私が語る時にそばにあるもの
たぬぴよ
序章
死は常に私の隣にいて、私に囁きかける。死にたい?死にたくない?そんなことをずっと。慣れてしまえばそれもまた心地よい音色で、うっとりとしながら死と生の狭間に横たわっているのもまたいい。
誰かになりたい、という感情を持ったのが八歳のころで、可愛くてちやほやされていたミホちゃんに憧れていたのだが、私がミホちゃんになったら、「私」はどこに行くのだろうか、と考えたのが死を意識する最初の時だった。存在の欠如。それは死というよりも消滅かもしれない。心の病気になってからは、消えたいと思ってばかりいた。そこまでに生きてきた履歴をリセットして、誰も痛まない、そんなことは出来ないとは知っているが、そう思ってしまうのは仕方ない。生きててごめんなさい、ではないが、生きていることに何も意味を見いだせなかった。
だが彼と出会った。最初の頃は消えたいを繰り返し、煙草を腕に押し付け、傷跡を増やしていった。しかし彼は時には怒り、時には泣きながら、それでも私の傍に居てくれた。そして私を優しく包んでくれた。
消えたい、という気持ちはあまりなくなった。彼の心に残りたい、という贅沢な望みを持ってしまったから。でも死にたい想いはつらつらと私を誘惑する。何故だろう。今が幸せだから?私に幸せを感じる資格があるのだろうか。幸せとは無縁の生き方をして、自分を殺して、いつも怯えて暮らしていた私が、こんなに素で居られるなんてことなんて今までは考えられなかった。家族の前でもそうだ。両親は厳しく、私はいい子であるようにという無言の圧があった。窮屈だった家を大学入学と同時に出て、私には輝ける未来があると思っていた。しかし心を病み、何度も実家に強制送還され、息苦しい日々を送っていた。そんな私がこんなに心安らかに過ごせて良いのだろうか。
そんな僥倖があるとしたら、もう少し生きていてもいいのかな、という思いと、もう充分幸せを享受したのだから死んでしまっても構わない、と、今日も幻聴が私を踊らせている。踊るのも悪くない。いずれにせよ、こんなに長く生きてきたのだから、死は怖いものではない。残された彼のことを想うと心は苦しくなるが。
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