決断の意味

EVI

第1話:いじめの発端

「高宮くん、おはよう」


「おはよう」


 いつも通りの学校。いつも通りの光景。いつも通りの日常。


 そんな僕の一日は、その日から突然変わってしまった。


「おい高宮。今週発売の漫画買ってこいよ」

 これは、お昼休みでの出来事だ。


 僕が給食を食べていると、クラスの田窪が僕の元へ来て、一つのお使いを頼んできた。


「やだよ。なんで僕が、行かなきゃいけないんだよ」


 その漫画は僕が知らないタイトルで、全く興味のないものだった。


 そのために僕がわざわざ足を運ぶ必要がないだろう。


 それに、田窪は僕と仲がいいというわけでもない。


 どちらかと言うと、田窪はやんちゃで陽気な人で、僕はと言うと、地味で陰気な人だからだ。


 なぜ自分に話が回ってきたのだろう。


 そう思って、僕は田窪に問いかける。


「僕とそこまで仲良いってわけじゃないのにどうして急に僕なんか誘ったの?」


 すると田窪は、何を当然のことをというように、


「お前が頼みやすいからだ。もちろん買ってきてくれるよな」


 と言って、僕の肩を強く掴んだ。


「——っ!!」


 突然の痛みに、僕は悲鳴をあげてしまう。


「おいおい騒ぐなって。ま、今後こういうことされたくなければ俺の言うこと聞いてるんだな」


 最後にそうおどしてから、田窪は僕の元を離れた。


 僕は家に帰ると、なけなしのお小遣いを使って、指定の漫画を買い、翌日の朝に渡した。


「なんだ持ってるじゃないか。ありがとうよ。高宮くん」


 田窪はそれを満足そうに受け取ると、早速読み始めた。


「はーいじゃあみんな席について〜。授業始めるわよ〜」


 担任の朧木先生の声に従い、僕らは自分の席に着く。


「こら!田窪くん。なんで学校に漫画なんて持ってきてるの‼︎没収させてもらいます‼︎」


 ずっと漫画を読んでいた田窪は、先生に見つかり、僕が買ってきた漫画は没収されてしまった。


 1時間目が終了すると、田窪が僕の元へ来た。


「お前のせいであの漫画没収されたんだ。とっとと取り返してこい」


 そう言って、目の前に自分の握り拳をこれぞとばかりに見せつけてくる。


「わ、わかったよ…」


 僕は仕方なく席を立ち、朧木先生の元へ向かう。


「あら?どうしたの」


「あの…さっき田窪くんから没収した漫画…僕のなんですけど……」


 僕が申し訳なさそうにいうと、


「高宮くんが持ってきたの⁉︎なんでそれを田窪くんがもってるのよ。もしかしてなんか嫌なこととかされてたりしない?」


「ごめんなさいっ‼︎……え?」


 怒られるとばかり思っていたので、僕はつい謝ってしまうが、先生の態度は優しかった。


「だって普段真面目な高宮くんが学校に漫画なんて持ってくるわけがないもの。それに、この漫画、発売してからまだそこまで日が経っていないじゃない。明らかにおかしいわよ」


 僕は昨日の出来事を先生に相談しようか悩んだが、脳裏に田窪くんから殴られる僕の姿が出てきてしまったために、それを諦めてしまった。


「僕が…田窪くんにお薦めしたくて持ってきたんです…」


「そうなの?だからって学校に持ってきちゃダメよ。放課後とかに遊ぶ時とかに渡してあげなね」


「はい…」


 朧木先生は疑いながらも僕に漫画を返してくれた。


「ありがとうございます…」


 先生に心配されたような眼差しが辛い。今日はもう何もする気が起きないと思いながらも席に着く。


 ボケっとしてたらお昼時になってしまった。


 朧木先生は職員室に行っていて、教室に先生はいない。


「漫画取り返したか?ならさっさと渡せよ」


 僕の手元に漫画があることをずっと見ていたかのように近づいてくる田窪。


「今渡すとまた没収されるよ…放課後渡すから…」


 何もやる気が起きず、僕は机に顎を乗せる。


 その態度が気に食わなかったのか、田窪は僕の机を蹴飛ばした。


「渡せって言ってんだよっ‼︎てめぇ!また痛い目見たいのか?答えろよ高宮‼︎」


 机を蹴飛ばされたことで僕は、床に顔面をぶつけていた。そこへ田窪の蹴りが鳩尾に炸裂する。


「ぐはっ…」


 あまりの衝撃に、僕は腹に入れていた食べ物を吐き出してしまう。


「げほっげほっ‼︎」


「げぇきったね」


 吐き出したものが田窪の靴についたらしい。


 ただ僕にはそれを気にしてられる余裕はない。


 逃げなきゃ…


 僕はそう直感し、這ったままその場を去ろうとする。


「逃げてんじゃねぇぞ‼︎」


 靴を汚されたことでさらに逆上した田窪が僕を追いかけてきて、僕の服に靴を擦り付けてくる。


「てめぇのせいで汚れたんだ…!!このくらいはしてもらわないとなぁ?」


 何度も何度も…僕は何も抵抗できず、ただ蹴られ殴られ……


「だ、だれか…た、す…け……」


 いつの間にか僕の意識はどこか別の場所へ行ってしまっていた。

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