第39話:煽られる戦火

◆上位者からお知らせ◆


【「始めまして、この世界に存在する様々な命の諸君。上位者であるこの俺、アスラクラインからのお知らせだ。今から君たちには殺し合いをしてもらう。言葉でルールを説明するのは時間がかかるので、圧縮言語でお届けしよう」】


【デスゲームのルールは六つ】

①時間制限はなし


②命を殺すと自分の能力が上昇する


③ボーナスターゲット

・殺害するとボーナスがある対象が七人存在する。現実改変能力を持っていて、殺害に成功した場合はそのまま能力とボーナスのターゲットも、殺害した者へ移動する。


④デスゲームの終了条件

・ボーナス対象が一人になる。

・現時点の上位者でありデスゲーム主催者のアスラクラインを打倒する。



⑤ランキング制度

・一ヶ月ごとに更新

・殺せば殺すほど得点が加算

・上位30人には『不老不死』『死者蘇生』『特殊能力』『強力な兵装』『デスゲームからの途中離脱』の中から一つ選んで獲得できる。


⑥イベント

・多種多様で期間限定のイベント。

・特定の種族や国をボーナスターゲットとした大量得点のチャンスや、アスラクラインの召喚した怪物から自軍を守る防衛戦、さらには非戦闘期間や、季節限定のアイテムがもらえるイベント開催予定。



【「力を存分に振る得る様々な『イベント』を用意している。戦うのが好きな者、死にたくない者、好きな人達を守りたい者、憎しみを抱える者、楽しみな者、そして命を託す者。ぜひとも命を強化して、生存活動に励んでくれたまえ」】



 ラスティとオーディンはチェスをする手を止めた。


「今の聞いた? ラスティくん」

「ああ、私にも届いた。世界を巻き込んだデスゲームとは……愉快なことだ」

「ラスティはええな、何でも楽しめて。殺し合いとかクソ面倒やねん。好きなやつだけ勝手に殺し合ってればええんや」

「しかし、我々は現実改変能力を有している。つまりボーナスターゲットだ。殺さなければ殺されるだろうな」

「せやなぁ。ランキングで上位30人の報酬も豪華やし、やる人は多いやろうなぁ。先の大混乱で親しい人が死んだ人も多いし」

「というか、このための布石と考えるのが妥当だろう。戦火を振り撒き、多くの人が戦わざる得ない状況に陥らせる」

「はー、しょうもな。主催者カスやんけ」

「それで、方針はどうする? 協力プレイか、ソロプレイか」

「協力一択やろ。ゲーム理論の基本」

「一つの密林の中に同じ目的を持った二人のハンターがいる。協力して大きな獲物か、敵対してそれぞれ競うか……だったか」

「それや。案外覚えてるもんやね」


 オーディンは椅子から立ち上がり、体を伸ばして窓を開ける。


「それじゃあサクッと近場のやつ殺して回るついでに、情報集めてくるわ」

「おや、好戦的だ」

「死にたあれへんもん。ラスティくんも経験値稼ぎしっかりするんやで」

「そうだな、私も死にたくはない。人の手のひらで踊らされるのはいささか気分が良くないが……ノブリス・オブリージュの基本はボランティア活動だ。領民の生活を守るために頑張るとしよう」

「ほな、また」


 オーディンは手を振ると、その場から消えた。

 同時に、通信魔法が接続される。



◆強盗団撃滅◆

依頼主:世界封鎖機構(ネフェルト少佐)


久しぶりです、ネフェルト少佐です。

今回お願いしたいのは、最近活躍してる強盗団の撃破よ。


彼らは前から世界封鎖機構の補給車両を襲って物資を強奪してるの。もちろん封鎖機構も動いたけど、リーダーがかなり凄いらしくて手を焼いてる。


そこで貴方に白羽の矢が立った。囮の輸送部隊で誘き出すから、そこで倒して欲しい。凄いのはリーダーだけだから、それを倒せば強盗団は呆気なく崩れ去るはず。


敵は殆どが普通の亜人や人間。そっちにはシャルトルーズも居るし、万一は無いわ。報酬は前払いで渡しておくから、それを試すための的にでもすればいいわ。


なんでこんな些細な仕事を私が持ってくるか疑問だと思いますが……それは秘密です。今回のデスゲームに懐疑的な封鎖機構の上層部も、それを信じる人の流れは理解できるはず。今回の依頼が成功したら、貴方は正式な同盟者として認定され、情報を開示する許可が下りる手筈になっているわ、、


あ、そうそう。相手は民間用の魔導ゴーレムを奪って使用しているわ。どっちかっていうと、これの回収がメインミッション。


正直に言わせてもらうと、強盗団なんてどうでもいいの。亜人も人間も生かすも殺すも一任するけど、魔導ゴーレムだけは出来る限り原型を残して持って帰ってきてね。


もし状態が良かったら追加の報酬も出してあげるわ。まあ最悪パーツだけでもいいけど、追加報酬が欲しいなら頑張って。

よろしくお願い。


敵戦力:世界封鎖機構製・民間魔導ゴーレム


前払い報酬:コンタクトレンズ型高性能レーザーサイト。

魔力収束加速増大装置。


追加報酬:???



