第二十三章 Impending 3/7

それから僕たちは他愛のない話を10分ほどしていたが、やがて鴨ちゃんが「ごめん、ちょっと耐えられない」と言うと、近くにあったゴミ袋の山に手を突っ込んだ。

「何してんの?」

「全部捨てるの。手伝って」


そうして3回に分けて全てのゴミを運び出し、アパートの隣のゴミ捨て場に捨てると、部屋は別物のようにさっぱりとした。

「おお……」

「ね? 捨てるとスッキリするでしょ」

ゴミが消え、部屋が広くなっただけの話ではない。精神的にもなんだか悪いモノが無くなったような気がした。

思えば、この1か月ずっと重いカバンを背負ったまま生きているような感じだった。鴨ちゃんがそれを外してくれて、今やっと気付いた。


ヨシアキの死。鴨ちゃんとセイジさんの死、そこからくる責任感。『P』の死、そして無力感。

これまで僕を押さえつけていた重たいものが、少しだけ軽くなった気がした。

「ね、マナブくん」

ふと、鴨ちゃんがこちらを振り向いた。

「片付いたしさ、今日ここに泊まってっても良い?」

「あ、え、ひゅ」

僕はたじろいだ。


──マジで?


何を期待しているのか、鼓動がどんどんと速くなった。これで「一緒にお風呂入ろ」などと言われたら間違いなく心臓が爆発四散していたが、幸い鴨ちゃんはそこまで淫乱ではなかった。

「あ、ハイ、あの、えと」

「良い?」


もはや声帯が消えたのでは、と思うほど声が出なかったので、僕は首を縦に動かした。鴨ちゃんはにっこりと笑って「ありがと」と言った。



その日の夜、僕は床に毛布を何枚か敷き、その上に寝転んだ。

鴨ちゃんには僕のベッドを貸してやった。

そして2人で仲良く眠りについた。


──うん、何も起きてない。

変な事は何も起きていないぞ。何を期待している。

いや、期待していたのは僕自身かもしれない。何も起こらなかったことにガッカリしている自分と、何も起こらなかったことに安心している自分がいた。

キスより先には発展しなかった。


──『じゃあなんでキスしたんだよ!』


鴨ちゃんは何を考えているんだ? 男子高校生の家に泊まって、本当に何も起こらないと考えているのか? これ以上の発展を期待しているんじゃないのか? さっきのキスは『それ』の許可じゃないのか?


もんもんと布団の中で考えを巡らせていたが、『自分から行動する』という思考には至らなかった。ひとえに経験不足のせいだが、ここで彼女の寝ているベッドに潜り込むほどの勇気は僕には無かった。


妄想と現実の狭間をまるで反復横跳びのように移動していると、なんだか頭が疲れてきた。

そして僕は、午後10時10分という非常に健康的な時間に眠りについた。

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