第15話 覚えていてはいけない言葉

 今回は二十歳まで覚えていてはいけない言葉の話をします。とはいえ僕はこれらの言葉を二十歳まで覚えていましたけど、これが原因で悪いことが起こったとは思っていません。そりゃ生きていれば悪いことのひとつやふたつは起こりましたが、これから紹介する言葉との関係はないでしょう。


 僕が子どもの頃には、周りでは結構流行っていた言葉があります。紫鏡。地域によっては他に紫の鏡だったり、パープルミラーだったりするそうですが、その言葉を二十歳まで覚えていると不幸になるとか、呪われるとか。ですが、現実には特定の言葉を覚えていると不幸になる……だなんてことはありません。ご安心ください。少なくとも僕は今も元気に生きてます。


 それでも心配だという人も居るかもしれません。念のため、呪いの言葉に対するカウンターを教えておきます。水野温斗(ミズノヌクト)と言えば紫鏡の呪いは解除されます。白い水晶、ホワイトパワー、ピンクの鏡、などの言葉を覚えていると不幸にならないなんて方法もあるそうです。


 何度も言いますが紫鏡なんて言葉を覚えていても不幸にはなりません。この言葉事態には人を不幸にする力は無いのです。ただ、言葉というものは人を不安にさせる力は持っています。僕も、子どもの頃は紫鏡には結構不安にさせられてたんですよねえ。そういう意味では、紫鏡という言葉は負の力を備えているのでしょう。


 言葉には人を不安にさせる力があります。かつて二十世紀にはノストラダムスの大予言なんてものが流行りましたし、僕が知ってる創作物の中ですと『くしゃがら』だとか『ズンドコベロンチョ』などの意味が理解できないんだけど気になったり、不安になるような言葉が出てきたりもしました。


 紫鏡もノストラダムスの大予言も僕が例にあげた言葉も、その言葉事態に、どういう意味が備わっているのかが曖昧です。その曖昧さに僕は不安を感じます。人は意味の分からないものを恐れます。理解のできないものを恐れます。理解できないものに対する恐怖が、これらの言葉には結び付いているのでしょう。


 意味のない言葉に、覚えていると不幸になる。という、おまけをつける。そうすることで紫鏡のような呪いの言葉が生まれたのだと思います。このような呪いの言葉は、相手が覚えやすいほど、より強い効力を見込めます。紫鏡という呪いの本質は相手を不安にさせることです。作った人間も相手を殺せるなんて思ってないでしょう。ですから、この呪いに対しては不安に思わないことです。


 紫鏡なんて言葉は、知った人が不安にならなければ何の意味もない、何の力も持たない言葉なのですから。

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