第15話:旧時代の王女④

 翌朝、起床して執務室へやってきた面々は仮想シュミレーターによって得た知識によってゲーム的な口調でありながらも、比較的スムーズなやり取りを行えるようになったシャルトルーズに歓喜の声を上げる。

 そしてラスティが持ってきた帝国国民証と制服を見つける。


 


「制服もオッケー、国民証もラスティが用意してくれた。学籍情報も完璧に偽装――もとい書き換えられた筈だから……あと必要なのは」


 エクシアがそう呟けば、ラスティがゆっくりと頷きながら答える。


「――武器、だね?」



 ミッドガル帝国に於いて武器を携帯していない事は非常に不自然な事である。

 ミッドガル帝国は『武力衝突の抑止力』のために武器の携帯を推奨している。そして攻撃を受けた際は積極的な防衛と、報復が許可されている。


 そのため、自分の命を捨てた者以外は基本的に善良であり、規範的な行動を取る。


 という事でシャルトルーズの武器を見繕う必要があると予測していたラスティはその相手を用意していた。

 

「はじめまして。ラスティが世話になっているね。あいつの親のフラットウェル・ヴェスパーだ。ラスティから話は聞いているよ、新しい仲間に良い武器をプレゼントしたいのだろう? 向こうにある試作品、それに作ったは良いが特に使い道が無かったもの置いてある、どれでも好きなものを持って行くと良い」

「ありがとう、父さん」


 ヴェスパー家に到着すると早速主てあるフラットウェル・ヴェスパーがが出迎え、快く彼女達に協力を申る。


 倉庫の片隅で並べられた武器を前に悩むシャルトルーズ達。音楽を奏でられる剣。水を連射可能な槍、相手の服だけを溶かす光線を発射する盾など、多種多様かつ実用性に疑問が残る代物が盛りだくさん。


 もし戦闘経験があまりないのなら、比較的扱いやすいがもののではないかと短剣やナイフなどを勧める。しかしシャルトルーズは倉庫の奥に閉まってあったものを見つめている。


「――あれは、何ですか?」


 シャルトルーズの目に一つの武器が飛び込んで来る。それは倉庫の片隅で安置されていた巨大な火砲『対厄災級モンスター用高出力魔力砲』であった。


 身の丈を超える様な巨大武器、ミッドガル帝国に於いて最上位に近い予算を与えられた技術研究所の下半期予算、その七割を費やして造られた兵器である――その正式名称は。


「これは、『無垢なる刃:デモンストライク』です!」

「ッ……!」


 その名前を聞いた瞬間、シャルトルーズは目を輝かせ始める。「あれが欲しいです!」と叫ぶシャルトルーズに対し、フラットウェルは難所を示した。


「あれは要塞に設置する用途で作られていて個人携帯火器としては余りにも重く、大きく過ぎる……人が使ったら反動で死にかねない」


 基本重量で百四十キロ以上、更に照準器と魔力バッテリーを足した上で魔力砲撃を行えば、瞬間的な反動は二百キロを超える怪物火器。クレーンでも使わなければ持ち上がらない。


「渡せるのなら渡したいけど」


 と思い悩むフラットウェルを前に、シャルトルーズは再び目を輝かせ問いかける。


 


「なら、証明してみせます。私にならできる筈です」


 そしてシャルトルーズは無造作にデモンストライクへと近付くと、一息に持ち上げた。その怪力に呆然とするフラットウェルを他所に、シャルトルーズは適当にボタンを操作しデモンストライクの砲撃を天井目掛けて発射してしまう。


 青い光線は倉庫の天井に巨大な穴を空け、シャルトルーズは無垢なる刃の威力に頬を紅潮させた。


「まさか、本当に砲撃まで行えるとは――でも倉庫で埃を被っているよりは余程良いね。シャルトルーズ、使ってくれるかい?」

「はい、使います!」

「あとは細かい調整するためにテストをしようか」


 シャルトルーズは重量のあるデモンストライクを軽々と振り回し、砲撃の反動さえも完璧に吸収して見せた。



「ラスティ。シャルトルーズのについて」

「ああ、父さんの話を聞かせてくれ」

「……最低でも一トン以上と推定される握力、あの砲撃時でさえブレない安定した体幹、強度や出力は勿論、外皮に傷一つ見当たらない綺麗な肉体――いや、機体素体か」


 フラットウェルはシャルトルーズを見て、ラスティにある本を手渡す。


「つまり最初から厳しい環境での活動を想定し、ナノマシンによって自己修復する事を前提として作られている、とはいえ内部骨子の強度も尋常ではないだろうね、外皮系に自己修復機能があるのなら内部も同じ筈、あれだけ複雑な動作をする基幹システムなんて聞いた事がないが、さて……」


 ――それらを踏まえた上で、あれシャルトルーズの製造目的を推測するならば。

 エクシアやデュナメスに囲まれ嬉々として無垢なる刃を抱える少女を一瞥し、告げる。


「――戦闘用、か」

「そのとおりだ。気をつけろよ、ラスティ。彼女は危険だ」

「ああ、了解した」

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