第21話 暗闇の映画館で二人のいたずらと言えない言葉




「二人は見たい映画はある? アニメから邦画洋画と色々あるけど」



 ゴールデンウイークに映画を見に、近隣の大型商業施設に来た。


 幼馴染みであるハイスペック美女二人、ミナトとカレンを誘ったが、そういえば見る映画を決めて来なかったな。


 二人の映画の好みとか、どうだったっけ。



「そういえば子供の頃、三人で子供向けアニメの映画を見ましたよね。あのとき、本当に楽しくて面白くて、いまだに心に残っています」


「ああ、あのときも三人で手を握っていたよな。懐かしいぜ」


 ミナトとカレン、二人が現在やっている映画のラインナップを見て、子供向けアニメ映画を指す。


 俺の親同伴ではあったが、確かに子供の頃、三人で見たな。


「よし、じゃあ子供向けアニメ映画にしよう。それが俺たち三人の思い出だしな」


「はいっ!」


「今は手を握っている意味がちょっと違うかもしれねぇけどな! あはは」



 チケットを購入して映画館の中へ。


 一番後ろの端っこの三人座席が空いていたので、そこを指定した。


 俺が真ん中でミナトが左、カレンが右の席。


 子供たちはとにかく前の席がいいらしく、後ろの場所は俺たち三人だけだった。



「……近くに誰もいませんね。ねぇリュー君、これなら色々出来そうですけど」


「みんな前行ったな。まぁ私たちも子供の頃は最前列で応援しながら見たしな、あはは! どうするリュー、暗いから多少は色々出来るぞ?」


 照明が落とされ暗くなり、映画がスタート。


 すると左右のミナトとカレンが、同時に頭を俺の肩に乗せてくる。


 え、あれ、映画は……




「内容が全く頭に入って来なかった……」


 一時間ちょいの映画が終わり、大型商業施設に戻る。


 映画の間、二人が左右から俺の頬を突いてきたり、俺の手を自分たちの太ももに誘導しようとして来たりと、映画を見ている余裕がなかった。


 二人ってこんなに大胆な人だっけ……。それとも暗くて閉鎖された空間というものは、人をそういう気持ちにさせるのだろうか。


 俺は慌てて二人の頭を撫で、なんとか落ち着いてもらい、安心していたら映画の上映時間が終わっていた。



「仲良しグループの一人が悪の組織にさらわれてしまい、それを助けに行く二人の物語、でしたね。離れていても信じ合い、決して諦めない三人の心。そして三人が揃ったときの連携の取れた攻撃、素晴らしかったですね」


「子供向けとはいえ、なかなか考えさせられる内容だったなぁ。登場人物たちはまだ一桁の年齢の子供なのに、信じることの大切さ、諦めない心の強さを持っていた。かっけぇぜ」


 歩きながらミナトとカレンが感想を言い合うが、え、二人ともあの状況でしっかり内容を見ていたんだ……もしかして俺だけ二人の太ももの柔らかさに興奮してたってやつ?


 いやいや、暗い映画館で、左右の美女二人にいきなりスベスベの太ももに手を誘導されたら思考停止して頭沸騰するでしょ……。

 

 こういうときに動揺するのが妹のリンや悪友佐吉に言われた、女の免疫が無いとかいうやつか?


「あと、ちょっといたずらしたら、リュー君の反応が可愛かったからもっと色々しちゃった、ふふ」


「面白かったなぁ、太もも触らせた時のリューの顔。映画のどのキャラより表情豊かだったぜ、あはは!」


 二人が笑うが、もしかして俺、遊ばれていた? 


 いや、良い思いをしたから、文句は一切ありませんけど。



 その後、ファストフード店で軽くご飯を食べ、ゲームコーナーへ。


 クレーンゲームにさっき見た映画のキャラのキーホルダーがあったので、挑戦。俺はこういうのは得意。


 数百円で三個取り、みんなで分ける。


「ありがとう、リュー君! 三人で一緒の映画を見て心に思い出を残して、キーホルダーで手元に物として残るプレゼント……完璧、リュー君のプランは完璧! 私、今日のこと一生忘れない!」


 ミナトが顔を赤くし、感極まった感じでお礼を言ってくるが、た、ただの偶然です……。ゲーセンにさっきの映画のグッズがあるとか、知らなかったし。


「嬉しいよ、リュー。これがあれば、仲良し三人が信じ合った映画の内容をいつでも思い出せる。つまりリューが言いたいのは、映画の三人は私たち三人で、俺を信じろ、一生俺についてこいってことだよな。いいぜ、ここまで仕込まれたデートをされたらホロっといっちまうぜ!」


 カレンも顔を赤くして、俺が伝えた覚えのない内容に照れている。


 ……無計画、そう俺は今、包み隠さず全裸の無計画映画鑑賞を実行中だ。



「映画の最後は三人が抱き合っていました。つまり……このあとのリュー君の行動は……そういうことですよね?」


 黒髪お嬢様、ミナトが何かを期待した顔をしているが、え、このあと?

 

 帰るけど?


 ジェイロンさん、待たせているんでしょ? これ以上は悪いよ。


「無計画そうに振る舞って、実はここまで計算済みとはなぁ。ヤられたぜ。いいぜ、リューが私にしたいことを言えよ。全部ヤってやる」


 金髪ヤンキー娘カレンが火照った顔で言ってくる。


 え、だから無計画ですって……。


 どうしよう、この後爽やかに、じゃあ帰ろうぜって言うつもりなんだけど。


 

「……か」


「うん、いいよリュー君、全部言って!」


「我慢するなリュー、言え。初めてだけど、頑張るからよ」



「……か」


「うん、うん! いいよ!」


「焦らすなよリュー。こっちだって最初からその気なんだ!」



 い、言えない……言葉が出てこない。


 かえろう。


 たった平仮名四文字なのに、声にならない。



 ──俺は期待する美女二人に囲まれ、数十分冷や汗を流し続けた。

















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