第十三章 Perilous 6/9

「右手の甲、見せろ。テンポ悪ィな」

侵入者は苛立ちを隠さず、舌打ちをした。鴨ちゃんは後ろ姿しか見えなかったが、明らかに動揺していた。


──どうする……? どうする? どうする?

僕にできる事はあるか? 鴨ちゃんとは距離が離れすぎている。この遠距離から彼女を助ける事は出来るか? 僕が名乗り出れば、彼女は助かるか?


「……えっと……」

「さっさとしろ」

侵入者に急かされ、鴨ちゃんはゆっくりと右手を上げた。持ち上がるその手とは逆に、彼女の顔はだんだんと俯いていった。僕の鼓動はこれ以上ないくらいに速まり、現状打破の方法を必死に考えた。

やがて鴨ちゃんの右手は肩の高さまで上がり、彼女は観念したようにゆっくりと手首を回した。


瞬間、侵入者が息を呑んだ。そして右手を身体の前に構え、

「お前かッ!」

と叫んだ。


銀の弾丸が、侵入者の手から鴨ちゃん目掛けて発射された。



「──鴨川さんっ!」



……一瞬の事だった。

瞬きした瞬間には、もう全てが終わっていた。


侵入者が手を構えた瞬間、鴨ちゃんの身体は突き飛ばされ、宙に投げ出されていた。

侵入者の右手から発射された銀の玉は空を切り、本来ならば鴨ちゃんが居た場所を通り過ぎて──


鴨ちゃんを突き飛ばした本人──鈴木ヨシアキの胸を、貫いた。

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