第71話
海辺の美波藩は、冬の寒さが厳しさを増している。
外には雪がしんしんと降り積もっていて、風も強く吹いている。
美波藩の屋敷の中、俺は暖かな炬燵に入り、火鉢で部屋を温めながら、のんびりと過ごしていた。
炬燵の中でぬくぬくと足を伸ばし、手元には茶が置かれている。窓の外は雪景色が広がり、静かな冬の風景が目に映る。
暖かな部屋の中でのんびりと過ごすこの時間は、藩主として業務から解放される。
正式な事例はまだ届いていないが、元々蘭姫様が最終決定を行って、井上様が判断をしてくれていたものを俺が判断するようにしただけだ。
「鷹之丞様、結界の補正が完了しました。お鶴様と共に、全ての結界を強化いたしました」
平八が静かに部屋に入ってきて、報告してくれた。その背後にはお鶴の姿も見える。
「そうか、ご苦労だったな、平八。それにお鶴、いつもありがとう」
俺は茶をすすりながら、二人に感謝の言葉をかけた。お鶴は恥ずかしそうに微笑んで、軽く頭を下げた。
「鷹之丞様のためにできることがあれば、何でもいたします。結界の補正も、これで万全ですわ」
お鶴の声には穏やかな安心感が漂っている。彼女の力で美波藩の結界は強化され、外部からの侵入を防ぐ壁として機能している。
お玉も彼女の元で随分と成長しているようだ。
「平八、お前もご苦労だったな。寒い中で、結界の維持は大変だっただろう?」
「いえいえ、鷹之丞様のためですから。それに、お鶴様の指導があれば、どんな難題もこなせますよ」
平八の言葉には、どこか照れくささが感じられる。彼はお鶴に対して特別な感情を抱いていることは皆が知っていた。三度目の告白もしたと聞いているが、その結果はどうだったのだろうか?
「ところで、平八。お鶴には、また告白したそうじゃないか?」
俺がにやりと笑いながら問いかけると、平八は顔を赤らめ、困ったように頭をかいた。
「ええ、まあ…三度目の正直と言いますか、なんとか…」
「それで、結果はどうだったんだ?」
お鶴が少し照れくさそうに顔を俯かせる。平八がしどろもどろになりながらも、その結果を告白した。
「お鶴様に、まあ…断られました」
「そうか…まあ、気を落とすな。これからも、お鶴のそばで頑張ってくれ」
俺は平八の肩を軽く叩いて励ました。お鶴も、少し微笑んで平八に向かって頷いた。二人の関係はまだまだこれからだろうが、互いに信頼し合っているのは確かなことだ。
♢
夜も深けて、寒さが強くなると俺たちは男たちだけで酒を飲むことにした。
暖かな炬燵の中で、家老である井上玄斎殿、剣術指南役の以蔵先生、与力頭の平八、新之助、ゲンタと共に杯を交わす。
「いやぁ、こうしてのんびりと酒を飲むのも久しぶりだな。戦いが終わってからというもの、緊張が解けているせいか、酒がやけに美味い」
井上玄斎が杯を傾けながら言った。俺も同じように酒を飲みながら、戦いの日々を振り返った。
「確かに、江戸での激闘を思い出すと、こうして皆と共に過ごせるのはありがたいことだ」
以蔵先生も静かに杯を上げ、皆に目を向けた。
「鷹之丞様、私たちは今こうして美波藩でのんびり過ごしていますが、これからも守らなければならないものがたくさんありますね」
新之助が真剣な表情で言う。ゲンタもそれに頷き、酒を飲み干した。
「そうだな。これからも美波藩を守り、蘭姫様を守り抜くために、俺たちが一丸となって頑張らなければならない」
俺は皆に杯を掲げ、気持ちを一つにするための言葉を贈った。
「これからも共に戦っていこう。美波藩を、そして俺たちの大切なものを守るために」
全員が杯を掲げ、一斉に飲み干した。その場には、戦いの疲れを癒やし、未来への希望を語り合う穏やかな空気が漂っていた。
暖かな炬燵の中で、酒を酌み交わしながら過ごすこの時間は、何物にも代えがたい大切なひとときだった。
酒が進むにつれて、男たちの会話はますます賑やかになっていった。酔いが回ってきた頃、井上玄斎が杯を片手に、にやりと笑いながら皆を見回した。
「ところで、鷹之丞様。蘭姫様との結婚が決まった今、藩主として妾のことも、そろそろ考えねばならぬな。次の縁談も考えておられるんじゃないですか?」
「やめてくれ、玄斎殿。蘭姫様だけで手一杯だ。次なんて考えたくもない」
俺は苦笑いしながら答えたが、新之助がそこで口を挟んだ。
「鷹之丞様、実は俺たちの中で賭けがありましてね。次に鷹之丞様が目をつける女性は誰かっていう賭けです」
「なに? 俺を勝手に賭けの対象にするな!」
俺が抗議すると、ゲンタが笑いをこらえきれずに顔を赤くした。
「いやぁ、どうしても気になるんですよ。鷹之丞様は今まで数々の女性を振り回してきましたからね」
「振り回したつもりはない!」
皆が笑い出すと、以蔵先生がしみじみと語り始めた。
「だがな、鷹之丞様。男たる者、女性に慕われるのは悪いことじゃない。むしろ、愛される男であり続けることが大事だ。なぁ、平八?」
以蔵先生に話を振られた平八は、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに真剣な顔で答えた。
「確かにその通りです。俺もお鶴様に愛される男になるために、次の告白を計画中でして…」
「まだ諦めていなかったのか!」
皆が平八の情熱に感心し、笑いが絶えない酒席となった。杯を重ねるたび、笑い声がますます響き渡り、外の寒さを忘れるほどの温かなひとときが続いていった。
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