第50話:会計


 ロストフィールドから帰ったラスティは、報告をする為にエクシアの下へ向かうと、と、エクシアが書類に殺されそうになっていた。


 いや、それは流石に大げさかもしれないが、それくらいの顔色の悪さだ。統括部門の統括を担っているというから、色々と苦労が多いのだろう。

 ラスティに気づきもしない様子だったので、デスクの近くに立って、声をかけた。


「お疲れ、エクシア」

「な、なに!? また問題が!?」

「いや、ロストフィールドについての報告だ」


 ぽかん、とした顔になったエクシアが、へなへなと椅子にくずおれた。一気に老け込んだ印象だ。


「な、なんだ、そっちなのね。お疲れ様。何かあった?」

「聖杯連盟の神喰らいヴァルトールと戦った」

「聖杯連盟……神出鬼没な殺人集団ね」

「厄介な話だ。ところで、ずいぶん忙しそうだ。よければ、何か手伝っても良いだろうか?」

「書類整理などできるの?」

「一応高等教育は受けているとも。貴族だし、大臣だしな。書類と添付データの整合性チェックくらいならできる」


 具体的な提案に、エクシアは目を輝かせた。藁にでも縋るような面持ちだ。


「どうかな?」

「ええ、ぜひお願い」

「了解です。こちらのデスクをお借りしていいかな」

「大丈夫よ」


 黙々と作業を進めていく。だが、そのうちラスティが耐えきれなくなって口を開いた。


「……なんでこんなにぜんぜん違う添付ファイルをつけてきてるんですかね……」

「そう、そうなの! 送信前に中身くらい確認しなさいよ!」

「数字も一致しないものが多いし……再提出、指示出しておいたほうが良いだろうか?」

「当然ね! 突き返して!」

「……あ。変なものがあるな」

「今度は何!?」

「これ、同規格の装備の単価が3日前のものと違う。発注数も不自然だし、裏を取ったほうがいいだろうね」

「ぐう……! 確認しておくわ」

「こっちもちょっと変だ。現地の市民を雇用したが、20歳女性無資格未経験者に倉庫整理業務……スパイでなくても、慰安目的なのではないだろうか」

「なんで!? そんなものを経費で雇おうとしないで! おかしいでしょう! 不法者!」

「今度は死亡者手当のリストに3回同じ名前があるな」

「3回殺すわよ! 決済を通したのは誰!」

「……シャルトルーズだ」

「傀儡の王のくせに、たまに仕事をするとろくなことをしない……!! ちゃんと見なさいよ!!」


 やがてコーヒーのカップが空になる頃には、二人共すっかりくたびれ果てていた。

 まさかの6割に『不備あり』だ。全部再提出を待っていたら、終わるわけがない。


「……申し訳ない。何か、かえって面倒を増やしているような……」

「いや、貴方は正しい……正しいの、だが……! どんどん仕事が増えていく……ッ!」

「……数値の誤差はもう目を瞑って、あきらかにまずいのだけ弾くほうが良いだろうか?」

「……そうしよう……」


 はたして、アーキバスの会計が健全化する日は、いつかやってくるのだろうか。


 今のところの感覚では、とりあえず、無理そうだった。


 

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