聖女になった獣人幼馴染の護衛に選ばれたけど、どうやら発情期を迎えたらしい
笹塔五郎
第1話 発情期を迎えていた
少女――エミナ・ロッテンは若くして『Aランク』になった冒険者である。
それは通常、冒険者においては最高レベルであり、エミナは間違いなく若手のホープと言える存在であった。
特に剣術に特化した強さを持つ彼女は、肩にかかるくらいの淡い栗色の髪に、可愛らしい顔立ちをした――彼女のことを知らない人間からしてみれば、冒険者として高い実力を持っているとは、とても思わないだろう。
そんな彼女が呼び出されたのは、『アルベート帝国』の帝都にある騎士団の本部だった。
騎士団が冒険者を呼び出す時は大抵、仕事上の協力を要請する場合に多い。
特に、騎士団のみでは対応しきれない事案などがある場合――腕の立つ冒険者にまで、そういった依頼が回ってくることがあるのだ。
エミナは騎士団から呼び出しを受けるのは初めてであったが、その依頼の内容を見て、すぐに受けることを決意した。
――聖女の護衛依頼。
帝国において、正式に聖女として認められたばかりの少女の護衛を任されたのだ。
聖女の護衛を任されるということは、とても名誉なことである――だが、エミナがこの話を受けるに至った理由は、そこではない。
――重要なのは、その聖女がエミナの幼馴染であるということ。
シュカ・エルナート――幼い頃、同じ孤児院で育った間柄だ。
彼女は獣人であり、人の姿に近いが耳や尻尾が動物的特徴を持っていて、当時――剣士として将来を期待されていたのはシュカの方だった。
けれど、彼女に聖女としての素質があると分かると、すぐに帝国側から聖女見習いへの打診があった。
素質があっても、正式に聖女として認められるためには様々な修行を積まなければならない――故に、幼い頃から色んなことを学ばなければならないのだ。
初めの頃は、シュカは聖女見習いになることを渋っていた。
――それは、エミナと共に冒険者になる約束があったから。
「エミナは危なっかしいところもあるし、ボクが守ってあげないとね」
よく、そんなことを口にしていたと思う――でも、聖女という類まれなる才能があるのなら。
孤児という立場から考えても、破格の待遇で迎え入れられるのだ。
だから、エミナはシュカに言った。
「わたしは絶対、シュカより強くなるよ! シュカを守れるくらい強くなる! 聖女になれるなんて、すごいことなんだから、絶対なるべきだよ!」
当時――エミナは本当にそういう気持ちで彼女を説得した。
最終的には、シュカがエミナの言葉を受け入れる形になったと言える。
それは、二人の別れを意味することであったし、実際――ここ数年間もの間、一度も顔を合わせたことがなかった。
確かに二人は、違う立場となったのだ――ある意味では、エミナが追い付いたとも言える。
本来、冒険者という立場に聖女の護衛が任されるのは異例のことであるが、それを本人が望んでいるのであれば、話は別。
待ち望んでいた、幼馴染との再会は――感動的なものになると思っていた。だが、
「エミナ、『私』とキス、してください……」
かつては、彼女は自分のことを『ボク』と言っていて、女の子っぽくないところもあったけれど――話し方や雰囲気も随分と変わっていた。
短い印象だった髪はすっかり長くなり、服装も含めて白の印象が強い。
そんな彼女だからか、頬が赤く染まっていると、余計に強調されているように見えた。
呼吸も少し荒くなっていて――ベッドの上で、エミナはシュカに言い寄られている。
――再会した幼馴染は、聖女になって発情期を迎えていた。
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