第2の章「操者と、虚獣と、魔法の世界」 3
ベッドから起き上がって、うーんと
「能力か……うーん、一号はフルスイングしただけで虚獣を吹っ飛ばしてたしな」
気持ちのいいホームランだったと思う、途中で
ぽこんと音がして、メッセージが表示される。一号からだった。
「次の時に迎えに行く。その時に変身とか色々教える……なるほど」
ぽこん、とさらに音がする。三号だった。
「俺が迎えに行こうか、か。気遣ってくれてるのかな……。近いほうで、と返信」
ぽこんとまたも音がする。どっちも遠い、と一号からのメッセージだった。そういえばどこに住んでいるのだろう?
あれ……よくよく考えると、出現場所が日本だけとは限らないのでは。
「面倒だからわたしが、か。一号は同い年くらいに見えたけど……見たことない制服だったな」
ナナサンと握手したことでまだ死なないということだけはわかったので、とりあえずホっとしてはいる。明日死ぬということだったら一号は間違いなくこの場で変身方法を教えたはずだ。いや、でも初めて見たかも、ヒーローが変身解除する瞬間。
三号は明らかに戦隊ヒーローを意識していたみたいだが、それにしては似つかわしくない
玄関から普通に出て行った彼らは、ここで一度変身してから戻っていった。目の前で変身シーンを見るというのも人生で初だった。奇妙な指サインをして、なにか言ってた……解除みたいに簡単な単語ではなかった気がする。
そもそも戦うなんて非日常なことが本当に起こるはずがないと、虚獣を見たくせに思っていたところがあった。三号が困っていたから、幽霊部員みたいな気持ちで承諾した
まさか次の日の昼に一号が教室まで来るとは思っていなかった。変身はしていなかったのが、違う制服だから目立ちまくっていたが、本人はそんなことはどうでもいいようだった。こちらは奇妙な目をクラスメートから向けられたというのに。
教室を出た瞬間に、「走れ」と言われて屋上に向けて階段を駆け上がり、息を切らしているうちに一号が変身してしまった。
「行くぞ」
ひょいとお姫様だっこをされて、「ひょ」と変な声が出た。一号はまったく気にせず、ぐ、と腰をかがめるとまるで抱き込むような姿勢で、
「ああああああああああああ!」
なぜ強く抱き込まれたのかを、とてつもない跳躍をされてから気づいた。これは、酔う。とてつもない速さで移動をする一号は、空中を跳んでいた。耳鳴りがして、思わず悲鳴のような声をあげてしまったが、一号は着地するまでまったく姿勢を崩さなかった。到着した途端に手を離されて落とされたが。
「いづっ」
ぶつけた
「ほら言ったじゃん。一号が一番速くても、普通の人は気持ち悪くなるんだからさぁ」
「みんな最初はそうだろ。そのうち慣れる」
しれっとして言う一号は、いつの間にかその手に野球のバットを握っている。オレは立ち上がって周囲を見回す。というか、ここはどこだ? どう見ても森の中なんだが。
「四号はここで変身してから行こう。虚獣と戦うとしても、どんな能力かわからないし」
「え、う、うん」
年上に見える外見のせいか、どうにも慣れない。これがあの中学生とは……どう見ても大学生くらいの就活してる若い男にしか見えない。一号があまりにも目立つゴーグルをつけているせいかもしれない。なにがなんでも素顔を見せたくないという強い意志を感じる。
「最初は強制的に変身したほうが早いから」
「え」
待って。どういうことだ?
ナナサンが待ち構えていたように、にっこり笑う。そして耳慣れない変身用語を使われた。
「ホローフィディ」
ほ、ほろ……? と
「よ、四号、その外見はやばいかも」
「?」
三号が鏡を出現させて見せてくる。映っている姿に、何度も瞬きを繰り返してしまう。
「ぎ、銀髪……」
いくらなんでもこれは目立つ! がっくりする姿に三号は鏡を消してから「あちゃー」と笑った。そういえば二号の姿がない。
「あいつは熱出してるからお休み。一応来ようとはしてたよ」
「そ、そっか。お大事に」
「ありがと。まあ変身は一回させておいたから、体力なくなってそのまま寝込んでるんだけどさ」
「? 変身って、自由にできないのか?」
「必要最低限にしないと、
……それは聞いていないのだが。だから一号がわざわざ迎えに来てくれたのかと
「四号はなにか頭にかぶったほうがいいよ」
「かぶる? なにを?」
「防具になにかないの?」
いや、そんなこと言われても……。自分の姿はまじまじと見ていなかったが、やはり一号と同じように元の姿より年齢があがっているようだ。それに筋肉がそこそこついている。元の姿よりしっかりしている……いや、べつに肥満体型というわけじゃない。べつに
「どうやって出せば……」
「念じれば出る」
「一号は大雑把だよ、もー」
三号が呆れるが、こちらも同じような反応だ。女の子ってもっと細やかな性格をしていると思い込んでいた。これはどう考えても他人になにかを教えるのには向いていない。だからもしや、最初に会った時に彼女が一人で戦っていたのはそれが理由なのかもしれない。共闘が明らかに向いていないタイプだ。
「念じる……」
うーん。念じるとは……頭に思い浮かべるのが正解か? ん?
首を左右に
「うわあ?」
「おっと」
一号が引っ繰り返りそうになったこちらの手を軽く
「なんだこれ!」
工事現場のヘルメットだ! 半年前に見た一号の動画のヘルメットはバイク用のものだった気がする。いや、これすっげーダサい!
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