妖怪転生記〜妖鬼に転生し大妖怪を目指す!

ニア

プロローグ

「お前らの実力は、こんなもんかぁ!」


 人里離れた夜の廃工場で、そんな声が響いた。


「くっ、流石《鬼人きじん》と呼ばれるだけはある、この人数で掛かっても敵わないか。仕方ねぇ、お前ら! あの作戦を実行するぞ!」


「おぉ! 遂にあれをやるんですね?」


「あぁ、この作戦なら、いくらあいつといえど、耐えられないだろうよ」 

 

 声が聞こえた廃工場には、一人の不良青年とその青年に敵対している多数の不良達がいた。

 そして、追い込まれた不良達のリーダーが、仲間達にある作戦の実行を伝えた。


「作戦? どんな作戦かは分からないが、そんなもので俺を止められると思うなよ! なぁ、仁!」


 青年は、自分以外で唯一信頼している、親友兼相棒の東雲 仁しののめ じんに呼び掛ける。

 だが……。


「千弦……ごめん!」


 向けられていた信頼を裏切り、仁は、鬼人こと桜木 千弦さくらぎ ちづるを小刀で刺した。


「いっ――う、仁? なんで……」

 

 千弦は、痛みと仁に裏切られたショックで地面に倒れ込む。


「良くやったぞ仁! お前ら、鬼人が弱った今だ! 全員でたたみかけろ!!」


 どうやら、不良達と仁は最初からグルだったようで、小刀で刺され弱った千弦に対し、リーダーは仲間達に一斉攻撃を命じた。


「圭悟、これでいんだよな? これで、妹を解放してくれるんだよな?!」


 仁は、焦った様子で不良達のリーダー、桐生 圭悟きりゅう けいごにそう質問した。

 実は、仁が裏切ったのには理由があった。

 なんと、圭悟が仁の妹を誘拐し、それを盾に千弦を裏切るよう強迫したのだ。

 

「あぁ、そうだったな。街のデカイ公園に捨てたから、そこに行けば会えるだろ」


「っ! 千弦……」


「仁迷うな! 妹を優先しろ! 俺は一人でもどうにかなる、大事な家族だろ、早く行ってやれ」


「ごめん、千弦。必ず戻る!」  


 仁は、千弦にそう言われ公園に向かった。


「うっ、はぁはぁ。圭悟急にこんな卑劣な手を使うなんてどうしたんだ!」 

 

「人は変わるんだよ、俺もいつまでもお前に負けてばっかなのはうんざりだったんだ。見ろお前の今の姿を! 身体はボロボロ、さらには一緒に戦ってくれる仁もいない、俺の完全勝利だ! だっていうのに、そんな状態で俺たちに…………この人数に勝つって? はっ、刺されてとうとう頭がイカれたか!」


「うるせぇ! わかったよ、結局お前らは卑怯な手を使うことでしか勝てないんだな。どいつもこいつも! 表面の才能だけ見て、裏の努力を知っているはずなのに知らないふりをして、憎み嫉妬する! はぁ、もううんざりだ」


 千弦は、そんな事を呟きながらゆっくり立ち上がる。

 

「お前が才能に怠けず努力してたのは知ってたさ。それに俺だってたくさん努力した、お前を追い越そう勝とうって。でもなぁ! たくさん努力して隣にはならべても、お前ら天才は才能で努力では手の届かない更に先に行くんだよ! お前は努力と才能の間に高い壁があるのを知ってるか? それはすごく固くて高くて絶対に越えられない。こうやって卑劣な手を使って、更に先にいるお前を壁の内側まで引きずってこないとお前には勝てないんだよ! もう負け続けるのは嫌なんだよぉ!! お前ら、かかれぇ!」


 そう言って、圭悟は手下の不良達に指示を下した。

  

「そうか、それがお前の本心だったんだな。分かった」 

 

 千弦がそう言うと、重症を負っているにも関わらず難なく周りの不良達を薙ぎ払った。


「はぁ? 腹刺されてんだぞ!」


 圭悟がそんな事を騒ぐが、千弦は残りの不良達を拳一つで薙ぎ倒していった。


「さぁ、あとはお前一人だ。叩き潰してやる」

  

