第36話:クローズプラン②


「ぐおおおおお!? 痛い痛い痛い! 喋ってる最中に攻撃をするな! 馬鹿なんじゃないのか!!」

「骸骨マントは死に関連した覇道型の現実改変をしてくるで。回避は忘れずにな」

「オーディン!! 貴様、呼び出しておいて二体一とは卑怯な!!」

「すまんな、偶然そこで会ったんやよ。本当やで?」


 オーディンが謝っているところに、ラスティは質問を投げかけた。


「現実改変には種類があるのか?」

「己を改変する求道型、周囲を改変する覇道型、全てを改変する修羅型の三つやね。ラスティくんは修羅だと思うわ」

「了解だ。それを意識してやってみよう」


 剣を出現させて一斉に射出する。

 骸骨マントの魔力バリアに弾かれて地面に突き刺さった剣を、足を滑らせて、切っ先を床から引きはがし、回転させるように刃を骸骨マントの方へと向けた。


 そのまま低い位置にある剣、その柄を蹴り飛ばし、弾丸のごとく射出する。


 体全体を支える役割を保有する足はその性質、構造上腕よりも肉が付きやすく、移動術を多用する都合上、鍛えられている。


 そのため、弾丸を銃から放つのと遜色のない破壊力を持った剣は一直線に駆け抜けてゆき、骸骨マントの右頬を裂いて後ろの宙に消えた。


「さっき弾けたけどなんで次は当たるの!? こわっ!! 魔法展開・『死の呼び声』を発動!! 更に上乗せで発動! 『死の付与』を発動!」


 黒いモヤモヤしたものが骸骨マントに纏わりつく。触れれば即死する死のオーラの鎧だ。純粋な防御力も高く、衝撃と対魔力に関しては飛び抜けて強い。


「なら、あらゆるものを破壊するメイス」


 ラスティは一メートルほどの柄の先端に金属の塊がついているメイスを出現させ、軽めに握りながら、右足から踏み込み、下から振り上げるようにしつつ、握る手に力を込める。


 反応するように骸骨マントは回避ではなく、片足と両腕を交差させる事によって防御を固める。だがそれで威力が殺せるわけもなく、メイスにはじかれた衝撃によって骸骨マントをからだが後ろへと押し込まれてゆく―――魔法で体を強化していてもだ。


 魔法で身体を強化していなければとっくに骨は折れている。しかし今は骸骨マントとラスティの改変能力のぶつかり合いによって、衝撃が伝導するくらいの結果に収まった。


「正面から戦っていられるか! こっちは魔法使いなんだぞ!! 近接戦はジャンルが違うだろジャンルが!」

「すまんな、君を逃がすつもりはないんや。骸骨マントくん」

「ぐえっ! ちゃんと手を出してくるのかよ!! 正々堂々と決闘しようと言っていたじゃないか!」

「あれ嘘や。ほんとなら不意打ちで殺すつもりやったんやけど、ラスティ君の登場でサヨナラしたからな。距離を取るのを妨害するのに徹せさせてもらうわ」

 

 オーディンは骸骨マントを蹴り飛ばす。

 その背後からラスティも襲いかかり、3メートルほど後方へと押し込む。その姿勢が安定する前にメイスを前方へと投げ、骸骨マントがそれを腕ではじく間に近くに落ちていた剣を蹴り上げる。それをつかみ、左半身を前に見せるように構え終わった瞬間、骸骨マントの姿勢が安定し、一気に踏み込んでくる。が、それを牽制するように縦に斬る。骸骨マントはそれを後ろへと軽くスウェーしながら回避し、その反動で体を加速させ、前に出る。

 何十秒間か近接戦闘を繰り広げる。


「意外と近接戦闘できるじゃないか」

「うるさい! 黙ってろ!! カス!」

「俗的だ」

 

 その瞬間に合わせるように斬りつつ小さく円を描いた矛先を薙ぐ。それを骸骨マントは敏感に反応し、片手でガードするように防ぐ―――瞬間、突き出された剣が一瞬で骸骨マントの喉に到達し、切り落とした。


 ラスティは叫びながら両手を広げる。


「終末の剣、始発の槍、凡夫の鉄砕。終劇の鐘の音は響き渡る!」


 首と胴体が分断された骸骨マントは、突如として異空間から現れた巨大な剣に貫かれて磔にされる。


「多重封印・地獄の門番」


 そして異空間にその体ごと引き込まれて、時空の裂け目は閉じる。

 残った場所には静けさがあった。


「うわぁ、復活することを予期して封印するとか引くわぁ。ええ……無いわ」

「酷いな……骸骨は復活するイメージが強い上に、死の属性を操るんだ。自己蘇生くらいすると読んだが間違いでは無かったかな」

「せやね。あの骸骨マントは中遠距離から徹底的に死を付与した魔法を使いつつ、自分が近づかれたら死の鎧で身を守り、死亡したら相手の魂と引き換えに蘇生することに長けたやつなんや」

