第13話

 あれから俺は越後屋に様々な恩恵を与えることにした。


 店舗、屋敷、借金、そして商売を成功させるために、美波藩内での宣伝も含めて、盛大に俺のお抱えとして、美波藩代官御用達商人として売り込んだ。


「これはこれはお代官様。此度は本当にありがとうございました。まさか、こんなに早く商売が軌道になることになるとは思いもしませんでした」


 夜の仕事が終わり、皆が夕食を終えた後の時間。


 俺は屋敷を出て、越後屋に会うために遊郭へきていた。


 現在の遊郭は、総元締めとなる家老が居て、管理者が複数に分かれている。


 その一件であるここ蝶家は、狐介が裏から手を回して、密かに手に入れた一軒だ。規模はそれほど大きくはない。


 大小様々な遊郭が立ち並ぶ中で、小規模で抱えている遊女もたったの三人だけだ。


「待たせたか?」

「いえいえ、お代官様と会えるならいくらでも待ちますよ」


 こちらも売り込みもあったが、狐介の能力も申し分ない働きをしてくれた。


「ふっ、それで?」

「あ〜まずは、こちらを」


 そう言って重箱に入った菓子を差し出される。

 俺はその箱を開けて、中身を確認する。


「ほう、美味しそうな黄金色の菓子だ。お主も悪よのう」

「何を何を、お代官様こそ。それよりも本当にカステーラでよかったのですか? この間は塩饅頭でしたし、甘い物がお好きなのですね」


 俺は手に入り難いお菓子を蘭姫様とお玉のために手に入れている。


「お代官様が望まれるなら、江戸で流通を始めた金貨や銀貨のご用達もできますが? そちらの方が価値があるのではないでしょうか?」


 江戸時代では、金貨、銀貨、銭貨の3種類の貨幣が使われていた(三貨制度)。


 小判は、一両リョウ

 銀貨は、一匁モンメ

 銭貨は、一文モン


 という単位で呼ばれていた。


 他にも単位があり、単純に品物の価値によって、金貨、銀貨、銭貨で払うものが決められていたのだ。


 金貨だけでも、大判、小判、一部金、などがあり、今で換算すると5万〜30万と振り幅がある。


 今から金貨を集めていれば価値はどんどん上がっていくが、それは貸付として、越後屋に貸して、利息をもらう方がこちらとしても儲けが出る。


「今はこれで良い。私がお仕えする蘭姫様は、南蛮由来の菓子が大好きだからな。蘭姫様が喜ぶ顔を思い浮かべるだけで、俺は満足なのだ」

「はぁ〜、お代官様がよろしければ……」

「それよりも調べてくれたのだろうな?」

「もちろんでございます」


 どうして、外部から来たばかりの越後屋をお抱えとして触れ回ったのか? それは美波藩の腐り切った現状を内側から変えていくためだ。


 商人たちには商人たちのテリトリーがあり、それを邪魔すれば、いくら代官でも美波藩の運営は立ち行かぬようになる。


 だが、何でも屋の越後屋がいるだけで、全てのことが事足りるようになれば、他の商人たちは必要がなくなってしまう。


 それぞれの家老のお抱えはいるだろうが、果たしていつまで持つのか?


「お代官様、悪い顔をなされておりますよ」

「くくく、そうか? お主もだぞ」

「そうでしょうか? これは一本取られましたな。ささ、麦茶にございます」

「うむ」


 元服したが、互いに酒はそれほど好きではないということで、茶飲み友達のような関係性を維持している。


 何よりも、悪徳商人として代官と結託して商売を成功させる手腕は、やはり小説通りだ。


 こいつを使って他の悪徳商人たちを一掃すれば、俺の意のままに美波藩も操れる。


「それでは私はこれで。誰ぞ! おらんか!?」


 越後屋が先に席を立てば、代わりに一人の遊女が入ってくる。


 三人しかいない遊女ではあるが、二人は番頭をしており、正直すでに引退している。


 もう一人が教育として残ってはいるが、今は客を取るというよりも他の店に手伝いとして行っていることが多い。


 そして、最後の一人は、まだ遊女として客をとっておらず、芸を学んでいる芸妓見習いだ。


「へい、ここにおりんす」


 そう言って芸妓言葉と共に現れたのは、歳にして十二歳ほどの美しい子供だった。


 薄い化粧に、髪を結いあげ、どこに出しても恥ずかしくない遊女ではあるが、現在は芸妓見習いとして、俺専属のようになっている。


「お蝶、お酌を頼みますよって」

「はい! 旦那はん」


 そう言って越後屋に変わるように、お蝶と呼ばれた芸妓見習いが部屋の中に入ってくる。


 これはオママゴトみたいなものだ。


 俺はこいつに手を出すことはない。


 また、こいつも見習いとして、俺を相手に客をとっている予行練習を行う。


「鷹様、また来てくれはっておおきに」

「またと言っても、まだ五回ほどだ」

「ふふふ、せやけど、初めて来られた時に色々と失敗してもたから、恥ずかしいわ〜」


 この笑顔はいけないと思う。


 俺は知っている。


 このお蝶は、十年もしないうちに他の宿替えをして、花魁まで上り詰める逸材だ。


 美波藩の遊郭は、お蝶と共に有名になり、高名な老人が来た際に、彼女はある事件で死んでしまう。


「今日もあいつに菓子をもらったところだ。茶の用意を」

「へいへい」


 少しだけカステラを食べながら、お茶を飲む。

 そんな茶飲み友達が、今の狐介とお蝶との付き合い方だ。


「なんや変わった代官様どすなぁ〜」

「そうか? 俺はこれが普通だ」

「ふふふ、そうでした。鷹様」

「うん?」

「いつかウチのこと、身受けしてくださる?」

「さぁな、俺もお前も良い歳になって独身なら考えよう」


 安易な約束など出来はしない。


「いけずやわ〜。まぁそんな鷹様に惚れてもうたんやけど」

「うん? 何か言ったか?」

「何も言うてまへん。このカステーラ美味しいなぁ〜」


 まぁ美しい女性と夜中の甘い物は良い取り合わせかもな。


 背徳感があって、俺は悪いことをしていると思えてくる。


 それがまた楽しいと感じるほどに…。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 皆様に感謝感謝です!!!


 歴史・時代・伝奇の日間、週間ランキングで1位になることができました!


 本当にありがとうございます(๑>◡<๑)

 これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!

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