ヴァンパイアスレイブス~魔力なしだと虐げられた俺、圧倒的な努力をしたらドン引きレベルで無双になった件~

Manami

ブルーブラッド編

第1話 迫害

 まえがき

 この作品は

 第一章『ブルーブラッド編』

 第二章『月光王国編』

 第三章『人類王編』

 三部で完結する予定となっています

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 現代日本で平穏な暮らしをしていた俺は、通り魔に刺されて死んでしまった。刺された時の痛みや恐怖は鮮明に覚えている。たまたま急所を外したせいで、なかなか死ねなかったからだ。


 痛い。苦しい。

 嫌だ。助けて。助けて。

 その思いは誰にも届かなかった。


 死のイメージは俺の脳に強烈に焼きついた。


 そして俺は転生した。

 はっきり言ってウンザリした。


 再び生まれたということは、必ず再び死が訪れるということだからだ。そのうえ生きるというのは『労働』や『人間関係』がつきまとう辛いものだ。俺にとって転生するくらいなら、無になって消えてしまったほうがはるかにマシに思えた。


 そして転生した世界は現代ではない。

 なんと、異世界らしかった。

 幼少期の記憶はほとんどない。強いていうなら教会が運営する孤児院で、奏られる美しいオルガンの音色だけは覚えていた。


 現代日本に転生するよりはマシかな。

 ネットやテレビなどの現代文化より、小説やマンガのほうが好きだったし、この世界には小説もマンガも存在する。騎士ラプンツェルのノンフィクション小説はよく読んだものだ。その民を守るためならどんな犠牲もいとわない精神には、子供らしく憧れを抱いたものだ。サインのひとつでも貰いたいところだが、ラプンツェルがすでに死んでしまっているのは残念で仕方がない。


 しかもこの世界には魔術があるらしい。さすがの俺ですら、これにはワクワクしていた。もしかしたら、不老不死になれる術があるかもしれないしな。


 孤児院で育った俺は、5歳のころに養子にとられた。義理の両親は、あまりいい人ではなかった。仕事が忙しいらしくめったに家にはいなかったし、俺を引きとったのも『男なのに少女みたいな顔をしているのが可愛らしかったから』という理由だった。養子をとるという重要な選択を、顔で選んでしまっていいのかと疑問に思った。


 俺が10歳になった時だった。

 魔力測定が行われた。

 魔力の成長は10歳くらいで止まるらしく、ここで魔力の素質が決まる。すなわち、魔術師になれるかどうかが決定される。魔術師といえばきらびやかな花形といえる仕事で、高収入で社会的地位も高いみんなが憧れる職業だ。義理の両親は、俺が魔術師になることを期待しているようだった。

 しかし。


「なんだこれは」


 驚きの声を出す老人。


「ありえん。この子には魔力がまったくない。生物はすべてが魔力をもっているもの。植物でさえ微力な魔力をもっている。それがまったくないなど、とうてい信じられん。あとで論文にまとめなければならんな」


 その言葉を聞いて両親は愕然としていた。

 この世界においてすべての人間は魔力量から4つのクラスに分けられる。しかし、俺は魔力をもたないことからどの階級にも分類できないらしかった。そのため5つ目となる新たな区分として下級者ワーストクラスが作られた。俺のため学者たちが頭を悩ませた結果、わざわざ専用の階級が作られるまでに至ったわけだ。


 俺は魔力がないことにガッカリはしなかった。自分の才能になど期待していなかったからだ。魔術という存在にワクワクしていたのは事実だが、才能がないなら仕方ない。


 しかし、義理の両親はそうは思っていなかった。


「魔力なしだと? ふざけるなよ?」

「いますぐ出ていってほしいわ」

「もう俺たちの子供として扱うことはできない。これからは自分の生活費は自分で働いて稼げ」


 もちろんこの世界にも法律はある。

 子供は働くことはできない。

 義理の両親にもそう言った。

 しかし。


「夜の仕事ならいくらでもあるだろ。夜はヴァンパイアに襲われる可能性があるからな。どこも人手不足だ」


 孤児院で聞いたことがある。

 俺の実の両親は、モーハというヴァンパイアに殺されたらしい。ヴァンパイアに殺されるなんて、さぞ苦しいだろう。俺は夜の仕事なんててんでごめんだった。しかし義理の両親は、その日から飯すら出してくれなくなった。