「強そうだ」

「それを君は上から何でもありでぶち破ったわけやから、修羅道かなーと思ったけど、性能が桁違いに高いんよな。なんか良い練習方法でもあるの?」

「分からないな。強いて言えばルールを決めているくらいか」

「ルール?」

「ノブリス・オブリージュを目指す、というルールだ」

「それで力が強くなったらみんなしてる思うけどなぁ。わからんわ。でもラスティくんもミスが多いし、トントンといえるのかもしれんな」

「ミス? なんだい? それは」

「インファイターやるなら致命的なミスやね」


 良く気づくんやで、と少しだけ勿体ぶる様に言葉を置く。少しだけ間を開けて、ラスティが集中する時間を作り、それからゆっくりと言葉を放つ。


「ガードのし過ぎ」


 ラスティはその言葉に首を傾げる。

 オーディンは、近くの地面を指で削りながら、近接戦闘における話を始める。


「いいかいラスティ君? 戦闘で取れる三つの動きはなんやと思う」

「攻撃、回避、防御」


 正解だと答える。これが戦闘における三大要素だ。


 攻撃、回避、防御。


 すべての行動は大体この三つで分類する事が出来る。出来るのだが、素質や保有技能、スタイル等によってこの比率は大きく変動する。

 ここには問題はない。問題なのはラスティが意識的にガードしすぎる、という事なのだ。


「きっとラスティ君は真面目なんやろうな。基礎に忠実で、肉体の形成もしっかりしとる。普通なら問題ない範囲やが、対現実改変能力者相手に対して防御力の回数が多すぎるんや」

「初見だったとはいえ、受けに回り過ぎたか……? しかし攻勢一辺倒だった気もするが」

「普通なら問題はないやろうね。特に魔法が有効な相手なら、強固なシールドなり肉体強化で自然と戦い方が耐えて殴る方が効率が良くなる。だけど、改変能力はアカン」 

「即死するから、だね」

「せやせや。さっきの骸骨マントとか良い例やけど触れたら即死する能力を防げるのは自分の改変能力だけや。そして改変能力は人それぞれピーキーな特性がある。もし防御側の改変能力より攻撃力側な改変能力のほうが高ければ即死する綱渡りや」 

「基本的に、インファイトする時は攻撃を受けない事が理想か」

「そして攻撃をどうしても避けられない時は確実に受け流しておきたい。何故か解る?」

「ダメージが発生するから?」


 それは合っている。改変能力で戦っている以上、防御を選択した場合には自然と体にダメージが発生する。これは全体的な勝機を奪う行動であるが、それよりも致命的な問題が防御という選択肢には存在する。


「回転率が下がるんよ」

「回転率」


 おう、と頷いて答えながら地面に、文字を描いておく。


「理想的な戦闘ってのは最初の一撃で敵を倒す、或いは殺すことや。だけどそんな風に勝負を決められる事は多くないってのが現実で、そうなってくると戦闘のサイクルが生まれてくるわけやな」

「つまりは攻防のサイクルか」

「せや。ラスティ君が攻撃し、相手がそれを防ぎ、相手が攻撃し、此方がそれを防ぐってサイクルだな。現実改変に限った話だとこのサイクルの回転率は凄まじく早い。そしてそのスピードを維持し、戦うってのが理想やね」


 解る? と言う。


「防御って行動は動きを止める必要性が出てくる。つまり俺が言いたいのは回転率の低下が勝率の低下にイコールするって話だ。特に現実改変の場合」


 軽く拳を振るう。


「基本的にリーチがお互い見えない。威力が高い。壊されると再構築する必要がある。一回防御に回ると一気に削られる要素が増える」

「なるほど」

「特に俺みたいな超達人級とも呼べる連中になってくるとまず狙うのは必殺やからな。初手で殺す。次に初手で殺せないなら手足を破壊する。確実に殺すための手段を取る。んで防御なんてしようものなら徹しでガードに使ったものごと心臓ぶち抜いてジ・エンド」

「深いな……おや」


 ラスティとオーディンが話しているとエクシアの姿が見えた。


「エクシア……」

「話は終わりやね。いつでも通信魔法くれてもええよ。友達やしね」

「わかった。そうさせてもらう」

「ほな、また」


 オーディンはジャンプして消えた。

 綺麗な街並みと、十字架に磔にされた人々がいる首都の中で、ラスティとエクシアは再開する。


「大丈夫かい?」

「ええ。貴方こそ大丈夫?」

「私は平気だ。今はどこまで状況を把握している?」

「何も。さっき目覚めたばかりで、自分の傷を直して奴隷の鎖を切ったの」

「では、まずは最初から話すとしよう」


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