03 開宴

 おぉ、ちゃんと赤子の姿だ。すごいな。


 俺が、ちゃんと赤子の姿になれた事に驚いていると、部屋の外からバタバタと足音が聞こえてきた。


「大丈夫か、千弦!」


 そんな声と共に、襖が勢いよく開かれた。


「ん? 確かに、ここからかなりの妖気を感じたんだが」


「あう!」


 俺は大丈夫だ父さん!


「気のせいか、千弦も無事みた……っ! 妖気!?」


 何もなくて部屋から出ようとした時、俺の身体から少し出ている妖気に気が付き、父さんが俺の元に駆けてきた。


「千弦、もしかして妖力を自覚したのか! 妖気の量から見て、まだ栓は抜いてないみたいだが……すごいぞ!! まだ0歳なのに、無意識に妖力を自覚してしまうなんて、本当にすごい子だ!」


 父さんが、俺を持ち上げいつにもなく喜んでいる。

  

「旦那様、若様は大丈夫でしたか?」


「緋夏! 聞いてくれ、千弦が妖力を使えるようになったんだ!」


「この年でですか!?」


「あぁ、千弦はすごいだろ?」


「えぇ、すごい才能ですね!」


 後ろから来た緋夏に、父さんは俺を見せる。 

 

「だろ、知華にも知らせに行こう!」


 父さんは、俺を抱えたまま母さんの元に向かった。 





「知華! 聞いてくれ!」

 

 父さんは、母さんが何かの作業をしている所に入り、俺を見せつけた。


「どうかしましたか? あら、千弦」


「事の経緯を説明するとだな…………」

 

 父さんは、先程あった事を説明した。


「千弦がもう妖気を……!」


「あぁ! すごいだろ! まだ0歳なのにだぞ」


「確かに、すごいことですね。ですが、少し心配です。これからの事だったり色々と……」


「それは……そうかもしれないな。妖力を自覚したとはいえ完全に制御したわけではないから、いつどんな事が起きるか分からない。何か対策を考えねば」


 なんか、もう少し後のほうが良かったっぽいな。

 次からこういう騒ぎになりそうな事は、色々考えてからやろう。


 そんな事を考えていると……。


『すまないな、私の説明不足でこのような事に』


 あ、月読様。別に月読様のせいじゃないよ、俺が詳しい説明を求めなかったし、実行したのも俺だから、自業自得ってやつだ。

 まぁ、言うほど損はしてない。むしろ、得の方が多いくらいだ。 


『お主がそれでいいなら、いいんだが……。そういえば、続きはどうする?』

 

 続き? あぁ、どうするかな。

 まぁ、一旦保留でいいんじゃないか? 俺も、しっかり妖力認識したいし。


『なるほど、了解した。また何か教えて欲しい事があれば言ってくれ、出来る限り答える』


 分かった、それじゃあまたな。 


『あぁ、また』


 そこで、月読様との会話は終了した。


「う〜ん、いい対策が思いつかない。とりあえず、目を極力離さないってぐらいしかなさそうだ」

 

「そうなりますかね、妖力の栓を抜くまでは目を離さないようにしないといけません」

 

「分かりました、気を付けます」


「緋夏、知華がどうしても見れない時は……」   


「はい、私が代わりに見ておきます」


「助かる」


「侍女として、当然の行動です」


「千弦をよろしくね、緋夏」


「はい、奥様」


 三人が、大事な話をしていると……。

 

「旦那様方、昼食の準備が出来ました」


 昼食の呼び出しがきた。 


「もうそんな時間か。分かった、すぐに向かう」

  

「私は、この子を寝かしつけたら行きます」

      

 母ちゃんがそう言うと、呼びに来た侍女の人は部屋を離れた。

 

「俺は、先に行ってるぞ。知華も、千弦を寝かしつけたら来てくれ」


「分かりました」

 

