第十五章 Fire Retinue 3/5

「誰も、居ないね……」

階段を上った僕と鴨ちゃんが目にしたのは、人も家具もない空っぽの部屋だった。もともと誰もいない部屋だったのか、この部屋に居た人が移動したのか。それは分からなかったが、とにかくこの部屋にあるのは更に上へと続く階段と、右隣の部屋に続く扉だった。

「上か……横か、だね」

「横に行こう」

僕は即答した。闇雲に上に登っていくより、横に進んだ方がセイジと鉢合わせる確率が高いような気がしたからだ。それに、なんとなく上に行くよりも、横に行く方が安心感があった。

「良いかな」

「マナブくんがそう言うなら」

鴨ちゃんも賛同してくれたので、僕はさっそく石の扉に手をかける。この壁の向こうにセイジが居るような気がして、僕はなんだか心が躍った。

それでも最大限の警戒は怠らず、僕はなるべく慎重に扉を押した。


しかし、残念ながら扉の向こうに居たのはセイジではなかった。そこには、赤いTシャツを着た男子と水色のシャツを着た女子が並んで立っていた。

「またかよッ……!」

男子の方がそう呟くと、扉から顔だけ出している僕に向かって仁王立ちし、右手を女子の方へと向けた。

そして、彼はこう言った。


「止まれ! 止まらねぇと、コイツを殺すぞ!」



「…………」

「…………」

「……よし。そこでじっとして──」

「鴨ちゃん。子供がいる」

「じっとしてろって! こいつがどうなっても良いのか!?」


僕はぎゃあぎゃあと喚いている男子を横目で見ながら、とりあえず鴨ちゃんを通し、完全に部屋の中に入った。部屋は相変わらずだだっ広く、その中心に男女が2人立っている。男子は右手に炎をまとわせ、女子の方は座り込んで怯えている。

「こっ、こいつが……どうなっても……!」

「…………」

「こいつがどうなっても、い、良いのか……!」

「……え、別に……良いけど……」

「…………!」

炎の男子は息を呑んだ。まるで、僕の回答が信じられないとでも言うように。

「そもそも誰、その子」

僕は男子に訊く。「参加者だよね?」

「あ……おう! いや、違う、人質だ! コイツは人質!」

「人質なら僕の知ってる人にしろよ」

「!」

男子はそこで女子の方を向き、ひそひそと話し出した。

「やっぱダメじゃん……!」

「そりゃダメだよ……」

「なんだよソレ……!? この作戦を提案したの、レオナだろ……!?」

「違うよ、フブキだよ。私はこんなバカみたいな作戦……」

「バカみたいって言うなよ……! 最初に来たオッサンには上手くいっただろ……!?」

「情けだよ、あんなの」

「ナサケってなんだ……!?」


僕はそんな2人のやり取りを見ながら、状況を再確認する。

──僕らよりも若い……たぶん中学生だろう。炎の方は『F』で間違いない。しかし「フブキ」とは、また見た目に相反する名前をしている。

──女子の方は未知数だ。レオナという名前しか分からない。それに、「最初に来たオッサン」とは誰の事だろうか。


「──ね、鴨ちゃ」

僕はそう言って横を見る。彼女は右手に拳銃を持っていた。


「え」


と僕が言った時には、鴨ちゃんは既に発砲していた。

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