第77話
恐れと緊張に包まれた日々が続き、いつの間にか一ヶ月が過ぎようとしていた。
ぬらりひょんはその恐ろしい存在を煽るかのように、細かな事件を頻繁に起こしていたが、決定的な大きな事件を引き起こすことはなかった。
そのため俺は、いつ来るかわからない大きな災厄に対する恐怖で徐々に疲弊していった。緊張が続くことで、精神的にも肉体的にも限界に達しつつあった。
俺自身も、ぬらりひょんの策略に乗せられていることを痛感していた。奴はまるで、俺たちの意志を削ぎ落とし、恐怖で支配しようとしているかのようだった。確かに、彼の狙いは俺たちをじわじわと追い詰め、やがて自滅させることに違いない。
「このままではジリ貧だ…」
俺は自分に言い聞かせるように呟いた。
このまま待っているだけでは、いずれ我々は力尽きてしまう。何とかしてこの状況を打破しなければならない。そう考えた俺は、決断を下すことにした。
「攻撃に転じるしかない…」
この言葉が口から出た瞬間、俺はその決意を確固たるものにした。ぬらりひょんの狡猾な手口に乗せられるのではなく、こちらから奴を追い詰め、戦局を有利に進めるための手立てを講じることが必要だった。
俺は藩内の重臣たちを再び集め、作戦会議を開いた。皆の顔には疲労の色が濃く刻まれていたが、それでも全員が俺の言葉に耳を傾けていた。
「ぬらりひょんが大きな一手を打たない限り、我々はこのまま疲弊してしまうだろう。だからこそ、我々から動くべきだ。奴の潜む場所を突き止め、奇襲を仕掛ける」
俺の言葉に、井上玄斎が真剣な表情で頷いた。
「確かに、待っているだけでは我々が不利になるだけです。だが、ぬらりひょんの居場所を突き止めることができるのか?」
「そこが問題だ。奴は狡猾で、常に影の中に潜んでいる。しかし、我々には狸忍びたちがいる。彼らの情報網を最大限に活用し、ぬらりひょんの動きを追い詰める」
狸忍びたちの家族は、美波藩に来た当初はわずか15人ほどだったが、今では100人近くまで規模を拡大しており、彼らは藩の隠密として重要な役割を果たしていた。
「狸忍びたちは既にぬらりひょんの動きを探っている。しかし、ぬらりひょんが一箇所に留まらない以上、彼らだけでは限界がある」
俺はそこで一息つき、重々しく続けた。
「だからこそ、我々全員で行動し、奴を追い詰める必要がある。ぬらりひょんをおびき出し、その動きを封じ込める。これが我々の目指すべき戦略だ」
平八が険しい顔で言葉を発した。
「お鶴と共に結界の補強も行っていますが、それでも奴の力は強力です。こちらが先に動いて奴の力を削がねば、結界だけでは守り切れないでしょう」
平八の言葉に他の者たちも頷いた。彼らもまた、このまま受け身でいることの危険性を理解していた。
「では、今から俺たち全員で行動を開始する。ぬらりひょんを追い詰め、奴の動きを封じるのだ。新之助、ゲンタ、そして狸忍びたちと共に行動し、村々の情報を収集してくれ。井上玄斎と以蔵先生には、さらに結界の強化を進めてもらう。全てが整ったら、俺たちでぬらりひょんの本拠地を叩く」
皆の目が鋭く光り、全員がその場で立ち上がった。これまでの不安や恐怖が、決意と覚悟に変わった瞬間だった。
「桜木様、必ずや奴を追い詰めます! 私たちも全力で臨みます!」
新之助の言葉に俺は力強く頷いた。そして、全員が決意を固めてそれぞれの役割を果たすために動き出した。
この戦いは、もはや個々の力ではなく、全員の力を結集してこそ勝利を掴める戦いだ。ぬらりひょんの陰謀を打ち破り、美波藩の平和を守るために、俺たちは一丸となって戦う。
そして、決戦の日が迫る中、俺は心の中で決意を新たにした。
「待っていろ、ぬらりひょん。お前の企みを打ち砕き、必ずや勝利を収めてみせる」
ぬらりひょんとの最終決戦を前に、俺たちは再び立ち上がり、この危機的な状況を打開すべく、攻撃に転じるのだった。
♢
《side蘭姫様》
鷹之丞様の様子が日に日に変わっていくのを、私は感じていた。かつてはどんな困難にも毅然と立ち向かい、冷静な判断を下していた鷹之丞様が、今はその瞳の奥に深い恐怖と不安を抱えているのが、私には痛いほど分かる。
夜、夕食を食べている時も、鷹之丞様は黙り込んでしまうことが多くなった。
いつもなら朗らかに微笑み、私を安心させてくれるはずの彼が、今は自分の内に閉じこもるように、思考の渦に巻き込まれているかのようだった。
「鷹之丞様…」
私はそっと彼の手を取り、静かに呼びかけたが、彼の反応は鈍い。
鷹之丞様はただ、目の前の闇を見つめ、ぬらりひょんとの対決が避けられないことに思い悩んでいるようだった。
鷹之丞様の心の葛藤を理解し、なんとかして彼を支えたいと思う。
しかし、私には何ができるのだろう。
彼の重荷を少しでも軽くする方法を必死に考えるが、私の胸にはただ、彼の苦しみが深まっていくのを見守るしかない無力感が広がっていく。
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