内政改革編
第24話
代官になって三度目の春を迎えようとしていた。
十五歳でも十分に身長が高い方だと思っていたが、十八歳になったことで更に身長が伸びた。
十五歳の時で五尺五寸(約166センチ)ほどだった身長が、今では六尺一寸(約185センチ)まで成長を遂げて、すっかり顔も男らしくなったと思う。
「隊をまとめよ!」
俺が声を上げれば足軽たちが、隊列を組み直す。
代官として美波藩の財政を管理するかたわら、三十名の兵を連れて美波藩の結界を出て街道の見回りしている。
城を含めた城下町は、お鶴の結界によって守られているが、結界を離れた街道に出れば妖怪たちが跋扈している。
だが、いつまでもこの状況を放置していては、外から人はやってこない。
武士や旅人のような限られた物たちだけでは、藩に対して旅行に来ようと思う者はいないだろう。
それでは外交を行う際にも支障が出てしまう。
そこで俺は、力自慢を引き連れて妖怪退治をすることにした。
ただ、お鶴は結界の維持をする必要があり、平八は俺がいない間の街の警護が必要になるため連れてくることはできない。
どうしても戦力的には力不足ではあるが、それでもやらなけれならない。
不意に蘭姫様の笑顔が浮かぶ。
俺はあの方を幸福にすると誓ったのだ。
妖怪退治に活路はある。
人斬り以蔵の字名を持つ以蔵先生と、俺と同じく三年間以蔵先生のもとで修行を積んだ新之助の働きは目を見張るものがある。
「三体斬りました」
「ふむ。こちらは五体じゃ」
「ぐっ!」
妖怪を切った数で競えるほどに二人には余裕がある。
二人を前衛にして、兵たちには三人一組で陣形を組んで妖怪退治をさせている。
強い妖怪が出れば、すぐに助けを求めるように指示を出して、街道に現れる低級の妖怪は一年をかけて退治できた。
「新之助、そちらに行ったぞ!」
「はい! 以蔵先生!」
誰よりも先頭に立って妖怪を切り伏せる以蔵先生。
その脇を固めるように、俺が騎馬で。新之助が歩兵として兵を指揮していく。
実践を経験することで、三年前とは見違えるように剣術の才能を開花させた新之助は頼りになる。
本格的に、妖怪退治を始めて初陣を飾ったのは、一年前だ。
♢
以蔵師匠との修行が二年を超えて、自分の中で無極流剣術を一人前に扱うことができると判断したため、鎧を纏い、以蔵師匠に引率してもらって出陣することを決めた。
そんな俺の前に新之助が立ち塞がった。
「本当に行かれるのですか?」
「ああ、このまま美波藩の周囲に妖怪が集まれば危険なのだ」
小説の中でも美波藩は悪役たちが活躍するのと同時に妖怪たちの巣と化していた。
強力な妖怪が住み着いて、美波藩を外と内から食い潰していた。
それを高名な老人たちが退治するのも一つの見所ではあったが、俺がそれを知る以上は放置するわけにはいかない。
「結界で守っていても、綻びができるかもしれない。それに街道を放置していれば、いつかは物資が届かなくなってしまう」
金を持つものだけが、安全で裕福な暮らしをする世の中に高名な老人は異を唱えていた。
ならば、高名な老人が来る前に妖怪共を美波藩に近づけさせなければいい。
「他の藩では専属の討伐隊や武士隊を作って討伐を進めている。だが、我々はこれまで私兵を持つだけの余力がなかった。それを持つことができるようになったのだ」
「しかし! どうして桜木様が直々にお出になるのですか?! もっと方法を考えてください! 他の者にさせれば良いではないですか?!」
新之助は俺を心配して猛反対してくれた。
だが、現在の美波藩で動かせる人材はいない。
「新之助、将は自ら動いてこそ、人は動くのだ」
「ですが」
「心配ならば、お前が強くなり、俺を守るがいい」
「……わかりました! 私が鷹之丞様をお守りします!