 ラスティはネフェルト少佐からの依頼を確認すると、エクシアに連絡を取った。


「エクシア、今大丈夫かい?」

『ええ。さっきのデスゲーム開催の話、貴方はどう考えているの?』

「真実だと捉えて構わないと思っている。あのアスラクラインを名乗る男からは前にも接触があった。デスゲームが本当かはおいておいて、それに触発された世界は殺し合う方向へ向かうのは確実だ」

『頭が痛い話だわ。了解。統括部門はデスゲームを想定して作戦を考える。貴方はどうするの?』

「何でもやるさ。ノブリス・オブリージュの基本はボランティアだからね。君が困っていたら、世界を相手にしても救い出す」

『ありがとう。それだけで私は前へ進める。これから酷いことをするけど、貴方は私の味方でいてくれる?』

「私は全てを肯定する。やりたいことをやれ、エクシア」

『了解。貴方も好きなことをやって。困ったら助けを求めるわ』


 ラスティは、エクシアとの通信を切って、今度はシャルトルーズに繋げる。


「シャルトルーズ、仕事だ。私の部屋まで来てほしい」

『了解』


 バリン、と窓ガラスをぶち破ってシャルトルーズが転がり込んてくる。そして流れるような動作で窓ガラスを修復する。


「派手な登場だ」

「お嫌いですか?」

「いいや、面白い」

「お気に召したようで何よりです。それで何の御用ですか?」

「強盗団の排除だ」

「情報を検索……確認。了承」


 準備を整え、世界封鎖機構が手配した飛行型魔導ゴーレムに乗って、作戦領域へ移動する。


「囮の輸送部隊の後方に投下後、ヘリは離脱する。忘れ物は無いな?」

「ありません。戦闘モード起動」

「魔装ゴーレムギア、セットアップ。変身」


 飛行型魔導ゴーレムの扉を開け放ち、そこから地面に飛び降りたラスティとシャルトルーズに合わせて、コンタクトレンズ型高性能レーザーサイトが情報を表示する。


 数秒ほどの後で、一面に広がる荒野が広がった。少し先で戦闘しているらしい様子が伺えた。


「ネフェルト少佐が言うには、囮の輸送部隊には魔導ゴーレムも複数体ついてるらしい。お前達はその後方に投下された後に、そっちに加勢するのが提示されたミッションプランだ」

「確認。抵抗しないと罠だってバレますからね。その割には押されてるみたいだけど?」

「時間を稼げればいいだけだから、何も知らされてない練度は低い部隊みたいだ。前進する」

「質問。囮は助けますか?」

「どちらでも構わない。生かしておいてもボーナスは無いが、見殺しても報酬は減らされない。魔力を無駄にしたくないならスルーでいい……個人的ね意見としては助けたい」

「認識。では助けましょう」


 ラスティとシャルトルーズは魔力噴射で一気に加速して先へ進むと、なにやら様子がおかしいことに気がつく。。


「何だ、これは。押されてる? しかも一体に」

「失望。囮にしても弱すぎます」


 ラスティの言う通り、たった魔導ゴーレムの人間相手に劣勢に陥っている囮部隊が見えたのだ。ネフェルト少佐の話を信じる限りでは、あれが民間用の魔導ゴーレムなのだろう。しかし、単純な行動しか出来ない民間魔導ゴーレムに押されるなんて、分かってはいた事だが凄まじく低練度のようだった。



「トラックも横転してる」

「警戒。不気味な雰囲気です」

「念の為、索敵用の魔法生物を先行させる」


 ラスティが地面に叩くと、影からカラスが生まれて、それがラスティの視界と繋がる。先行する。するとラスティの視界に戦場となったトラック周辺の映像が映し出された。


 ちょうど最後の囮部隊が抵抗虚しく頭を撃ち抜かれて機能を停止したところであり、その周囲には生命体だった残骸が転がっている。


「なんだ」


 しかしラスティが注目したのは、戦場をやっていれば自然と見慣れる残骸ではなく、魔導ゴーレムでもなく、その魔導ゴーレムを従えているらしい男であった。

 彼の手に握られた二振りの実体ブレードに見覚えがあったのだ。


 