 父さんは、それだけ言うと部屋を後にした。


「緋夏、私が行ったらしばらく千弦をよろしくね」


「はい、任せてください」


「それじゃあ、千弦。おねんねしましょうね〜」


 母さんは、俺を優しく寝かしつける。

  

 やっ、ぱり、赤子の……眠気には……逆らえ……ない……。


 俺は、再び眠気に負け眠りについた。




 

 数時間後……。

 今は、夜中か。隣には母ちゃんが寝ている。 


 俺は、夜中に目が覚めた。


 たまにあるんだよな、ふと夜中に目が覚める時が、おまけに一度目が覚めると全然眠くないんだ。

 さて、どうやって時間を潰すか。とりあえず、これからの目標を整理して明確にしよう。

 まずは、妖力をしっかり認識して操作出来るようになろう。それが今出来る、優先すべき事だ。

 ちょうど時間があるから、妖力の鍛錬をしよう。


 俺は、身体の中に意識を向ける。


 うん、鬼面による抑制を感じる。それと同時に、身体の中に眠る膨大な妖力も……。


 俺は、妖力を完璧に認識した。


 よし、しっかり妖力を認識出来た。

 次はこれを操作する。

 妖力を自覚し、覚醒した時と同じように……。


 俺は、身体の中を巡る妖力を操作する。


 今は、妖力により全身が強化されてる状態みたいだ、これを腕に集中させてみよう。

  

 俺は、全身に流れる妖力を腕に集める。


 おぉ、腕にものすごく力を感じる。

 だが、この状態で動かすのは無理だな。赤子の身体じゃあ、腕が壊れる。

 軽く集めて動かすぐらいなら大丈夫みたいだが……。

 やっぱり、あの無理やり成長させられた身体がすべての妖力を受け入れ、使う事が出来るようだ。

 何歳ぐらいの身体だったんだ? 五、六歳ぐらい? いや、七歳ぐらいか? う〜ん、わからないな。今は、成長を待つしかない。

 後は…………何もやること思いつかないし、もう一回寝るか。


 俺は、妖力の操作を辞め眠りについた。


 



 あれから数日が経過した。

 今日は、いつにも増して部屋の外が騒がしかった。色んな所から赤子の声が聞こえたり、知らない大人の声が聞こえてくる。


 何だすごく騒がしいな今日は。

 俺も朝早くに母さんに起こされたし、緋夏もすごく忙しそうにしていた。


「若様、身体はきつくないですか?」


「やっぱり若様は、すごく大人しいですね」


 今俺は、数人の侍女に囲まれ服を着せられている。いつも着るような服とは違って、着物に似た和風な正装を着せられている。 


「はい、これで終わりです。どうですか、若様」


「あぅ~」


 俺は、適当に返事をする。


「まぁ、いつにもまして可愛らしいですね千弦。いえ、かっこいいと言ったほうがいいでしょうか?」


 俺の着物姿を見て、母さんが嬉しそうな声を上げる。


「ほら、若様。ご自分でも確認なされてください」


 俺は、侍女の一人に抱き上げられ鏡の前に連れて行かれる。


 うん、中々悪くないな。黒色が所々に混じった白色の髪に、鬼であることを示す赤黒い角、威圧感のある紫黒色の瞳、そこに着物がものすごく合っている。


「どうですか?」

 

「あう!」


 すごくいい!


「喜んで貰えて良かったです、どうぞ奥様」


 侍女は、そう言いながら母さんに俺を渡す。

 

