第十三章 Perilous 4/9

何が不幸だったのかは分からない。

1年A組が正面玄関に一番近い教室だったからか。それとも、このクラスに僕と鴨ちゃんがいたからか。


侵入者は黒いズボンに灰色の服を着て、土足のまま教室に姿を現した。その風貌で特徴的なのは、ボサボサに散らかっている金髪と両手につけた白い手袋。そして身体全体にまとった白衣だろう。安っぽい説明をするならば、マッドサイエンティストと医者を組み合わせたような見た目だ。


「──あぁ……」

「イヤっ……!」

即座に教室は悲鳴と泣き声に包まれる。僕は出来るだけロッカーの陰に隠れ、冷や汗をかきながら様子を窺った。


「静かに──!」

巻き起こる悲鳴やら叫声の中、侵入者が大声を上げた。そしてもう一度「静かにしろ!」と叫ぶと、今度は教室の壁を拳で叩いた。

生徒たちはすぐには静かにならなかったが、侵入者が睨みを利かせているうちに段々と声を抑えていった。やがて教室が静かになり、数名の女生徒のすすり泣くような声だけが響く中、侵入者はこちらを向いて言った。

「とりあえず黙って聞けェ。変に抵抗しなければ命までは奪わない」


──信じられるか、そんなもの。

僕は周囲の生徒の様子を見て思った。ただ、とりあえず大人しくしているのが得策だろう。


「たぶん、ここにいる大半の生徒は今凄く怖い想いをしているだろうなァ。本当に申し訳なく思うよォ」

そんな戯言を言いながら、侵入者は右手を白衣のポケットに入れた。

「それにィ、大半の生徒は俺が何者で、何故ここに居るのかを知らない。今この場に居る生徒のうち、9割が──いや、もしかしたら10割が、俺の事をただの不審者だと思っているだろう。で、俺が用があるのは──」


その時、ガタリと音がした。侵入者の足元にいた吉田先生が立ち上がり、侵入者の白衣の端を掴んでいた。

「おま──」

吉田先生が左手を侵入者の首元めがけて伸ばした。そして次の瞬間──。


『カン』というような金属音が鳴り、侵入者の右手から何かが発射された。右手で拳を作り、親指で弾いて『何か』を飛ばした。


──……玉………?

の、ように見えた。銀色の……パチンコ玉だろうか。

その『玉』は侵入者の右手を離れ、即座に吉田先生の胴体に当たり──


──難なく、彼の身体を貫通した。

そのまま玉は直線的に進み、その先にあった窓ガラスを割って校庭の方へと飛んで行った。

「え……」

吉田先生の身体が倒れるよりも先に、侵入者はもう一発『玉』を発射した。その銀弾は一瞬のうちに先生の頭まで飛び、彼の眉間を貫いた。玉は先生の後頭部を抜けて飛び続け、教室の壁を貫通して校庭に飛び出した。

吉田先生の身体は重力に従って崩れ落ち、教卓と机の間に血を撒き散らして倒れた。先生の背後に座っていた数名の生徒は、彼の飛び散った血や脳髄液を身体中に浴びた。


教室が阿鼻叫喚に包まれたのは、言うまでもない。

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