「あれは……」

「疑問。何がありましたか?」

「強盗団のリーダーらしき奴を見つけた。魔導ゴーレムと一緒に、そこに居る」

「喜び。探す手間が省けて良い……なんて、声を聞いてる限りだと言えませんね。何か問題でもありましたか?」


 こういう作戦中は狼狽える様子を聞かせて不安にさせないよう、なるべく声色を変えないように気を使っているのだが、シャルトルーズの耳は誤魔化せない。


 ぴしゃりと内心の変化を言い当てられ、シャルトルーズ相手に嘘はつけない事を再認識しながら言葉を放つ。


「まずは一つ目の悪い知らせだ。囮部隊は全滅した。そして二つ目は」


 ……そこから先を口に出す事は出来なかった。映されていた男が、急に叫んだからだった。



 ………………最初は、食いっぱぐれの無い最高の仕事だと思ってた。


 幼い頃から貧困に喘ぎ、日々痩せ細っていく村の人々を見てきた彼にとって、食いっぱぐれないという一点は凄まじく魅力的だったのだ。


 彼は文字が読めない。そこまでの教育を受ける前に村が壊滅してしまい、一人で生きざるを得なかったからだ。


 そんな彼に仕事など有るはずもなく、スラムで死なないために今日を生きるという生活を送っていた時、声をかけられた。



『私達は君のような人材を求めている。我々の元で働く気はないか』


 怪しいとは思ったが、彼に仕事のアテなど無い。その提案に頷く以外の選択肢など、初めから存在しなかった。


『これが次の素体かね?』

『はい。資料によると、スラム街の人間だとか。しかし、相当衰弱しているようですよ。これじゃ死人と殆ど変わらない』

『スラム街の連中など、元より死んでいるも同然だ。……だがこの手術で生まれ変わるさ』

『生きていれば、ですが』

『まあそういう事だな。では始めようか』


 何処かの研究所のような施設に連れてこられた彼が最初に受けたのは、気が狂いそうになる苦しみを与えられ続ける手術だった。


 その手術が自らの身体能力を強化したのだと気づいたのは、痛みから解放された三日後の話である。


 そこまでは天国のような生活だった。食べ物には困らず、シャワーだって浴びられた。訓練は少し厳しかったが、前までの死にかけていた頃に比べたら屁でもない。


 当初抱いていた不信感なんてものは完全に消え去っていた。



 その生活が終わりを告げたのは、その手に武器を持たされ最前線へ送られた時からだった。


 しかし当初、深い事は考えなかった。ぼんやりと最近暴れている『あーきばす』とかいうのと戦うのかと考えたくらいだ。


 だが彼の予想とは異なり、戦う相手は『あーきばす』などではなかった。では人間なのかというと、そうでもない。


 だったら何かというとモンスターである。そう、彼は知らないうちに対モンスター討伐軍に入隊させられていたのだ。


 高濃度圧縮魔力に被爆してしまった生命体が運悪く即死せず、怪物へと成り果ててしまった異形の化物たちは、最新の魔導兵器などを持ち出し、扱う人間の肉体を改造して初めて戦えるようになる人類の負の遺産。


 現在では世界各国が対処に追われるモンスター達は、酷いものだと昔のおとぎ話に出るような巨体を持って人類の数少ない生活圏を壊しにやって来る。


 普通の魔法は通用せず、大きくなれば大砲すら弾き返すような化け物と日夜死闘を繰り広げた彼の精神は徐々に壊れていった。


 そして自分の真横で戦っていた奴が、モンスターに生きたまま腹を喰い破られる瞬間を見てしまった時に悟ったのだ。食いっぱぐれない飯よりも命こそが大事。あんな化け物どもと殺り合ってたら命が幾つあったって足りない。


「扱いづらい武器だって話だったが……」


 だから軍から逃げ出した。同じ気持ちだった仲間と一緒に。

 もちろん追われ、他の仲間は殺されたか連れていかれた。だが彼だけは逃げられた。 


「軍の兵器が、民生用の型落ちに負けるわけねぇだろ!」


 逃げる際に軍の倉庫から強奪した、凄まじい切れ味を誇る二本一対の実体ブレードと外骨格を使って強盗団を組織した彼は、軍に入る際に改造された身体と奪った武器を使ってあらゆる物を強奪してきた。


 だが、その心に立ち込める暗雲が晴れることはなかった。モンスターとの戦いでこびり付いた恐怖は、彼の心に深い傷を残していたのである。


『敵機確認。A-1、オペレーションを開始します』

「行くぞぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁあ!!」


 壊れそうになる心から目を逸らすために、そして自らを奮い立たせるために、彼は叫んだ。

 奪った物資の中に、我を忘れられる薬が混じっている事を祈りながら。


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