「クソっ、化け物め! だが、重症を負い弱ったお前なら…………倒せる!」


「そうか…………やってみろ!!」

 

 その言葉を合図に、決戦が始まった。

 そして、激闘を開始して、数分後……。


「はぁ、はぁ、そろそろお前限界じゃないのか? 息切れ起こしてるぞ」


「はぁ、はぁ、仁のやろう、深く刺しやがって血と痛みが止まらねぇ……うっ! くそっ、もう時間がねぇな。次の一撃で決めてやる」


「はっ、弱ったお前の一撃でどう決めるって? まぁいい、そっちがその気なら俺も乗ってやる」  

 

「「オラァァァ!!」」


 千弦達は、互いに最後の一撃をくりだした。

 互いの突き出した拳は、それぞれの顔に当たり、廃工場内にすごい音が響き渡った。


「クソが……弱っていても、やっぱりお前には勝てないのかよ」


 圭悟は、千弦の最後の一撃をくらい気絶した。それと同時に、千弦も地面に倒れ伏した。

 

「死んでないよな? うっ、はぁはぁ。ははっ、俺のほうが死にかけてんだった。ていうかもうこれ助からないだろ」


 そう言いながら、千弦は自分の身体の限界を感じ取る。

 

「あぁ、こりゃもう助かりそうにない。あとは、ゆっくり死を待つだけみたいだ。仁の妹、無事だといいが……」


 月明かりに照らされながら、そんな事を呟く。


「はぁ、今振り返ってみて改めて思うが、今生はろくな人生じゃなかったな。もし、次の人生があるっていうなら今度はもう少しまともな人生を送れるといいけど。ふぅーー、そろそろ意識が薄れてきた。痛みもほとんど感じない」


 千弦の身体の感覚がなくなっていき、意識が消えかかっている時、仁が戻って来た。


「これは……っ! 千弦!」


「声が……聞こえる。仁…か?」


「そうだよ! 僕だよ、仁だよ!」


「妹は、大丈…夫……だったか?」


「うん、千弦のおかげでちょっとしたかすり傷で済んだよ。今は母さん達に預けてる。僕、千弦の事が心配で、自転車ですぐに戻って来たんだ。そしたら、こんな風になってて」


「そう…か、お前の……妹が無事で…良か…った」    


 なんとか千弦が死ぬ前には、戻ってこれたが、既に千弦は、治療不可能な状態になっていた。

 

「千弦、ちょっと待ってて。今すぐ救急車呼ぶから……」


 仁が救急車を呼ぼうとするが、千弦はそれを止めた。


「大丈夫、もう…無理だから…呼ばなくて……。俺が、話す事さえ…出来なくなってしまう前に…少し話を…聞いてくれ」


「でも!」


「頼…む、俺の…最後の願い…なんだ」


 弱々しく喋る千弦の姿を見て、仁はもう助けようがない事を察した。

 

「………………分かった」  


「ありが…とう。さっきも言っ…たが、俺はもうじき……死ぬ。どんな事が起きようと、それは…もう…覆ることは……ない」


 千弦は、本当の本当に最後の力を振り絞り、仁にある約束する。 


「ヒューーー、だが、俺は! どんな姿、形になろうと、何年いや何十年かかろうと、必ずお前の元に戻る! だから、それまで俺の帰りを待っててくれ。約束……してくれるか?」

  

「ぐすっ、千弦……君がいないと、僕すごく寂しいよ…………でも、不思議とまた会える気がするんだ。だから……君の言葉を信じて待つ。何年、何十年経とうが、君が再び戻ってくるまで僕は待ち続ける」  


「ありがとう、仁。そろそろ……お別れ…みたい、だ。必ず…戻って…くるから…また……」


「千弦……………………またね」


 そこで、千弦の意識は消え、身体は完全に動かなくなった。


 



 と思われたが…………。

 

 俺は、死んだ……よな? なんで意識が復活してるんだ? 絶対あの時意識は消えたはず。

 そうだ、身体は……全然動かない。


 千弦は、何故か死んだはずなのに意識が蘇った。

 だが、身体は動かすどころか、手足の存在すら感じる事が出来なかった。


 手足が、ない……? 頭の感覚も……ない。つまり、肉体が存在しない?

