第36話:クローズプラン②

 ラスティは男の言葉に頷いた。


「構わない。どんな子が好きなんだ?」

「お淑やか系やね。女の子はやっぱ男の後ろをついてくるのがちょうどええ」

「随分と愉快な価値観だ」


 そういえば、と男はラスティに問いかける。


「ラスティくんはどんなタイプの現実改変なの?」

「現実改変には種類があるのか?」

「己を改変する求道型、周囲を改変する覇道型、全てを改変するが出力は低い修羅型の三つやね。個人的にラスティくんは修羅と思ったけど、性能が桁違いに高いんよな。なんか良い練習方法でもあるの?」

「分からないな。強いて言えばルールを決めているくらいか」

「ルール?」

「ノブリス・オブリージュを目指す、というルールだ」

「縛りとか制約と誓約みたいな? それで力が強くなったらみんなしてる思うけどなぁ。わからんわ。でもラスティくんもミスが多いし、トントンといえるのかもしれんな」

「ミス? なんだい? それは」

「インファイターやるなら致命的なミスやね」


 良く気づくんやで、と少しだけ勿体ぶる様に言葉を置く。少しだけ間を開けて、ラスティが集中する時間を作り、それからゆっくりと言葉を放つ。


「ガードのし過ぎ」


 ラスティはその言葉に首を傾げる。

 オーディンは、近くの地面を指で削りながら、近接戦闘における話を始める。


「いいかいラスティ君? 戦闘で取れる三つの動きはなんやと思う」

「攻撃、回避、防御」


 正解だと答える。これが戦闘における三大要素だ。


 攻撃、回避、防御。


 すべての行動は大体この三つで分類する事が出来る。出来るのだが、素質や保有技能、スタイル等によってこの比率は大きく変動する。

 ここには問題はない。問題なのはラスティが意識的にガードしすぎる、という事なのだ。


「きっとラスティ君は真面目なんやろうな。基礎に忠実で、肉体の形成もしっかりしとる。普通なら問題ない範囲やが、対現実改変能力者相手に対して防御力の回数が多すぎるんや」

「初見だったとはいえ、受けに回り過ぎたか……? しかし攻勢一辺倒だった気もするが」

「普通なら問題はないやろうね。特に魔法が有効な相手なら、強固なシールドなり肉体強化で自然と戦い方が耐えて殴る方が効率が良くなる。だけど、改変能力はアカン」 

「即死するから、か」

「せやせや。さっきの骸骨マントとか良い例やけど触れたら即死する能力を防げるのは自分の改変能力だけや。そして改変能力は人それぞれピーキーな特性がある。もし防御側の改変能力より攻撃力側の改変能力のほうが高ければ即死する。綱渡りや」 

「基本的に、インファイトする時は攻撃を受けない事が理想か」

「そして攻撃をどうしても避けられない時は確実に受け流しておきたい。何故か解る?」

「ダメージが発生するから?」


 それは合っている。改変能力で戦っている以上、防御を選択した場合には自然と体にダメージが発生する。これは全体的な勝機を奪う行動であるが、それよりも致命的な問題が防御という選択肢には存在する。


「回転率が下がるんよ」

「回転率」


 おう、と頷いて答えながら地面に、文字を描いておく。


「理想的な戦闘ってのは最初の一撃で敵を倒す、或いは殺すことや。だけどそんな風に勝負を決められる事は多くないってのが現実で、そうなってくると戦闘のサイクルが生まれてくるわけやな」

「つまりは攻防のサイクル」

「せや。ラスティ君が攻撃し、相手がそれを防ぎ、相手が攻撃し、此方がそれを防ぐってサイクル。現実改変に限った話だとこのサイクルの回転率は凄まじく早い。そしてそのスピードを維持し、戦うってのが理想やね」


 解る? と言う。


「防御って行動は動きを止める必要性が出てくる。つまり何が言うと、回転率の低下が勝率の低下にイコールするって話。特に現実改変の場合」


 軽く拳を振るう。


「基本的にリーチがお互い見えない。威力が高い。壊されると再構築する必要がある。一回防御に回ると一気に削られる要素が増える」

「なるほど」

「特に俺みたいな超達人級とも呼べる連中になってくるとまず狙うのは必殺やからな。初手で殺す。次に初手で殺せないなら手足を破壊する。確実に殺すための手段を取る。んで防御なんてしようものなら徹しでガードに使ったものごと心臓ぶち抜いてジ・エンド」

「深いな……おや」


 ラスティとオーディンが話しているとエクシアの姿が見えた。


「エクシア……」

「話は終わりやね。いつでも通信魔法くれてもええよ。友達やしね」

「わかった。そうさせてもらう」

「ほな、また」


 オーディンはジャンプして消えた。

 綺麗な街並みと、十字架に磔にされた人々がいる首都の中で、ラスティとエクシアは再開する。


「大丈夫かい?」

「ええ。貴方こそ大丈夫?」

「私は平気だ。今はどこまで状況を把握している?」

「何も。さっき目覚めたばかりで、自分の傷を治して、鎖を切ったの」

「では、まずは最初から話すとしよう」


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