第28話 ミナトの告白
「ごめんなさいリュー君……お買い物の途中に。でも、どうしても、これだけはどうしてもリュー君に話しておきたくて……」
夏休みに予定しているフェリーの旅に向けて、三人で駅前にお買い物。
ゲームセンターでリズムゲームをしたりと楽しい雰囲気だったのが、ミナトが真面目な顔で俺を見てくる。
カレンは妹からの連絡で席を外している。
俺とミナト、二人きりになったタイミングでのお話。
さて、何だろうか。
「……リュー君は進路、高校卒業後の行動は決まっているのでしょうか」
「高校卒業後? 多分実家の喫茶店継ぐのかな。俺、料理ぐらいしか得意なの無いし」
進路の悩みか。
しかし大企業である川瀬グループのお嬢様、ミナトから一般人である俺に相談されても、ほとんど何も答えられないと思うが。
取り巻く状況が違い過ぎる。
「……そう……ですよね……。で、では妹さんであるリンちゃんが喫茶店を継ぎたいと言ったら……どう、しますか」
ミナトの言葉の歯切れが悪いな。言いたいことは別にありそうだ。
「リンが? そうだなぁ、その時は社員で雇ってもらえないか交渉しようかな。あはは」
学力普通、料理以外の特技無し。
とりあえず実家の喫茶店は守りたいんだよね。こんな俺でも、料理でなら役に立てると思うし。
「ミナトはどう……って聞くまでもないか。いずれ川瀬グループのトップになる人物だしな。応援してるよ」
「………………」
黒髪お嬢様であるミナト。彼女は大企業である川瀬グループの娘さん。
進路も何も、すでに決まっていそうだけど。
そういえば……ミナトにはお兄さんがいたはずだが、最近全く話を聞かなくなったな。何かあったのだろうか。
将来有望で羨ましいなぁと俺が笑顔で語りかけるが、ミナトの顔は暗く、何を言えばいいのか悩んでいる様子。
「その、私は……おっしゃる通り、川瀬グループに組み込まれます。そして高校卒業後、大学には行きますが、同時に結婚を前提にお見合いもしなくてはなりません」
け、結婚ですか……十六歳の状態でそこまでお話が進んでいるのか……。
結婚、それは人生においてとても華やかなイベントだと思うが、ミナトの顔は依然暗く、明るい未来に向かっている様子には見えない。
まぁ高校一年生の状態で二年後には結婚と言われても、現実味は湧かないよな。
「うちでは代々、川瀬の名を継ぐ者が代表として立たねばならない。その次代が私、川瀬ミナトなのです。私が前に立ち、結婚し子を成し、そして未来に繋げる……それが私の役割なのです」
役割、か。
巨大なグループを維持する為に、個は主張出来ない状況なのか。
嫌、なんだろうな、ミナト。
だが高校生の俺に何が出来る……。
「ええっと、言っていいのか分からないけど、確かミナトにはお兄さんがいたような……」
「はい……います。本来なら兄がその役目なのですが、兄は誰にも何も言わず、突然海外で起業をしまして、そっちでやっていくと……。兄は優秀なのですが、少し気まぐれな方でして、突然誰も予想もしなかったことをやる人でして……それが今回も悪いクセがでまして……」
ああー……お兄さん、子供の頃たまに見かけたけど、なんというか一つの所に立っていられない、すぐにどこかに行ってしまう人だったな。
どうやらそのお兄さんと突然連絡が途絶え、というか拒否され、生きて海外にはいるけど日本に戻る気ゼロ、ということらしい。
なので、妹であるミナトに白羽の矢が立った、と。
「兄があれでは、私が立たねばなりません。この未来は変えられませんし、逃げるつもりもありません。おそらくとても優秀な男性とのお見合いが将来あるのでしょう。知りもしない、よく分からない男性と結婚……そして身体を触られる……これだけがどうしても私には耐えられないのです……。なので、一つだけワガママを言わせてもらいました。相手は自分で選びたい、と」
ミナトが決心した顔になり、真っすぐ俺を見てくる。
「これは私の勝手な、一方的な言い分であることは分かっています。でも、これが私の本当の、子供の頃からの想いなのです。……リュー君、私はあなたが好き。ずっと、子供の頃からあなただけを見ていました。真面目で優しくて、困っていたら必ず助けてくれて側にいてくれて……私が泣いていたら優しく頭を撫でてくれて……そしてその時の笑顔がとても可愛い人」
え、俺……?
「中学の冬にこの話を聞かされ、私は決心しました。リュー君と一緒がいい。そしてすぐに行動を起こし、進学する高校をリュー君と一緒にしました。中学時代に恥ずかしがって無駄に過ごしてしまった時間を取り戻したい……少しでも一緒に居て仲を戻して、出来たら振り向いてほしい……。そして高校で久しぶりに出会ったリュー君、子供の頃と何も変わっていなかった。クラスメイトに囲まれて困っていたとき、颯爽と現れて助けてくれた……。嬉しい……やっぱりリュー君、私のリュー君がそこにいました」
そういえば高校初日、クラスのイケメン君たちに囲まれていたけど、俺が割って入ったな。
なんかそのあと、じーっと見られていたけど、怒っていたわけじゃあなかったのか。
「これは宣言です。私はあなたと結婚したい。高校卒業後、もう一度言いに来ます。そのとき、リュー君の想いを聞かせて欲しい」
せ、宣言って……。
ミナトは中学の時から成績が良く、高校はもっと遥か上のランクの学校に行くものだと思っていた。
それがなぜか俺と一緒の普通の高校。
何が起きたのかと思ったが、理由があったのか。
「……そしてもう一人、私と同じ状況にある女性がいます。話を聞いてあげて下さい。私の親友の言葉を」
そう言うとミナトがゆっくり立ち上がり、俺から離れていく。
そしてミナトが親友と言った女性、カレンが俺に向かってゆっくり歩いてくる。
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