携帯と腕時計を確認したが、結果は変わらなかった。
僕は昼食を食べながら鴨ちゃんに電話をし、作戦の再確認をした。この時点で鴨ちゃんの仕事は8割ほど終わっていたが、彼女にはもう少しやってもらわないといけない事がある。
僕は電話を切ると、天井を見上げた。
──これで最後か。
今日、この殺し合いに決着がつく──のだろうか。今まで歩んできた道のりが長すぎて、なんだか幕引きがあっさりとしているような気がした。
「いやいや」
僕はそう思いかけ、首を横に振る。戦う前から勝った気ではいけない。なにせ相手はセイジさんを殺した『I』と鴨ちゃんを殺した『Q』なのだ。鴨ちゃんは帰って来たとは言え、2人の仇をここで討つ。そう考えると僕は武者震いを抑えられなかった。
勉強に手をつける気にもなれず、僕はそのままぼーっとして夕方まで過ごした。
そして、僕の腕時計が午後6時を示した時──。
携帯が鳴った。
「はい」
僕は答える。電話の向こうからは予想通り、『もしもし』という桐生イオリの声が聞こえてきた。
『岩橋マナブ君。決戦の地を決めました』
「勝手だな。僕にも決める権利が欲しいよ」
『あ……いえいえ、何か提案があるなら聴きますよ、もちろん。ただ、なにぶん僕は車椅子なので、山の上とか坂道はやめてくださいね』
「そんなの提案したら、どうせお前は来ないだろ? 大丈夫、普通の場所だ」
『どこでしょう』
「鎌倉市」
僕は、携帯を握りしめながら言った。
「鎌倉駅周辺の市街地だ」
『……理由を聞いても?』
「特に無い。お前はただ『Yes』か『No』で答えろ」
「鎌倉市に罠が仕掛けられている可能性は?」
「否定できない。でも、それはお前が場所を提案しても同じだろ」
『まあ……そうですね、いいでしょう。Yesです。では、3時間後に鎌倉駅で会いましょうか』
『I』がそう言った瞬間、僕の心臓は高鳴った。
『I』と『Q』。
2人の事はよく調べた。
『I』──桐生イオリ。華能国立大学4年、21歳。藤沢市の住人。そのずば抜けた頭脳で、休日には別の大学やセミナーなどで講義をしている、本当の秀才。下半身は動かないが、その分の力を頭に回したような人物。
『Q』──クァントレル・クェンティーナ。ネットにあまり情報は無かったが、26という年齢と横浜市のオフィスビルに勤めている事は分かった。鴨ちゃんの情報によると『Quick』で速度を上げ、パンチやキックなどで攻める肉弾戦が得意。一発殴られただけで鴨ちゃんは意識が無くなり──恐らく、一度死んだ。単純に威力が高いのか、なにか単語を使っているのかは不明。
今からこの2人と相まみえる。そして、殺し合う。
最終的に生き残るのは──今の会話の内容から確信した。僕たちだ。
桐生イオリは、自分の間違いに気付いていない。
「分かった」
僕はそう言って電話を切った。そして、3時間が立つのをじっと待った。
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