「ありがとうございます。それじゃあ、このまま紫苑様にも見せに行きましょうか」


 母さんは、俺を抱き抱えるといつもの部屋をでて父さんの元に向かった。





「あ、奥様。それに、若様も」


 あ、緋夏だ。朝から忙しそうにしてて、話す事ができてなかったな。


「あぃ〜」


 俺は、緋夏に軽く挨拶する。


「まぁ、とてもかっこよくなられましたね若様」


「千弦は、すごく緋夏を信頼しているんですね」


「え、そうでしょうか」


「千弦は、私と紫苑様か緋夏の前ぐらいでしか声を上げないのですよ」


 確かに、自分でも気付かなかった。


「そうなんですか、とても嬉しいですね」


「これからも千弦をよろしくね」


「はい、もちろんです!」


「紫苑様は、広間にいますか?」


「はい、旦那様は大広間にて開宴の挨拶をしております。ちょうど奥様と若様をお呼びに行くところでした」


「それなら、ちょうど良かったです」


「先に行ってお知らせしてきます」


 緋夏は、そう言い残すと襖を開き、父さんの元に向かった。

 少しすると……。


「知華! それに千弦も!」


「千弦の着替えが済んだので、一緒にきました」


「ちょうど開宴の挨拶をしてたところだ、さぁ二人共こっちに来てくれ。紹介する」


 俺と母さんは、父さんに連れられて広間の中に入った。


「あれは、知華様か?」


「抱えてる赤子は……」


 俺と母さんが広間に入ると、中にいた人達の視線が全てこちらに向けられた。


 うわっ、みんな俺らを見てるぞ。それに、かなりの人数がいる。

 色んな姿の妖怪が視界に映る。


「みなに紹介しよう、この子が千弦だ!」


 父さんは、俺を母さんから受け取ると高く上げて、たくさんの妖怪達に紹介した。

 

「おぉ! この子が!」


「紫苑様に似て、立派な角を持っておるな!」


「知華様と同じように、知的な雰囲気も感じ取れるぞ」


 それから妖怪達は、一斉に騒ぎ出した。


「紫苑」


「ん? おぉ! 朔奈さくな! 来てたのか」


 父さんが朔奈とよんだ人は、狐の耳を生やし、九つの尻尾を持った女の人だった。


「妖王様の代理だ、お前と親しいからと、頼まれた」


「そうか、妖王様に感謝の言葉を伝えてくれ」


「分かった。所で、お前の子供はもう妖力を自覚してるのだな。この歳で自覚するなんて、初めてじゃないか?」


「あぁ! すごいだろ!」


「確かにすごいが、お前のそんな顔を見てるとムカついてくるからやめてくれ」


「何だと?」


「二人共、そこまでにしてください。仲が良いのは分かりますが、赤子の前ですから」


「知華が言うなら仕方ない」


「ふん、十二妖将のお前も嫁には敵わないか」


 二人の関係は、犬猿の仲であり、友達でもあるってところか。


「それにしても、お前の子は大人しいな。他の赤子は後ろで泣き騒いでいるというのに」


「そうなんですよ、産まれた時からすごく大人しくて」


「羨ましいな、私の子は超がつくほどの泣き虫だ。それに、極度の人見知りで……」


 何かを飲んだり、食べたりして騒いでる大人達の後ろで、一緒に連れてきた赤子達が泣いたり、走り回ったりしてる。


「あそこの隅にいるのが私の娘だ」


 朔奈さんが指を指した所を見ると、部屋の角で自分の尻尾を抱えブルブルと震えてる赤子がいた。


「なんであんな隅にいるんだ?」


「他人が怖いのだ、私の前では意外と普通なのだがな。せっかくの機会だからと連れてきたが、あんな調子じゃ却って悪影響だったか?」

 

「そのうち慣れるさ、お前だって昔は人見知りだっただろ」

  

「ふむ、それもそうだな。あっ!」


「どうした?」


「祝いの言葉ともう一つ妖王様から大事な言伝を頼まれていた。今、二人で話せるか?」


「二人? 知華も聞いては行けないほどの話なのか?」


「いや、そこまでではないが、お前の嫁はあの子の世話があるだろ。だから、お前から事の詳細は伝えてくれ」


「確かにそうだな、後で伝えておこう。知華、少しここで待っててくれるか? 大事な話があるみたいだ。話の詳細は後で伝えるから、千弦を見といてくれ」


「大事な話ですか、分かりました」


 母さんがそう答えると、父さんと朔奈さんは大広間から出た。 

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