第十八章 Dearest Sage 6/7

3秒。いや、5秒ほど経った。

衝撃は……まだ来ない。

何事か、と思い目を開ける。


金髪女性は、消えていた。


「何……だ……?」

いや、金髪女性だけじゃない。車椅子に乗った青年も、床に倒れたシンチィも、散らばっていた麻雀牌も。石の床も、壁も、天井も。何もかもが消えていた。

代わりに、僕の目の前には扉があった。


どこかで見たことがある。そう思った直後、僕は思い出す。

それは、僕のアパートの扉だった。そうだ、この切れかけている電灯もチラシの詰まったポストも、どれも僕の部屋のモノだ。


それに気付いた瞬間、僕の両肩に何かがぶつかった。

「痛……!」

思わず、僕は右方に視線を動かす。


鴨ちゃんが、力なく倒れていた。


「あ……。鴨……ちゃ」

今度は左に視線を移す。

そこには、セイジさんが横たわっていた。


「こ……え……あ……」

僕は1歩、2歩と後ずさる。目元には再び涙が浮かび、まるで物体のように倒れている2人をにじませた。

鴨ちゃん。セイジさん。

2人は、動いていなかった。起き上がるどころか、呼吸すら、まるで、本当に死んでしまったみたいに。


──正直、嘘だと思ってた。

僕は、自分の胸に手を当てる。

──僕を動揺させるための、嘘だと思ってた。また都合のいい事が起こって、2人が無事に帰ってくると思っていた。無事、合流できると思っていた。


違った。

まるで、違っていた。

僕は、呆れるほど能天気な妄想をしていただけだった。


「セイジ、さん。鴨ちゃん」

僕は2人の傍に正座して、2人を抱きかかえた。セイジさんはひどく出血していたが、構わずに2人を抱きしめた。

鼓動は、感じられない。

物を抱きしめたみたいに、2人の身体は冷たかった。僕は流れ出る涙をこらえようともせず、今度は2人の手を握った。

「あ……あああぁ……!」

涙は、いつまでも止まらなかった。僕は2人を抱きしめながら、声を上げて泣いた。


──どうして、急にここに帰ってきたんだろう。

──どうして、あの石の部屋は無くなったんだろう。

──『殺し合い』の第二段階っていうのは、結局何だったんだろう。


気になる事は山ほどあったが、涙が全てそれをかき消した。2人の身体を、動かないその身体を抱きしめるたび、僕はボロボロと涙を流した。


「う……っく……!」

やがて、顔をグチャグチャに濡らして泣いていた僕は、視界の端っこに淡い『光』を見た。ぼんやりと、宙を漂う小さな光。

思わず、僕は下を見た。


その光は、セイジさんと鴨ちゃんの身体をじんわりと包み込んでいた。

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