「気持ち悪いわ。いっそのことヴァンパイアに殺されてしまえばいいのに」

「なんで働かないんだ? まあ働かずに飢えて死にたいなら、それでいいけどな?」


 家にいるだけでゴミのように扱われた。

 俺は夜の街で働くしかなかった。

 酒場に応募したところ、すぐに採用された。

 どうやら相当な人手不足らしかった。


「住めば都ってやつか」


 夜の仕事は高給だったし、悪くなかった。

 同僚は何人もいたが、ヴァンパイアに襲われたなんて話は聞かなかった。もしかするとこの街にはヴァンパイアなんてものはいないのかもしれない。

 ある雨の日のことだった。


「コイツは」


 猫だった。

 捨てられていた。

 そっと手をさしのべた。


「死ぬのが怖いのか?」


 震えていた。

 今まさに自分の命が消えようとしている。

 それが分かっているようだった。

 俺は自分が死んだ時の苦しみを思い出した。


「お前は俺だ」


 放ってはおけなかった。

 俺はその猫を飼うことにした。


「動物なんて拾ってなんのつもりだ?」

「物を壊したりしたら殺すからね」


 両親にはとうぜん非難された。

 俺は猫にハロと名づけた。

 ハロは物わかりがよく冷静だった。

 人懐っこく悪さもしなかった。

 両親もだんだんとハロの事を受け入れてくれた。


「ハロ。お前のおかげで分かったことがあるんだ。俺はずっと孤独だった。寂しくて辛いことに、自分ですら気がつかなかった。感覚が麻痺してたんだ。お前のおかげでやっと、温かみを思い出せた」


 ハロは体がとても弱かった。

 常に食欲がなさそうでぐったりしているし、風邪もよくひいた。俺はハロの病院代を稼ぐために働いた。俺にとってハロはかけがえのない存在になっていった。


「悪性腫瘍ですね」


 ある日、医師にそう告げられた。

 ハロはガンにかかったのだ。


「切って治せないんですか?」

「すでにあちこちに転移しているし、難しいでしょう。中央都市で魔術の治療をうければあるいは、といったところでしょうが」


 医師は言いにくそうに告げた。


「庶民では金銭的に難しいでしょうね」


 俺は恥を忍んで、義理の両親に頼んだ。


「お願いです。このままではハロが死んでしまう」

「猫の寿命は短い。別れの時はかならず来る。それが今だったというだけの話だ」

「残念だけど諦めるしかないわね」


 ダメだ。

 コイツらはなにも分かってくれない。

 俺にとってハロがどれだけ大切か。

 俺がハロにどれだけ救われたか。


 俺は必死に働くことしかできなかった。

 ハロの治療費を稼ぐためなら死んでもよかった。

 酒場には無理を言って昼も働かせてもらった。

 本当に酒場の店長には頭が上がらない。


 おかげであと少しで治療費をまかなえる。

 そう思っていた時だった。


「ハロが、死んだ?」


 両親に告げられた。

 遺体はすでに土葬したらしい。

 俺はハロの最後に立ち会えなかったことを後悔した。こんなことになるなら、必死に働かずに少しでもハロと過ごす時間を増やせばよかった。

 どうしてこんなことに。

 どうして。どうして。


「ハロ。ごめん。俺がバカだった。寂しかったよな。痛かったよな。辛かったよな。俺はその痛みを分かっていたはずなのに。誰より俺が理解してあげなきゃいけなかったのに。ごめん。ごめん」


 俺は悔しくて泣いた。

 しかし。


「まあ、良かったじゃないか。おかげで家にお金を入れられるようになった」


 父がそう言った。

 理解できなかった。

 コイツは今なんて言ったんだ?


「あれだけたくさん働いたんだ。たいした稼いでるんだろ? 俺さ、猫が死んだら仕事やめようと思ってたんだ。隠居生活って憧れてたんだよな」

「そうね。私も欲しいバッグとドレスがあるの。久しぶりに旅行に行きたいし。あなたがお金を入れてくれると助かるわ。貯金もあるんでしょう?」


 コイツは。

 コイツらは。


「ハロの命をバカにしているのか?」


 きっと俺の目は血走っていただろう。

 憎悪で歪んだ顔になっていただろう。


「なに言ってるんだ? たかが動物だろ」


 俺の中でなにかが切れた。


 

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