第18話:多数の敵


【ミッドガル帝国・ラスティ・ヴェスパー大臣の執務室】


 良識派の貴族や役員が集うその場所で、一人黙々と何かを書き留める人影が一つ。

 ラスティは今回起きた一連の流れを詳細に書き留め、各施設や部門から報告される情報をまとめていた。


 部室棟には監視用のマジックアイテムの類も設置されており、空中を行き交う警備ゴーレムの監視映像も存在している。あの場で一体何が起きたのか、凡その情報は出揃いつつあった。


 無言でペンを動かすラスティの耳に、部屋の扉が開く音が届く。ふとデスクから顔を上げると、やや憔悴した様子のエクシアがオフィスへと足を踏み入れた。

 彼は問いかける。


「デュナメスとシャルトルーズの容態は?」

「現在は安定しているわ、現場での処置も適切。しかし世界封鎖機構が身柄を拘束している」

「……そうか」


 エクシアの返答に凡そ予想はついていた。ラスティは深い溜息を吐き出す。エクシアもラスティの隣へと無造作に腰掛ける。椅子が軋み、らしくもなく足を投げ出すエクシア。右手で顔を覆いながら天井を仰ぐ彼女に対し、ラスティは努めて冷静に告げる。


「崩落した慈善活動組織アーキバスの拠点は……一先ず崩落した外壁の撤去と破損した歩道の修繕、爆発した箇所には大型のリペアプレートと固定ジェルで簡易的な修繕を命令して来たわ、外壁周辺はゴーレムで何とかなるし、瓦礫撤去も明日までには終わる筈だ」

「――そうなると、本格的な外壁修繕は明日以降になるわね」

「ああ。メインルームは一時的に封鎖、周囲に大きな怪我人が出なかったのは幸いだ――……が、腐敗派に付け入る口実を当ててしまったのは事実だ」


 ラスティの言葉、その後ろにどんな続きがあるのか薄々とエクシアは気付いていた。傍目から見ても彼女は参っている、気が気でないと表現するべきだろうか。暫し無言を貫いたエクシアは、手元の画面が真っ暗な端末を叩きながら呟く。


「テロという評判が広がっている。腐敗派はこれを口実に防衛力の欠如、腐敗貴族による勢力増強を主張してきている。そしてそれはそれとして事件を防げなかった良識派へのバッシングもひどい」


 ラスティの言葉に口を噤むエクシア。念入りな調査によって今回の件に腐敗派が絡んでいない事は既に理解している。事件後の意図的な情報操作や、シャルトルーズという過去の遺産を持ち帰ったことに対する批判こそあれど、それは事件に乗っかった動きだ。

 主犯ではない。。



「今は外部からの襲撃に対して心配する必要まある。この混乱に乗じてダイモス細胞を持った子達を狙う『ロイヤルダークソサエティ』、引き続きこちらの領地の遺産を狙う『世界封鎖機構』、国家転覆を企む『革命軍』、ミッドガル帝国を憎む『異民族』への警戒もだ」

「今回の騒動、もう外に?」

「……こちらの事に関しては、何処も敏感ですから」

「……世話をかける。すまない。ありがとう。助かる」

「いいえ。大丈夫よ。貴方は私が支える。何があっても見捨てない。死ぬなら貴方より先に死ぬ」


 ラスティの肩を、エクシアは優しく包む。それにラスティは手を握ることで返した。



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