第31話 ミナトとカレンが作る『限定かき氷』
「いらっしゃいませー。こちらが『北の大地のヴィシソワーズ』になります。では失礼して……おいしくなーれ。はい、完成です。ふふ」
「おぅ、これが私の『北国の丸いオレンジ』だ。最後にホイップクリームをかけて……完成だ、よし今だ、食え!」
土曜日お昼。
家の喫茶店の期間限定メニュー、『かき氷』の提供がスタート。
今年は去年と違い、俺の幼馴染みであるハイスペック美女二人、ミナトとカレンが考案したメニューを提供してみた。
二人がうちの喫茶店でアルバイトをし始めてからというもの、来店者が急増。
かなりの売り上げを記録し、すでにうちの看板娘状態。
なので申し訳ないが二人にメニューの考案を手伝ってもらい、二人がいる土日限定で販売してみた。
「うん、美味い! まさか『かき氷』で冷製スープとは……さすがミナトちゃん、発想がグローバルだね!」
ハイスペック美女の一人、黒髪お嬢様ミナトが考案したのは、ヴィシソワーズ風かき氷。
俺もこの提案を聞いて驚いたが、試食してみたらこれが美味いのなんの。
ジャガイモの冷製スープは知っていたが、かき氷に応用してくるとは……さすが川瀬グループのお嬢様だ。
『北の大地のヴィシソワーズ』を注文してくれると、ミナトが運んできてくれ、最後にお客さんの目の前で仕上げを行う、がサービスとなる。
仕上げとは、パンを乾燥させたクルトンとパセリ、さらにお好みでオリーブオイルをミナトがかけてくれ、それで完成となる。
ミナト派の方はぜひご注文を。
「これ夕張メロンかい? オレンジ色で見た目も良いし、甘さがすごいねカレンちゃん!」
ハイスペック美女二人目、金髪ヤンキー娘カレンが提案したのは、夕張メロンかき氷。
……どうにも二人とも、夏休みに行く予定のフェリー旅の余韻なのか、北海道系で攻めてきた。
夕張メロンを丸くくり抜いてかき氷に乗せたもので、とにかく色がオレンジ。
見た目も華やかだし、甘いメロンとかき氷の組み合わせは相性抜群。
『北国の丸いオレンジ』を注文してくれると、カレンが運んできてくれ、仕上げに甘いホイップクリームを目の前でかけて完成となる。
カレン派の方はどうぞご注文を。
お昼からの販売なのに、朝から行列が出来るほどの混雑っぷり。
軽く宣伝をしたが、効果はあったようだ。
せっかく北海道で攻めたので、かき氷以外にも限定メニューを出している。
北海道から仕入れたジャガイモを焼いて、そこに北海道産のチーズをかけた物。羊肉の焼肉、ジンギスカン。ホタテを貝殻ごと焼いて醤油に北海道産バターをかけた物。
提供している側の俺ですら、香りだけで美味そうで、ヨダレが出てくる。
「やったねリュー君、今日の分、完売だよ! そして勝負は私の勝ち! じゃあ勝者には王子様からのチューが……」
「ちょっと待てよミナト! 勝負は何個売れるかなんだから、二人とも全部完売で同点だろうが!」
お昼からの販売なのだが、なんと二時間ぐらいで今日の予定数を超えてオーダーストップ。
ミナトとカレンが喜んでいるが、ん? 勝負? そんなことはしていないけど?
「ふふーん、私のほうが数秒早く売り切れましたのでー、私の勝ちです!」
「チッ……ずっりぃ、数での勝負で時間は含まれていなかっただろ? つか二人とも勝ったでいいだろ。な、リュー。私も甘い言葉からのチューを頼むぜ」
なんか二人が揉めているが、悪いがその勝負、俺が認知していません。
「……無効試合!」
「ええええええええ……リュー君~」
「チッ……! じゃあ抱くだけでもいいからよ、ホラ、ドーンと胸に飛び込んで来いって!」
俺が首を振り無効試合を告げると、ミナトが演技っぽくヨロヨロと崩れ落ち、カレンが舌打ちからの両手を広げて飛び込んで来いポーズ。
ああもう……じゃあ抱くだけとか、意味分からないし。
そうじゃなくて。ちゃんと頑張ってくれた二人にご褒美はあるからさ。
「はい、どうぞ召し上がれ。ジンギスカンにジャガイモのチーズかけ、さらにホタテバターだ!」
「うわぁあああ、さすがリュー君! これ最高のご褒美だよー! 配膳してて、食べたいなぁって思ってたの!」
「これがジンギスカンか、初めて食べるぜ!」
アルバイト終了後、カラオケが出来る個室で二人にご褒美を振る舞う。
もちろん、限定の北海道づくしメニューだ。
「おいしー! 私このチーズのやつ好きー! とろけてホクホク!」
「私はジンギスカンだな。焼けた野菜と羊肉を一緒に頬張ると……うん美味い!」
二人が笑顔でモリモリ食べ進めていく。
ミナトがジャガイモチーズ、カレンはジンギスカンがお気に入りか。
全部美味いが、一個挙げるなら俺はこれだな、ホタテバター。醤油がちょっと焦げた感じと、溶けたバターの香りがたまらん。
ああ、これを本場で食べてみたいものだ。
「三人でフェリーに乗ることを楽しみにしていたけど、これ食べちゃうと、向こうでのご飯も楽しみになってきちゃった!」
「おう、美味すぎるぞこれ。しかし食うとなると、もうちょっと予算必要か。よし、アルバイトがんばるぜ!」
ミナトとカレンも俺と同じ考えのようで、これはフェリーに乗ることに加え、着いた先の北海道でのご飯も楽しみになってきた。
食も楽しもうとすると、予算がもうちょっと必要になってくるか。
カレンも言っていたが、向こうで美味いものを食うために頑張ろう、アルバイト。
とりあえず、夏の限定かき氷作戦は大成功となった。
ああ、お店側からのアドバイスだが、ミナトとカレンの運んでくるかき氷を食べたい人は、明日の午前中に来て並んだほうがいいかもしれない。
ミナトが運んで来る『北の大地のヴィシソワーズ』、カレンが運んで来る『北国の丸いオレンジ』、どちらも大変美味しい限定かき氷となっております。
皆様のご来店をお待ちしております。
※ 予約は出来ませんので、あしからず。
──喫茶虎原より。
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