そう言って新之助は強くなった。
俺を守りたいと思うことで、それまで身につけた剣術を実践で開花させた。
この一年で予備兵も入れて100名ほどの足軽隊を編成することができた。
普段は別の仕事をしてもらいながら、妖怪を退治するために編成した者たちは脱落者を出しながらも一年の実践を戦い抜いてくれた。
「本日の見回りは以上とする。次は三日後だ。それまで十分に休みながら体を鍛えておくように」
「「「はっ!」」」
まだまだ外交を行えるほどの基盤は出来ていないが、こうやって藩の外へ出られるようにはなりつつある。
♢
小判鮫家の事件を解決した後、ひたすらに美波藩の状況を改善するように努め、蘭姫様の成長を見守る日々だった。
新之助と共に、以蔵先生の教えを受け、剣術と陰陽術を学び。
その応用をお鶴に教えてもらう。
同心たちとの連携も上手く取れるようになり、藩の運営は軌道に乗ってきた。
何よりも、座敷童のサエが我が家に住み着いてくれたことはかなり大きい。
座敷童が住み着いた家には幸福が訪れるというが、こちらが成し遂げたいことが生じた際に、向こうから幸福が舞い込んで来るように事が上手くいくのだ。
一度、神棚でも作ろうかとサエに聞いたことがある。
「そんなものはいりゃせんよ。私は好きに生きて好きに住む。今は主とラン姫が気に入っとるからおるが、気に入らなくなったなら出ていく。それだけじゃ」
「そうか、俺はお前を止めることはない、自由にしてくれ。それに、お前がいなくても俺は成功してみせる。蘭姫様のためにも」
「くくく、そういう主だから面白いと思うとるよ。まぁそうじゃな。お主らの人生が終わるまで見届けても良いかのぅ」
サエとのんびり縁側でお茶をするのは、俺にとっても楽しみになりつつある。
俺は今年十八歳になる。
そして、サエも幼女だった体が、十歳ぐらいで少女になり座敷童も成長するのかと思えば、元々は力を失っていただけで、あのままならば力を失って消滅するところだったようだ。
だが、座敷童は幼子の世話をしたり共に遊ぶことで満足して力を取り戻す。
蘭姫様や、お玉と共に遊び、我が家で食事をして幸せな時間を過ごしていたことで力を取り戻しつつある。
「ありがとう。サエには本当に感謝している。蘭姫様と遊んでくれて、そして美波藩を見守ってくれてありがとう」
「そういうのはむず痒いからやめい!」
「はは」
そんな戯れをいえるほどに充実した日々で、此度の春には一つの変化を設けることができた。
俺が推している蘭姫様が、いよいよ学校に通うのだ。
と言っても俺がこの三年で作り上げた美波藩に出来た学習塾だ。
俺は小判鮫が起こした事件によって、内政を整えるために多くの資金を手に入れることができた。
その一つとして、民に満足が行く食事と、勉強をさせることだった。
人材を育成すれば、その育成した人材が他藩に就職したり、江戸に奉公に出て美波藩に恩返しをしてくれるというわけだ。
そのために未来を見据えた事業の一環として、学習塾を作った。
習う内容は、文字、計算、絡繰術、陰陽術、法律、医術の六つだ。
一番幼い時期に、文字と数字に触れさせ、才能を見極めて陰陽術、法律、医術に分けていく。
そのため基礎学として、陰陽術とはどういうものなのか、幕府が定めた法律とは、そして消毒や衛生面などの医療術は皆が学び。
絡繰術は、伝統的な手法から、エレキテルなどの近年の科学的な発展に役立つものなどを取り入れるようにしている。
そこから才能や興味によって発展させる仕組みを三年かけて作り出した。
まだまだ土台にしかなっていないが、八歳になられた蘭姫様に学習塾で同い年の子らと学べる環境を整えることはできた。
元々、蘭姫様は梅婆や他の教育係に礼儀作法や、文字の読み書きを習っていた。
計算もできるために基礎学は、それほど学ぶことはない。
そのため、少し大きくなってから専門分野を学ぶことから始めてもらうつもりだ。
「お主の過保護っぷりは目に余るな」
「そうか?」
サエに揶揄われるが、俺は健やかな成長をしてほしいと望んでいる。
城に閉じこもって世間を知ることなく、どこかのお殿様に嫁入りするのではなく、己で考え、己がしたいことをさせてあげたい。
それが俺の望みだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
どうも作者のイコです。
第二部スタートです。
どうぞお付き合いくださいませ(๑>◡<๑)
よろしくお願いします!
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