第二十三章 Impending 1/7
昨日、鴨ちゃんが帰ってきた。
自分でも何を言っているのか分からないが、事実、彼女は僕の目の前に現れた。まあ、現れたと言ってもいきなりパッ、と出現したわけではなくて──
「──鎌倉から電車で来たの」
と彼女は言った。
僕の頭は当然『???』で埋め尽くされ、矢継ぎ早に様々な質問が口から飛び出した。『本物の鴨ちゃん?』『死んだんじゃなかったの?』『なんで鎌倉から?』『記憶は残ってるの?』などなど。
ただ、この質問は1つも答えられることなく終わった。なぜなら当の鴨ちゃんも「何が起きたのか、全然分からない。覚えてるのは金髪の女性に殴られた事と、それから自分の部屋で目覚めた事だけ」と言ったからだ。
つまり、およそ3週間の記憶が彼女にはなかった。
僕はいったん頭を冷静にし、「ルール」と言って参加者のリストを見た。そこには『残り人数:5』と書かれており、『D』の文字が光って表示されていた。
──増えてる……。
僕は目をしばたたかせる。
── 3週間前に調べた時は、たしかに灰色だったはずなのに。
「なにかの不具合で死んだ事になって……でも実は生きてて……? あれ、でもあの日……」
あの日、鴨ちゃんは僕の目の前で光に包まれて消えた。僕は、たしかにその光景を目の当たりにしたはずだ。目の前で死んだ人が実は生きてた、なんて事が可能だろうか?
それに、どうしてこのタイミングなんだ? 2人が死んでからもう3週間が経っている。なぜ今更彼女が帰ってくる?
「──やっぱり、偽物……?」
見た目はとても似ている。というか、そっくりだ。見た目や声、仕草だけを見たら100%鴨川ダイヤと合致する。だが、『鴨ちゃんの死』という過去の出来事がそれを『ありえない』と否定する。
──生き返ったのか……? たしかに、『R』の文字を持っていた少女は人を生き返らせる事が出来た。文字を使えば不可能な話ではない。
でも、だとしたらどうして? どうして鴨ちゃんなんだ?
「…………」
「あの、さ」
僕が難しい顔をしていると、鴨ちゃん(仮)が声をかけてきた。
「昔もこんな事あったよね。覚えてる?」
「昔……」
僕は呟き、頭をもたげる。以前、鴨ちゃんが死んで──それから復活した……。
「あ」
僕は彼女の言っている事を思い出し、顔を上げる。「病院にいた時か」
「そうそう」
あれはたしか『J』と戦った時だ。槍を投げられて腹を貫かれた鴨ちゃんだが、その翌日には傷が完全に塞がっており、元気ピンピンになっていた。
あの時鴨ちゃんは病院の駐車場で意識を取り戻し、その間の記憶を無くしていた。今日鴨ちゃんがここに来たのも、あの時と同じ事なんじゃないか。
「でも……なんで?」
鴨ちゃんが訊いた。僕も首をかしげる。
なんだか、考えても答えが出ないような気がした。僕はとりあえずパンク寸前の思考を止め、鴨ちゃんを部屋に招き入れた。
何はともあれ、鴨ちゃんは帰ってきた。とてつもなく複雑な感情が胸の中に渦巻いていたが、とりあえずは喜んでいいだろう。
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