第2の章「操者と、虚獣と、魔法の世界」 4

「それでいいじゃん」

「いや! これはない!」

 三号の言葉をすぐさま否定する。一号は冷ややかな視線を向けてくるが、なにも言わない。

「もっとましなのないのか……?」

 思い浮かべても違うものが出てくるとはどうなっているんだこれ。とりあえず別のものを思い浮かべていく。頭は軽くなったが、今度は首元が暑苦しくなった。

「な、なんでマフラー?」

 これを頭に巻けとでも?

 しかもすごい長い。なんだこれ。

「おー! なんか四号かっこいいよ!」

「いや、邪魔だってこれ」

「口元それで隠せばいいんじゃない?」

「せめて一号と同じような……サングラスじゃ隠れないな、この髪……」

 もういいかこれで。マスクが出てきても微妙だし。顔をうずめるように、マフラーを巻きなおす。しかしすごいなこれ。変身、と言うには確かにその通りだ。

「能力とか言ってたけど、それってどうやったらわかるんだ?」

「虚獣と戦えばなんとなくわかる」

 ……一号にくんじゃなかった……。なんでそう、実践じっせん派なんだよこの人は。

「わたしに追いつけなくても、三号についていけばいい」

 置いていく気満々じゃないか、このリーダー……初心者にやさしくない。二号と三号はよくやっているほうだ。

「一号は速すぎるんだよ。って、もういない!」

 忽然こつぜんと姿を消している一号に、三号がキーッと声をあげていた。その気持ちはよくわかる。

「よし、行こう四号!」

「え、っと……普通に走ればいい感じ?」

「そうそう。一号は速すぎるから、追いつこうとしたらダメだよ。無理したら完全にこっちがつぶれるから」

 確かにここまであっという間だった。どうなっているんだ、あの女は。

「ナナサン、案内よろしくね! 行くよ、四号!」

 初陣ういじんに不安しかない。ナナサンが残っていたのはやはり理由があったか……。彼は空中に浮かび上がる。同時に三号が地面を蹴った。え、ちょ、ちょっと!

 慌ててこちらも地面から跳躍する。ひっ、な、なんでこんなすごい跳べる……バランスとるのが難しい!

 ぐるんと視界が回った。その自分の手を、ナナサンが引っ張る。うわあ、いきなり迷惑かけてる……。というか、三号の姿がない。ナナサンがぐいっと強く引いた。途端、景色が急激に変わる。う、あ、これ、よ、酔う!

 片手で口元をおさえて、空中を必死に蹴った。速度がどんどんあがっていく。ひえぇ、元の姿だったら風圧でおかしくなっていそうだ。そもそも人間は浮くようにできていない。自分は悪くない。絶対に悪くない。


 こうして沖田悠一の初めての戦闘は、移動酔いによってズタボロな結果となることを……この時のオレはまだ知らない。

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