 そもそもここはどこだ、俺は廃工場に居たはず。


 俺は、周りを見るがそもそも身体が存在しないので当然どんな所にいるのかは分からなかった。


 今できるのは思考ぐらいか、度々死んだらどうなるのかテレビとかで話されるけど、実際のところは、身体が無くなって意識だけが残るんだな。 

 俺は、幽霊になれる事を期待してたんだが、幽霊にはなれないみたいだ。

 

 俺は、ひたすら現状の解析と思考を続ける。


 はぁ、ずっと何かを考えてるだけは流石にきつい!なんでもいいから、何か起きてくれ!

 

 千弦は、そう願うが、結局思考しか出来ない状態が数十分も続いた。


 はぁ、な〜んにも起きねぇなぁ。寝ることも出来ないし、考えるだけって地獄より地獄だろ。

 まあ、地獄に行ったことなんてないが。


 一人で、そんな事を思っていると……。


『あーあー、この声が聞こえているだろうか?』


 え、は、え? 誰だ? 


 突如、何処からか謎の声が聞こえてきた。

 

『突然すまない。私の名前は月読命ツクヨミノミコト、長いから気軽に月読ツクヨミと呼んでくれ。私は主に夜と幽世を管理し、そして死者を幽世へ導いたりしている』


 月読尊? 俺の数あるちゃんとした知識だと、確か夜を統べる日本の神だっけ?  


『その通りだ』


 そうか、なるほど理解した。


 俺は、すぐさま状況を理解し、月読様に質問をした。


 今俺はどんな状態なんだ? あの時絶対死んだはずだよな。


『今の千弦殿の状態を簡単に説明すると、魂だけの状態だ。千弦殿が認識してる通り、君の身体はもう存在しない』


 魂? う〜ん、あんまりピンとこない。まぁ、とりあえず身体がない、っていうのはわかった。

 今の質問で何となく無理ってのはわかってるが、一応聞かせてくれ。

 俺は生き返れるのか?

  

『出来ることなら生き返してやりたいが、残念だが出来ない。決まりがあるのだ、一度死んだ者は転生しか認められていない』


 やっぱりか、まぁわかってたよ。


『その代わりとは言っては何だが、数十分程待たせってしまったお詫びも含め、死後どのように生まれ変わりたいか、自由に決めさせてやろう』


 おお、それはありがたいな。ちなみにどんな選択肢があるんだ?


『選択肢と言っても、あまり多くはない。何なら数は二つだ。一つは、別の人間として転生すること。これが死んだ人間の一般的な転生先だな。そしてもう一つ、これは少し特殊だが、私の管理する幽世かくりよに転生すること、これが二つ目だ。私のオススメは一つ目の新しく別の人間に転生することだが、どうする? 一応どちらに転生しても、記憶は維持させよう』


 普通に転生して、仁に会いに行くのもいいか……いや、だめだ。仁が裏切ることになった理由は、元をたどれば俺の力不足が原因だ。俺にもっと力があれば、俺という存在をもっと知らしめられていれば、こうなることもなかった。次の人生では同じ事を繰り返したくない、その為には何者にも勝る力がいる。だったら、普通に転生なんて絶対駄目だ。

 よし、考えはまとまった。俺を幽世に転生させてくれ。


『いいのか? 幽世とはその名の通り、妖怪や幽霊の住まう世界だ。そこに転生するということは、人をやめるということになるが』


 構わない、強くなれる機会さえ貰えるのなら。まぁ、欲をいえば人型がいいけどな。

 あ、大事な事を聞きそびれてた。幽世から元いたところには行けるのか?  


現世うつしよへか? 少し手間はかかるが、行き来可能だ』


 おぉ! それなら仁に会いに行ける。月読様! 早く俺を幽世に転生させてくれ!


『あぁ、了解した。それと、サービスで、私の加護と何か役立つものを与えよう。よきように使ってくれ。あとは……幽世や妖怪などについての知識も授けよう。それでは、転生させるぞ。お主の新たな人生に幸あらんことを。縁があればまた会おう』


 あぁ、また縁があれば! 


 こうして、千弦は幽世へと転生した。

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