第十九章 P.M. 21:00 1/12

「──ねぇ……どういう、事……? それ……」

「……だから、俺ぁあのセイジって青年と、一緒に行動していた」

携帯のスピーカーから、爺ちゃんの声が聞こえてくる。

「偶然、出会った」

「いや……そんな事分かってるよ……。爺ちゃんさ、セイジさんがその後……」

「……知ってる。俺を守って、あの人は……」

「なん、で。そんな」

僕は、携帯をぎゅっと握りしめる。

「マナブ。俺には……何が起きているのかさっぱり分からない。ただ、警察官として、あの青年を守れんかったのは──」

「警察官としてじゃなくてさっ! ……もう、さ、そんな次元の話じゃ、なくて……」

「俺は…………。すまない……。本当に、すまない事を……」

「……もう切るね」


僕は一方的に会話を終え、ベッドに倒れこんだ。抑えきれない感情が、心の底でふつふつと煮えているようだった。


──爺ちゃんは、悪くない。全然悪くない。むしろ被害者だ。

心ではそれを分かっているのに、冷静な言葉選びが出来なかった。爺ちゃんと僕が生き延びれただけでもとても嬉しいのに、それだけでは埋められない穴が、僕の心に空いてしまったようだ。


何故、僕だけ生きてしまったのだろう。

何故、2人は死ななければならなかったのだろう。

何故、あの廃ビルは一瞬のうちに消えたのだろう。


疑問はいくつも募るが、今の僕に冷静な思考なんて出来るワケもなく、僕はぼーっと天井を見つめた。


──『なんのために?』


この数週間、何度同じ質問をしただろう。

何のために戦う?

何のために生きる?

何のために、僕は何のために生き残った?


もう、くだらない。

何もかもくだらない。

何が『文字』だ。何が殺し合いだ。馬鹿馬鹿しい。勝手にやってろよ。


僕はもうやめる。普通の生活に戻る。今後一切戦うものか。戦いに巻き込まれたら、その時は黙って死んでやる。

それが一番、良い終わり方だ。


鴨ちゃんと、セイジさんの為にも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る