第十五章 Fire Retinue 5/5

「あ……ひッ……」

僕たちが顔を向けると、レオナという少女は部屋の角まで後ずさり、血だまりに横たわっているフブキを見た。『F』の少年は指先一本動かすことなく、ただの物体のようにそこに倒れている。

「──あっちは、マナブくんがやる?」

ふと、鴨ちゃんが僕に話しかけた。

「え。あ……えっと」

「大丈夫そ?」

「いや……」

手に持った銃を見下ろしながら、僕はため息を漏らす。「正直言って……まだ抵抗あるよ。人を、殺すなんて」

「たとえ、やらなきゃ自分が死ぬとしても?」

「たとえ、やらなきゃ自分が死ぬとしても、だよ。僕は……人を殺せない」

この回答が間違っているとは、僕は思わなかった。僕に正義の心なんて無いけれど、それでも殺人を誇るなんて僕にはとても出来ない。

「……分かった。私がやるね」

鴨ちゃんは一瞬考え、そう言った。この時彼女が何を思っていたのか、僕には読み取れなかった。


その時突然、背後から、じゃり、という音がした。

「…………ッ!」

僕と鴨ちゃんは一瞬で振り返る。最初に視界に入ったのは、燃え盛るような赤だった。


フブキが、こちらを睨んでいた。


──バリアの中…………!


攻撃するべきか、距離を置くべきか、ほんの一瞬迷った。

フブキは僕に向かって右手を突き出し、部屋中に響き渡るような大声で叫ぶ。


「『Fire』ッッ!!」



その時、3階では。


「──爺さん、アナタの『文字』は?」

「文字……? 文字ってのは……何だ」

「あぁそっか、知らないのか。えっと、文字は……その、アナタの右手の甲に刻まれてるヤツですよ」

「右手…………ああ」

老人は言われた通りに右手を見て、そしてそれをセイジにも見せた。

そこには、『G』と刻まれていた。


──ビンゴだ。まさかこんなところで会えるとは。

セイジは心の中で喜び、そして同時に緊張した。

なぜならこの人は──


「岩橋マナブのお爺さん……武田ギンジさん、ですよね」



──その時、3階では、密かに同盟関係が組まれようとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る